郷愁を誘う風景を緻密に描いた日本画家、不染鉄(ふせんてつ)(1891〜1976年)の特別展「没後40年 幻の画家 不染鉄」が9日から、奈良市の県立美術館で開催される。

 代表作や新発見の作品を含む絵画を中心に計約180件を展示。21年ぶりの回顧展で、各地を転々としたために不明な点も多いこの画家の魅力と足跡をたどる貴重な展観となる。11月5日まで。

 不染鉄は東京の寺に生まれたが、画家を志した。20代前半には伊豆大島に渡り数年間、漁師などをして暮らした後、京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大)を首席で卒業。高い評価を受け、帝展などで活躍したが、戦後は画壇を離れ、奈良で創作を続けた。

 特別展では、作品を「郷愁の家」や「憧憬の山水」「聖なる塔・富士」「孤高の海」「回想の風景」とのテーマに分けて紹介。展示品のうち、代表作の「山海図絵(伊豆の追憶)」(木下美術館蔵)は伊豆大島から見た富士山を頂点に太平洋から山里、日本海へと鳥のような視点でとらえており、海の魚まで描き込まれている。自然と人間の営みに温かなまなざしを向けた傑作という。

 「いちょう」(個人蔵)は木のそばに地蔵も描かれ、落ち葉が舞って一面が覆われる様子は極楽浄土のような光があふれている。また、「薬師寺東塔之図」(源覺寺蔵)は薬師寺東塔が町を守護するようで、曼荼羅(まんだら)を思わせる。このほか、最近見つかった「海村」(個人蔵)なども出展される。

 同館では「不染鉄の作品は『郷愁』という言葉が合うのではないか。奈良ゆかりで、個性の強い画家の作品を鑑賞していただきたい」としている。

 開館は午前9時〜午後5時で、今月11、19、25日と10月2日、10日、16日は休館。観覧料は一般800円、高校・大学生600円、小・中学生400円。問い合わせは県立美術館(電)0742・23・3968。