「地上10メートル以内」の生産現場を快適に、オムロンの工場改革

写真拡大

単に作業をアシストするのではなく、働く人の意欲を引き出す。世界屈指のセンシング技術を持つオムロンが目指すのは、人と機械が互いに高め合う工場だ。

今年4月、ドイツのハノーバーで開催された国際産業技術の見本市「Hannover Messe 2017」に、ひときわ多くの観衆を集めるブースがあった。

ブースの中央には緑色の卓球台が置かれ、ラケットを握った来場者は、オムロンが開発した卓球ロボット「フォルフェウス」と対戦できる。来場者がボールを打つと、フォルフェウスはその3次元位置と速度をセンサーで瞬時に計測し、ロボットアームを0.1ミリ単位で動かして正確に打ち返す。何度も続くラリーに、観衆から驚きの声が上がった。

「フォルフェウスは私たちオムロンが、いまあるFA(ファクトリーオートメーション)技術をもとに、近未来の人と機械の関係を体現するために作ったロボットです。3代目の機体には人工知能を搭載し、プレイヤーの特徴やボールの軌跡を学習することで、ラリーを続けるうちに人間が上達していく機能を持たせました」。コーポレートコミュニケーション部の横田有弘は言う。

グーグル傘下のディープマインドが開発した囲碁AI「Alpha GO」は、棋譜の静止画像データを大量に取り込むことで、短期間で世界トップの棋士に勝利するまでに成長した。フォルフェウスに搭載されたAIは、静止画よりはるかに情報量が多い「3次元の動画データ」を分析することで、自分自身だけでなく対戦相手の成長まで促す。

オムロンがフォルフェウスの先に目指すのは、AI搭載のマシーンが働く人の心の状態までも読み取り、より快適に働けるよう自然にサポートしてくれる工場環境だ。

「IoTやAI、ロボティクスを活用するインダストリー4.0の構想は、全世界の工場をクラウドでつないだり、街全体の中で工場を最適化したりすることが想定されています。それに対して我々オムロンが取り組むのは、あくまで人が働いている”地上10メートル以下の世界”、生産の現場を、いかに快適にするかです」

匠の技が誰にでもできるように

オムロンのFAにおけるコア技術は大きく分けて2つ。従来得意のセンシング技術と、工場の自動化に必要な各種機器を動かす「頭脳」の役割を果たす「プログラマブルコントローラ」という産業用コンピュータだ。

2011年に同社が開発した、片手に載るほどの大きさのコントローラ「NJシリーズ」では、工場のラインにつながれた数百のセンサーやモーター、ロボット、安全機器を、たった一つで制御できるようになった。コントローラには接続された各種機器の稼働データがリアルタイムに集積し、それを詳細に分析することで生産効率の向上や、不良品発生の防止につなげることができる。

「当社はこれまでも業界トップのFA機器のラインナップを揃えていましたが、NJシリーズの開発までは、当社で扱うFA機器はバラバラに動いていました。しかし汎用性の高い、高機能なコントローラができたことで、工場内の全てのデータを一つにつなげて工場内のFA機器に共有させ、熟練工に頼っていた匠の技を誰もが簡単にできるようになったのです」

そうした「人と機械が融和する工場」を実現するために、同社は近年、産業用ロボットやセンサーの会社を次々買収している。今年7月には国内の産業用カメラメーカーで高い技術力を持つセンテック(神奈川県海老名市)を傘下に収め、さらに今後の4年間で、M&Aに1000億〜2000億円を投じる方針を決定した。

いま世界中のモノづくりの現場で深刻な問題となっているのが「人材の不足」だ。中国をはじめアジア各国の人件費が高騰するなか、どの企業も工場で働く技術者の確保に頭を悩ませている。オムロンはその解決策として、AIとIoTによって人間と融和したマシンが熟練工に代わって高度な作業を行う未来を志向する。

その取り組みのモデルとするのが、自社のオムロン草津工場だ。先のNJシリーズの主力生産拠点である同工場では、15年に買収したアメリカの産業用ロボットメーカー、アデプトテクノロジーと共同開発したロボットが、人間に交ざって通路を行き来し、使用済みの部品パネルを回収する。ロボットにはセンサーが組み込まれ、人が前にいれば立ち止まって回避し、電池残量が少なくなると、勝手に充電エリアに行って充電を行う。

草津工場には毎日のように日本全国のメーカーの工場長や技術者が見学に訪れ、自社のFA化について相談していくという。

「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」というのはオムロン創業者の立石一真の理念だが、AIとIoTがロボットと結びつくことで、その目標は現実となりつつある。

「いま人間が行っている単純作業をロボットがするようになれば、人間はよりクリエイティブな仕事ができるようになるはずです」と、横田。

草津工場の工場長は自分たちが将来目指したい工場の姿として、「スポーツジムに通うような感覚で工場に来て、健康になって帰っていくような生産現場を実現したい」と話しているという。