9月3日のレッドソックス戦で、2点本塁打を放ったヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手。アメリカンリーグの本塁打部門でトップを走っている期待の若手だ。米国スポーツ界ではヤンキースに限らず、災害支援などのときには、そのスポーツやチームの人気が広く素早く活用される(写真:AP/アフロ)

メジャーリーグ球団のニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックス。同じアメリカンリーグ東地区に所属するこの2球団は、メジャーリーグの長い歴史において、つねに「因縁のライバル関係である」と言われてきた。

きっかけは、1918年までに15回行われたワールドシリーズで5回もチャンピオンに輝いていた常勝軍団レッドソックスが、1920年にスター選手ベーブ・ルースをヤンキースに放出したことだ。

ヤンキースはそれ以降、現在まで27回チャンピオンに輝いているが、レッドソックスはその後何度もチャンピオンになる寸前で敗退し、2004年までの86年間その座を奪回することができなかった。その間、レッドソックスファンは「ベーブ・ルースの呪いだ」と悔しがり、ヤンキースファンはいつもその負けを嘲笑った。

ヤンキースには過去に、松井秀喜、黒田博樹、イチローらが在籍し、現在も田中将大が所属。今シーズン、レッドソックスでプレーしている日本人選手はいないが、かつて松坂大輔、岡島秀樹、上原浩治らが所属し大活躍を見せた。ピンストライプのユニフォームや、真っ赤な「B」のロゴマークは、日本の野球ファンにもおなじみではないだろうか。

日本で例えれば、「巨人」と「阪神」の関係

この2球団の共通点は、とにかく熱心なファンが多いことである。ここ数年は同じニューヨークを本拠地とするメッツのファンが増えているとも言われているが、やはりヤンキースファンが抱くワールドチャンピオン27回の“誇り”は根強い。一方、レッドソックスファンの熱狂ぶりも大変有名であり、2003年からの10年で794試合連続チケット完売を記録したほどだ。

日本のプロ野球に例えるならば、ヤンキースが読売ジャイアンツ、レッドソックスが阪神タイガースに似ているとよく言われる。球団の歴史やイメージ、ファンの忠誠心などを考えると、その例えはぴったりかもしれない。

そんな因縁の2球団が今、熾烈な優勝争いを繰り広げている。日本時間9月6日現在、アメリカンリーグ東地区首位のレッドソックスと2位ヤンキースのゲーム差は3.5。ヤンキースは現在ワイルドカード(プレーオフ追加枠)1位で、地区優勝ができなくてもプレーオフ進出の可能性があるため、両球団のファンはまだ気が休まらない状況が続いている。

だが、しのぎを削るライバル同士がグラウンドの外では、がっちり手を組むことになった。

きっかけは、8月に米国テキサス州を襲った大型ハリケーン「ハービー」だ。テキサス州湾岸部で猛威を振るい、死者は50人を超え、3万人超が避難。物的被害は2005年8月のハリケーン「カトリーナ」(1600億ドル)を上回る規模になるとの予測が出ている。

9月3日の試合前、彼らは共同で声明文をリリース。この日のレッドソックス対ヤンキース戦で両チームの選手・コーチらが着用したユニフォームなどをサイン入りでオークションに出品し、収益を被災者の支援に充てることを発表したのだ。

その日のプレーボール直前には、ヤンキースのジョー・ジラルディ監督とレッドソックスのジョン・ファレル監督がホームベース付近でテキサスの州旗をともに掲げ、支援のために1つになることを宣言。また、それぞれの公式フェイスブックで、ヤンキースは「われわれはグラウンドではライバルだが、ハービーの被災者をともに支援する」、レッドソックスは「“ライバル関係”はいったん忘れて、被災者支援のためにヤンキースと力を合わせる」とコメントした。

4年前にもグラウンド外で共闘したライバル

実は、彼らは過去にも同じように、グラウンドの外で強い結びつきを見せたことがある。4年前に、ボストンで爆弾テロが起きた時のことだ。

2013年4月15日、ボストンマラソンのゴール付近で爆弾テロが発生。一般市民3人が犠牲となり、282人が負傷した。

逃走していた犯人が逮捕された4月19日まではボストン市内に外出禁止令が敷かれ、スポーツイベント等はすべて中止(または延期)となり、レッドソックスが本拠地フェンウェイパークに戻ってきたのは5日後の4月20日だった。その間レッドソックスはクリーブランド遠征だったため、フェンウェイパークでは4月19日の試合のみ延期となり、21日にダブルヘッダーが行われた。

予期せぬ緊急事態が起きたことにより、ボストン市民は不安に打ちひしがれ、野球をはじめとするエンターテインメントを楽しむ機会も奪われた。そんな時、敵地ニューヨークでヤンキースがアクションを起こす。

テロの翌日の試合前、ヤンキース公式ツイッターが「私たちの心はボストンとともにある。今夜は黙禱(もくとう)を行い、3回終了後には『スイート・キャロライン』を流します」とツイート。この曲はレッドソックスの伝統的テーマソングであり、フェンウェイパークでは毎試合ファンによる大合唱がお約束だ。

長きにわたる因縁を考えると、ヤンキースタジアムでこの曲が流れるのは異例中の異例。そのツイートに対し、レッドソックス公式ツイッターは「ありがとう! お心遣いに感謝します」と返信した。

3回終了後、宣言どおりヤンキースタジアムに『スイート・キャロライン』が響き渡ると、ヤンキースファンの多くが、いつもレッドソックスファンがフェンウェイパークでやるのと同じように、サビの部分で定番の掛け声を張り上げた。かつてテロを経験したニューヨーカーたちだからこそ、ボストン市民の心情を深く理解できたのかもしれない。

そして、ボストンマラソンの爆弾テロの後、レッドソックスは大々的なチャリティ活動を展開した。

その結果、チャリティグッズの収益約120万ドル、チャリティオークションの収益約4万ドル、球団からの寄付60万ドル、メジャーリーグ機構・選手会からの寄付35万ドル、合わせて約219万ドル(当時のレートで約2億1900万円)が、わずか1カ月で集まった。

その収益はすべて、テロの犠牲者の遺族や負傷者の支援に充てられている。レッドソックスはテロ発生から試合再開までのたった5日間で、チャリティグッズのデザイン、製作、搬入までのプロセスを滞りなく行った。

スポーツの価値は、グラウンドの外でも発揮できる

今回のハリケーンの被災者支援も、爆弾テロ直後の支援も、まず注目すべきはその迅速さである。甚大な被害により緊急支援が必要な際には、プロスポーツが率先して支援活動を呼びかけることにより、チームのフォロワーであるファンを一気に巻き込むことができる。

「贔屓のチームが支援しているなら」「あの選手が参加しているなら」と寄付ボタンをクリックする人も少なくはないだろう。彼らがいつも素早くアクションを起こすのは、その影響力を自覚しているからこそでもある。

そして何より、今回は因縁のライバル関係であるヤンキースとレッドソックスがタッグを組むことに心を動かされたファンも多いはずだ。日本で言えば、国内で起きた大きな災害に対し、読売ジャイアンツと阪神タイガースが率先して力を合わせるようなもの。そのようなことがもし日本で実現したら、野球ファン以外からも注目を集めることとなり、大きな支援につながる可能性は高い。

プロスポーツの醍醐味は、選手がグラウンドで見せるスーパープレーにあるのかもしれない。しかし、この2球団のタッグは、スポーツの価値がプレーだけではないことを改めて証明してくれたのではないだろうか。