今年3月のイングランド戦で代表デビューし、ここまで8試合出場・6得点を記録している21歳のヴェルナー。いかなる状況にも心乱すことなく、あのクローゼを彷彿とさせるゴールマシンぶりを披露している。 (C) Getty Images

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 スタジアム中を温かい声援が包み込んでいた。
 
「ティーモ・ヴェルナーーーー!!!」
 
 何度も何度も彼の名前が叫ばれ、大きな大きな拍手が送られ続けた。それは、ドイツ代表チームのために全力でプレーするひとりの若者を守ろうとしたファンからの、明確なメッセージだった。

 9月1日にプラハで行なわれたチェコ代表とのロシア・ワールドカップ欧州予選、ドイツは2-1で勝利したが、アウェーまで駆け付けたファンの一部による心ない行ないが、会場に異様な雰囲気をもたらしてしまった。この試合で先制ゴールを挙げたヴェルナーに対して、彼らは歓声ではなく、罵詈雑言を浴びせたのだ。
 
 要因と考えられているのは、ヴェルナーが犯したひとつの行為である。昨年12月のRBライプツィヒ対シャルケ戦で、彼は明らかなシミュレーションでPKを獲得。さらにそれを自分で決めたことで、他クラブのファンから怒りを買い続けている。
 
 ヴェルナーは後日、これに対して謝罪したが、ライプツィヒというクラブへの嫌悪と相まって、人々からはなかなか受け入れてもらえなかった。代表でのプレーを快く思っていないファンも、残念ながらいる。 
 
 サポートしてくれるはずのファンからブーイングを浴びたら、どんな選手でも心に大きな痛手を負うだろう。だが、ヴェルナーはファンへの文句は口にせず、ピッチ上で愚直になほど全力で走り、戦い続けることで、自分の思いを届けようとしていた。
 
 そんな彼を、仲間は支えた。チェコ戦後、代表チームは試合後に挨拶に行かないことを決断。DFマッツ・フンメルスは、チーム全員の思いを以下のように代弁していた。
 
「あのブーイングは、本当にひどい! 黙祷の時にも悪いマナーがあった。ヴェルナーは侮辱された。もちろん、加担してないファンには申し訳ない。でも我々は、自分たちがやっていることの意味を自覚していながら、サッカーを壊そうとする連中をスタジアムから遠ざけなければならない」(『ビルト』他各紙より)
 愛すべきチームに問題が起きた時、困難に陥った時に、助けとなるべく立ち上がるのが真のファンなのだろう。月曜日にシュツットガルトで行なわれたノルウェー戦では、試合前から彼らには力が溢れていた。
 
 試合前、「フェアでリスペクトのある応援をしよう!」と呼びかけられていた5万人以上のファンは、心を込めて、ピッチへメッセージを送った。俺たちがついている、俺たちが守ってみせる、と。
 
 声は間違いなく届いただろう。ヴェルナーは、ゴールというかたちでそれに応えてみせた。それも2つ! 素晴らしい動きで、ゴールネットを揺らしたのだ。
 
「代表でも、ゴールを積み重ねることができて嬉しい。また、ここでプレーできたのは特別だった。こんなに温かく迎え入れてもらえるなんて……。シュツットガルトは僕の故郷であり、ここで僕は大きくなったから、その意味は大きい。プレーで恩を返すことができて、2倍嬉しいよ」
 
 喜びの言葉が、各紙の紙面に躍った。
 
 代表監督ヨアヒム・レーブは、ヴェルナーの活躍に目を細めた。
 
「相手が困難に陥るプレーをしてくれる。ゴールへのコース取りが素晴らしく、スピードもある。彼を止めるのは非常に難しい。常に横に斜めへと動き、我々のコンビネーションサッカーに非常に合っている。彼の動きがあるから、守備陣からのパスも活きてくる。この調子でいくことを祈っている」
 
 ミロスラフ・クローゼが引退し、マリオ・ゴメスがベテランとなったドイツ代表では、FWの人材難が指摘され続けている。
 
 だが、ボールを引き出し、守備で汗をかき、チャンスメイクもできて、何より得点力が高いというストライカーの登場は、W杯連覇を狙うドイツにとって大きな希望となるだろう。そして、ヴェルナーを力強くバックアップしたファンにとっても……。
 
文:中野 吉之伴
 
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。