親離れ子離れがテーマのドラマですが、自分の母親との関係に葛藤を抱えている人は、黒木瞳演じるママの毒母っぷりに、心がザワザワするようです。

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過保護のカホコ」のママに焦点を当ててみる

両親から溺愛されて育てられた純粋培養の箱入り娘が、ひとりの青年との出会いをきっかけに成長していくというストーリーの『過保護のカホコ』。親離れ子離れがテーマのドラマですが、自分の母親に対して複雑な思いを抱えている子育て中のお母さんは、見ていて心がザワザワするようです。

黒木瞳演じるママの言動に焦点を当てながら、母娘葛藤について考えます(ネタバレあり)。

過保護という支配

カホコは、毎朝ママに起こしてもらい、お弁当も作ってもらい、着ていく服もママに選んでもらっていました。自分で選んだ服も好きになった相手もママに全否定される。ママの手の中にいる間は可愛がってもらえるけれど、ママと違う意見を持つことは許されない。

そんなカホコが初めてママに口答えする第3話で、ママはカホコにこう言っています。「カホコはママの言う通りにしていればいいの!」

これは「支配」です。

自立に向かうカホコをあの手この手で引き留めようとするママの子離れのできなさは、このままいくと、深刻な母娘の断絶をもたらす危険性が高くてヒヤヒヤします。

「私のように生きなさい」

ママの言う通りに書いたエントリーシートで20社以上落とされているカホコは、施設で育った苦労人の麦野君と出会い、「仕事」についての価値観を変えていきます。愛されるだけの存在ではなく、人を幸せにするために働きたいという思いを持ち始めたカホコに、ママはこう言います。

「だったら、花嫁修業して専業主婦になればいいじゃない。家族を幸せにするのもとてもステキな仕事よ。そう思わない? そう思うよね」

自分が家族を幸せにしていると疑わないところもお見事ですが、娘の就職活動に口を出し、学生課や職場見学にも同行し、そういう自分が娘の邪魔をしているとは思ってもいない母。そして「私のような、専業主婦」を勧める母。これまた毒が満載です。

娘のことは全て把握しておきたい。ママはそれが愛情だと真剣に思っているのでしょう。娘が自分と同じ道を歩めば、自分はいつまでも娘の上に立てるわけです。また、自分の生き方を娘に肯定してもらった気持ちにもなれるでしょう。

「私のように生きなさい。但し、私より幸せになってはいけない」これが、毒母が無意識に娘に送り続けるメッセージです。

罪悪感を植え付けられる娘たち

カホコの自立宣言の直後、ママは家出をします。「あーそう。それなら今すぐ全部自分でやってみなさいよ」ということです。心配した娘から送られてくるLINEのメッセージも全て未読無視。ものすごい怒りの表現です。

母と娘で、娘が幼かった頃のビデオを見るのが日課というのもキモチワルイですが、そこには、ママが娘にとって、とても大きな存在だった時代への郷愁があるのでしょう。実際、実家で妹たちと昔話をするシーンで、カホコのママは、誰からも愛されないと思っていた自分が、娘に必要とされ愛されることで自分を肯定できたと語ります。

そして、それをこっそり聞いていたカホコは、自分がママのことを知ろうとしていなかったと謝ります。涙涙で母と娘がお互いの愛情を確認する感動的なシーンとなっていますが、こんなふうに、娘に「罪悪感」を抱かせるところも、毒母の特徴のひとつです。

多くの親は、子どもから聞かれなくても、自分が子どもと同じ年頃の時、何を考え何を感じてきたか、折に触れて話していると思います。カホコのママは、いつまでも娘が自分の庇護が必要な子どもであってほしいと思っているから、弱さや脆さを抱えたひとりの人間として向き合おうとするのではなく、女王様(親)として君臨してきたのではないでしょうか。

ちいさな子どもは無条件に親を愛します。しかし、思春期を迎えるとそうもいかなくなる。そこで、身の回りのことを「してあげる」ことで、自分に依存させ、必要とされることで自己肯定感を得られる時間を長引かそうとするのが、過保護です。

自分を頼ってもらえなくなるさみしさは、親自身が処理すべき問題です。なのに、子どもが親から自立しようとし、自分の思い通りにならなくなった時、まるで自分が被害者のように振る舞うのは、子どもが離れていくと親としての自分が存在価値を失うという恐怖にとらわれているからです。

このような、子どもが親に感じる小さな違和感や息苦しさは、放っておくと積み重なり、極端な拒絶をしないと親と距離を置けなくなります。

親離れと子離れ

親離れと子離れは、子どもの成長に伴い、少しずつ進んでいくものですが、カホコに限らず、子どもの親離れが先行することの方が多く、また、自然に進む場合、その方がいいようです。

まだ親が必要な時期に、親がサッサと子離れしてしまうと、子どもは急いで大人になる必要が出てきてしまい、「十分に愛されなかった」という思いを抱えることに繋がりかねないからです。

「子育て」というと、親が子どもを自分の力で育てるというイメージに近いですが、実際には、子どもの育ちを親が見守りサポートするのが子育てです。

子どもがちいさいうちは、生活習慣や食事のマナー、トイレトレーニングなど、適切な時期に親からの働きかけが必要なものもありますが、立つのも走るのも喋るのも、子どもの中で十分に準備ができた時に突然始まります。友達作りも、初恋も。子どもにプレッシャーをかけすぎず、妨害せず、子どもが自ら育っていくペースを乱さないことがとても大切です。

子育てのゴールは、子どもが自分に必要な人間関係を自ら築き、親がいなくても自分で生きていけるようになることです。ですから、「この子には(まだ)無理」と思って、先にやってあげてしまっていることがないか、時々見直してみましょう。

そして、子どもの親離れのペースに応じて、自分の趣味や仕事、人間関係を増やしていきましょう。子どもが小学校に入ったとき、中学校に入ったとき、高校・大学への進学、子どもに恋人ができたとき、子どもが家を出るとき、子どもが結婚したとき……。子離れを段階的に進めていけるよう、心の準備もしておきましょう。

なお、『過保護のカホコ』は、『家政婦のミタ』を手がけた脚本家の遊川和彦氏と大平太プロデューサーのコンビによるドラマです。『家政婦のミタ』では、松嶋菜々子演じる家政婦が、依頼主の家族に対し「それはあなたが決めることです」と突っぱねるシーンが何度もありました。

親子の間でも、どこまでが自分の領域で、どこから先が相手の領域なのか、それを意識していくことが大切です。
(文:福田 由紀子)