『銀翼のイカロス』(池井戸潤/文藝春秋)

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 2013年に一大ブームとなった「半沢直樹」。銀行の内外に現れる敵と戦う半沢の熱い姿と、「やられたら、やり返す。倍返しだ」の名台詞は、ドラマ版で多くの人々の心を震わせただけでなく、原作者である池井戸潤氏の小説も大きな人気を博した。そして、今年、あの名シリーズの第4巻『銀翼のイカロス』(文藝春秋)がついに文庫化された。ドラマで描かれたその後の世界を描いた『ロスジェネの逆襲』後の世界、出向先から東京第一銀行本社に戻った半沢の新たな戦いを描き出している。ドラマで描かれたその後の世界の半沢の奮闘。「倍返し」をするあの爽快感を再び味わってみてはいかがだろうか。

 本作では、半沢は、中野渡頭取命令で他部署が担当していた民間航空会社・帝国航空を任される。この航空会社の業績は悪化の一途を辿っており、再建計画はすでに二度下方修正を行った。半沢は、その修正再建案のフォローを依頼されたのだ。だが、旧政権では了承された再建案も、政権が他党に移ると、取り下げられてしまう。その上、国土交通大臣は、新政権としてのイメージ政略のためだけに「帝国航空再生タスクフォース」を設立。東京中央銀行に対して500 億円もの債権放棄を求めてきたのだった。

 この作品は未だ「半沢直樹」シリーズに触れたことのない人でも十分楽しめるが、ドラマを見た者には、どうしても、半沢直樹の台詞は堺雅人、金融庁の黒崎駿一検査官の台詞は片岡愛之助、中野渡頭取の台詞は北王路欣也で再生されてしまう。ドラマの続きを見られるような高揚感。ああ、はやくこの作品も映像化されてほしい。この場面は映像化されたらどう描かれるのだろうと想像しながら読み進めていくのも楽しい。

 そして、読めば読むほど、半沢の姿勢に感嘆させられる。頭取からの命令で担当させられた難題。行内の派閥争い。元担当からの僻み。破綻の危機だというのに帝国航空には焦りがないし、おまけに国家権力まで立ちはだかってくる。半沢が悪いのではないのに、元担当の仕事を責められ、尻拭いばかり。読者は思わず、その無理難題に胃が痛い心持ちがする。しかし、それでも、半沢は決して腐らない。彼は矜持を持って仕事を進める。おかしいと思うことは指摘し、正しいと思う道を行く。半沢は、サラリーマンの星だ。現実の出来事を元にしたであろう舞台設定の生々しいほどのリアリティのなかで、もがき続ける半沢の姿は、私たちの目に、いきいきと輝いてみえる。

こいつは本当に生意気でなあ。上司だろうが、スジが通らないことは、きっちりかっきり論破してたもんな。とんでもねえ奴が銀行に入ってきやがったと、オレは密かに喜んでたんだ

 半沢は一人ではない。頼れる部下がいる。尊敬できる上司がいる。一方で、どうしようもない連中がいるのも事実だが、胃が痛くなる前半を切り抜けば、終盤の逆転劇に向け、物語は加速していく。この疾走感は半沢直樹でしか味わえない。仕事とはどうこなすべきなのか。プライドとはどう持つべきなのか。この本を読めば、仕事へのやる気が自然と増しそうな気がする。「やられたら、倍返しだ」という思いを胸のうちに秘めながら、半沢直樹のように、正しいと思う道を淡々と着実に進みたい。

文=アサトーミナミ