脳の専門家が脳科学の見地から大人の勉強法をお伝えします(写真:maroke / PIXTA)

大人の勉強、大事なのはどっち?

資格試験に向けて勉強をしている、一卵性双生児のAさん(35歳)とBさん(35歳)。同じ問題集を使い、同じ時間勉強をしているのに、Aさんはいつもトップ、Bさんの成績は一向に振るいません。2人の何が違うのでしょうか?

2人の違いは、「勉強法」。Bさんが子どもの頃と同じ勉強の仕方をしていたのに対し、Aさんは勉強方法自体をガラリと変えていました。勉強法も「大人用」にシフトチェンジしていたのです。

私は脳の専門家として、日々たくさんの人の脳と向き合っています。私の専門は脳の画像診断で、MRIという磁気を使った装置で人々の脳の画像を取り、それをデータとして蓄積し解析をしています。

これまでに5歳の子どもから80歳を超えるお年寄りまで、16万人もの方の画像を見てきました。ここで蓄積されたデータとその他の情報(「遺伝子」情報、「認知力テスト」の結果、「生活習慣」に関する情報など)の情報を比較していく中で、子どもと大人の脳の違い、私たちの脳が持つ「クセ」のようなものもわかるようになってきました。

大人、具体的には10代半ばごろからは、勉強法を変えなければなりません。それはなぜでしょうか?

答えは簡単です。「大人と子どもでは、脳の機能が違う」からです。私たちの体が成長するように、脳も年齢に従って変化をしていきます。ですから、7歳の自分と35歳の自分の脳では、ずいぶんと内容が違っているのです。それは、判断力、思考力といったことにとどまらず、勉強方法や暗記方法にまで及びます。

ところが、多くの方は学生時代に身に付けたのと同じ勉強の仕方で、目の前の学習に対処しようとしてしまいます。これは言ってみれば、子ども用のラケットで錦織圭のスマッシュを受けようとしているようなもの。太刀打ちできないのも無理はありません。

大人には、大人用の勉強法がある

では、大人の勉強法とは、具体的にどのようなものなのでしょうか? もちろんその理由は脳科学の見地からご説明いたします。

Q. 予習 or 復習。脳に定着しやすいのはどっち?

答えは「予習」です。

脳には「ファミリアリティ」という性質があります。これは簡単にいえば「知っているもの=好きなもの」 と認識する性質です。予習をしておくと、脳は「それを知っている」と判断し、「好き嫌い」を感じる脳の部位「扁桃体」に「好き」という感情が湧き起こります。

「扁桃体」は、記憶をつかさどる「海馬」と近く、両者は連動して活動しています(fMRI による)。 そのため、脳にとっては「知っているもの=好きなもの=覚えやすい」となるのです。そのため予習をしっかりすると、授業本番の学習効果が上がるだけでなく、脳にも定着しやすくなるのです。

なお、予習時間は5分程度でも効果は期待できます。忙しい大人には、予習・復習をたっぷりする時間はありませんが、最低でも5分の予習時間を持つことで、勉強効率がぐっと上がるのは間違いありません。

Q.英単語の暗記。「起きてすぐ」or「寝る直前」どっちがいい?

正解は「寝る直前」です。

暗記した内容は、睡眠時間の間に記憶として定着します。脳は寝ている間に、その日のうちに得た情報を整理し、大切な情報を長期記憶に移動するのです。この記憶のメカニズムは大人に限った話ではありませんが、機械的記憶の能力が下がってきている大人は、特に意識したいポイントです。

しかし、ただ寝る前に暗記すればいい、というわけではありません。大切なのは、「学習後は→何もせず、すぐに寝る」ということ! 暗記と睡眠の間に、少しでも違うことをしてしまうと、「記憶の攪乱」が起きてしまいます。これは、たとえば暗記した英単語と、寝る前に見たスマホの画面の内容が、脳の中で混ざり合う現象です。これが記憶の効率を低下させるのです。

「寝る直前の暗記もの」が、脳には効果的ですが、暗記した後はなにもせずに布団に直行してください。ちなみに、暗記時間は長くとる必要はありません。10分もあれば十分です。

Q. 反復練習 or 語呂合わせ 脳の効率がいいのはどっち?

大人にいいのは、「語呂合わせ」です。

子どもの頃は「神童」と呼ばれていたのに……という方、周りにいませんか? 自分がそうだった、という方もいるかもしれません。子どもの脳が得意としているのは、「機械的記憶」。これはまるで「コピペ(コピー・アンド・ペースト)」するかのように、物事を暗記する能力です。

ですから子どもの頃は、どんなことでもどんどん記憶できてしまいます。モンスターの名前をソラで言える子、昆虫にやたらと詳しい子、英語の歌を1回聞いただけで歌う子。これらは皆、機械的記憶のなせる技です(ですから親は「うちの子は天才!かも」と思ってしまうのですね)。

大人の脳は「とにかく全部覚える」というような力技を使わなくなります。もっと効率よく、物事を暗記しようと試みるのです。大人の脳は省エネなのですね(実際子どもの脳は、大人の2倍ほどのエネルギーが必要です)。

「連合記憶」を活用する


大人の脳が好んで使うのが「連合記憶」というもの。これは何かと何かを関連づけて覚える方法です。関連づけられるようになるためには、脳にある程度の知識がストックされる必要があります。機械的暗記から連合記憶に変わるのは、10代の半ばくらい。ですから、大学受験のときにはもう、連合記憶の活用を始めるのがいいのです。

語呂合わせは連合記憶を利用するうまいやり方です。「794(鳴くよ)うぐいす平安京」「1467(人の世むな)し、応仁の乱」。このような歴史の年号だけでなく、あらゆる暗記もので語呂合わせができないか、工夫してみるといいですね。私は英単語も語呂合わせで覚えました(笑)。数十年たった今でも忘れないのは、連合記憶を活用したからなのです。

大人には、大人用の勉強法があります。そしてそれを知ることは、今からでも遅くありません。なぜなら、脳は使い始めたその日、その瞬間から成長し始めるものだからです。あなたがあきらめることさえしなければ、脳の成長に終わりはないのです。

(構成:黒坂真由子)