残暑の厳しい日に、カレーを食べたいと思う人は多いことだろう(写真:NPDstock / PIXTA)

今年の夏は、猛暑といわれていたのがウソのように、東京で8月1日から21日まで連続で降雨になった。これは観測史上2位の記録だ。夏らしく晴れ渡った空を見る機会は少なかったが、まだ残暑を感じる日もあるだろう。そんなときにカレーを食べたくなる人は多いと思うが、そこには理由がある。

たくさんのスパイスを活用した料理であるカレーには、暑さで減退した食欲を増進させてくれる働きがあるからだ。カレーを黄色く色づけるターメリック(ウコン)は、肝臓の働きを助ける。その他のスパイスのクミン、コリアンダー、クローブなどは、胃の働きを活性化する効果がある。

そして、スパイスには体を温める効果がある。とくに唐辛子に含まれるカプサイシンの発汗促進作用で、体が熱くなり汗が吹き出すのは広く知られている。なぜ、体が熱くなるのに暑いさなかに食べるのか。これは、打ち水の原理と同じで、汗が蒸発する際に肌の熱を下げてくれるからだ。だから食後は体が一時的に熱くなるが、その後は清涼感が持続する。

日本では一年中、カレーが良く食べられている

カレーは「国民食」と言える料理だ。農林水産省などの統計からヱスビー食品が算出したところによると、日本人は一年間に約76回カレーを食べていることになるという。

実はカレーは、夏に限らず、年間を通じて良く食べられている。メーカーやスーパーも食欲の落ちる夏だからこそ、プロモーションを展開する。「夏と言えばカレー」というイメージを定着させているからか、少しだけカレー・ルーの売り上げが他の月よりも高くなっているが、その程度の差だ。総務省による「家計調査」からもわかるが、1世帯あたりの品目別支出で「カレールウ」はどの季節も安定的に購入されている。

筆者は食べ歩きをするとき、せっかくこの街まで遠征したのだからと、その近辺で複数の店を「はしご」する。ラーメンファンの間では、「連食」とも呼ばれる行動だ。そのようにしていくつもの街を食べ歩きしてきた。今回、東京でカレーが美味しい街がどこかをテーマにしたのは、カレーの場合、筆者なりの仮説が1つあり、それを確かめてみたいという思いがあったからだ。

それは、東京西部の街、荻窪は東京で屈指の「カレー激戦区」なのではないか、ということだ。荻窪は東京だけでなく、全国1位に輝く食べログ4点台のお店がある。そして筆者自身、何度も荻窪界隈に通い、カレーの連食をしたからである。最近では、メディアでも少しずつ特集が組まれている。

そこで、前回(東京で「食べログ」点数が最高な街はどこか)と同様、飲食店情報サービス「食べログ」(カカクコムが運営)の掲載情報をベースに調べてみた。

具体的な調査方法は次のとおり。食べログのトップページから、「都道府県から探す」の中で「注目エリア」をクリックしてみると、「東京都内」で28のエリアが表示される。

東京で「カレー」食べログ点数が高い街

今回は、ランキング作成の前提となる区分けを2段階で考えてみた。まず、第一に食べログで「カレー」ジャンルで東京の上位1200店の情報を収集。なぜ1200店かというと、食べログでは「カレー」のほか「寿司」「とんかつ」など1つのカテゴリーごとに1ページ20店掲載されていて、それが60ページあるので、収集できる店舗数の上限だからだ。

その中で、東京都でカレー店掲載数が多い10エリアを抽出し、その平均点を算出した。


(出所)「食べログ」掲載データ(2017年7月)ランキング上位1200店を基に筆者作成

1位は神保町。ひざを打って納得する人が多いのではないだろうか。神保町と言えば古書店と同時に、カレー店が多いことでも有名だ。一説には、買った本をすぐに片手で読みながらでも、カレーの場合はスプーン1本で食べられるため、提供する店が多くなったともいわれる。

そもそも、神保町は戦前から学生街として栄えており、カフェが多かった。そして、カフェが手軽に提供する料理として、その中にはカレーもメニューにあったという経緯がある。そのため、老舗のカレー店が数多い街である。カレーの種類ではいわゆる欧風カレーを提供するお店が多かった。それでも、個々の店には特徴的な違いがあり、繁栄店が連なっている。

ほぼ同率で2位に入ったのは、新橋。ビジネスパーソンが短い昼休みの時間に食べるのに適しているからだろうか。庶民的な雰囲気でオーダーから提供時間の短い「カレーライス」の店が多いのも、うなずける。この街で提供までに時間を要する凝ったカレーの店を出すのは、やや困難かもしれない。

3位の下北沢は、サブカルチャーの聖地で古着屋や小劇場も多い「若者の街」だ。車の入らない路地が多いため、歩いて買い物に散策する人が多い。新しいお店も多いためか、カレーライスとスープカレーを提供するお店が、ほぼ同数であった。

この3つの街を比較するだけでも、その成り立ちを反映して、いまもそれぞれ特徴あるカレーが提供されていることがわかる。

筆者は荻窪が上位に入るかと思っていたが、結果は予想とは違っていた。先述したように、荻窪は全国1位に輝く食べログ4点台のお店もあるが、荻窪だけに限ると、いかんせん店の数が少なかったからだ。隣の西荻窪と合わせれば、それなりの店数になる。だから、筆者が行ってきたようなカレーの連食も可能だということなのだろう。

荻窪は戦争で空襲の被害が小さかったことから、昭和の面影を残すレトロな建物が多数残っている。西荻窪には、アンティーク店も多い。そのため、昔ながらの洋食屋の味や特徴あるカレーが、街を訪れる人にはよく合うのかもしれない。

同様のことが、銀座と東銀座にも当てはまる。東銀座には、メディアでも有名な日本最古のインド料理レストランがあるが、この近辺は食べログでは複数のエリアに分割されているために圏内の店舗数が少なく、ランク外になってしまった。

神保町をカレー店数で上回る意外な街

なお、今回行った1200店の集計において、神保町よりも池袋が「カレー」ジャンルに掲載されている店舗数では多かった。いままで、筆者には池袋にカレーのイメージは薄かったので、意外だった。

池袋のカレー店の中で一番多いジャンルは、タイカレー店であった。食べログでカレー全体のジャンル分けは、カレーライス、欧風カレー、インドカレー、タイカレー、スープカレー、カレー(その他)となっていた。この6つのジャンルだけで比較すると、やはりカレーライスが一番多かった。


(出所)「食べログ」掲載データ(2017年7月)ランキング上位1200店を基に筆者作成。店舗は扱うジャンルの複数選択が可能

最近はオリジナルで特徴があるカレー店も出店が増えているためか、カレー(その他)が3位につけている。インド、タイカレー以外にも、東南アジアの国々のカレー店もあるのが、ここに入っているからであろう。

スープカレーが少ないのは、北海道で生まれて東京に来たという経緯と、ほかのメニューがない専門店が多いからで、複数選択をすることがあまりないからだ。


グーグルで「カレー 食べログ」と検索して出てきた食べログの説明文には、「お探しのお店は東京に多く、特にカレーライスのお店が多いです」と書かれていた。

実際に食べログで全国のカレー店1200店ランキングを見てみると、都道府県の内訳で東京が約50%を占めている。

「カレーで有名な街」ができていく仕組み

東京の中でも、ランキング上位に入る街には多くのカレー店が集まっている。こうした、同業種の商業集積地の代表例としては、パソコンや家電、アニメの街である秋葉原が例としてわかりやすい。

その街の中では商品やサービスが比較できる“競争”と、消費者がその街に行くことで確実に目的を満たせるが故の“依存”の関係が生まれる。同じようにカレーの場合もランキング上位の街には、こうしてカレー目当ての人が通うようになり、カレー店もまた増えていく。

ただ、そうした地域では店舗間の競争が通常よりも激しくなる。カレー店を新規出店するための初期投資額は、カウンター10席程度の店舗でも1000万円が最低ラインだ。新規参入して人気店の地位を勝ち得るためには、すでにある店を比較し、安易に同系統になってしまわないことが必要だろう。

最後に、もっとカレーを楽しめるようになるトリビアを3つほど。

まず、インドカレーのナンは、インドではポピュラーではない。ナンは精製された小麦粉で作るため、インドでは高級品になる。来日したインド人が、日本で初めてナンを食べることもある。また、本場のインドカレーには小麦粉は使われない。

次に、インドカレーを作っている料理人や、インド料理を出すレストランのスタッフには、実はネパール人が多い。そうは言っても、インドで働いていた経験を持つネパール人コックも多いようで、インド料理としての味は保障されている。

最後に、一晩寝かしたカレーが美味しい理由は、ジャガイモなど野菜が溶けてコクが増し粘度が高くなり口当たりがよくなるから。うまみ成分が深まり、味が変わり美味しくなった訳ではない。カレールウを手掛けるグリコのサイトでもそう説明されている。

インドからイギリスにわたり、そして明治時代に日本に来たのがカレーだ。それから150年、日本で独自で進化した国民食、カレーは老若男女、誰からにも愛されている。甘口から辛口まで、バラエティに富んでいる。入れる具材もさまざまだ。最近は、ご飯でダムを模した壁を作るダムカレーや中華料理店が提供する中華風カレーもある。カレーはこれからも進化し続けていくことであろう。

それぞれの街ごとに行われるカレー・フェスティバルも、年々、参加者が増え、多様性を秘めている。ぜひとも、新しいカレーの魅力探しに、スパイスの香りに誘われていろんな街を訪れてみてほしい。