ハリルホジッチ監督は就任当初から一貫して「デュエル」の重要性を説き、選手たちにフィジカルの向上を求めてきた。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 ロシア・ワールドカップのアジア最終予選で、日本代表は見事にグループBを首位通過した。来年の本大会ではいかなる戦いぶりを見せてくれるのか楽しみは尽きないが、果たしてハリルホジッチ監督はロシア大会で勝利の凱歌を上げることができるのだろうか。
 
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 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、ここまで思惑通りにチーム作りを進めて来た。特にオーストラリア戦は、だいぶ指揮官自身が描く理想像に近づいたはずだ。相手にボールを持たせても、隙を作らずに効率的な攻撃で仕留める。まして2ゴールをもたらしたのが、自らの志向に添って抜擢した井手口陽介と浅野拓磨だったわけだから、完璧なシナリオと言えた。
 
 概して欧州目線の監督が日本サッカーと遭遇すれば、同じような印象を持つ。アルベルト・ザッケローニは「インテンシティー(強度)」が不足していると表現したが、ハリルホジッチは「デュエル(決闘、闘い」という言葉に置き換えた。それでも中心選手たちが右肩上がりの成長中に着任したザックは、「テクニック」「敏捷性」「攻撃的組織力」「規律」など長所にも目を見張ったが、ハリルは世界に出たら闘い抜かない限り善戦はないと考え、最初から体脂肪チェックに象徴されるようにフィジカルにこだわった。ザックには、日本代表を率いて世界を驚かせる野望があったが、ハリルにはそこまでの可能性が見い出せなかったに違いない。ましてハビエル・アギーレの後任として契約したので、ザックより与えられた時間が少なかった。
 
 奇しくもハリルホジッチが辿り着いたのは、7年前の南アフリカ大会で岡田武史監督が採用したのと同じフォーメーションだった。しかも岡田監督は、アンカーの阿部勇樹の前に、遠藤保仁と長谷部誠を配したが、ハリルホジッチ監督は3ボランチへと舵を切った。もちろんMFの人選には、サウジアラビア戦で先発した柴崎岳らオプションが広がって来るはずだ。
 
 だが最も本番対策に近いオーストラリア戦では、相手がポゼッションをするのを承知で中央をしっかりと閉め、大迫勇也のポストワークを活用しながら、スピーディーなサイドからのカウンターを仕掛けた。そのためのカギを握るのが、最後まで動きが落ちず戦い続けられる井手口であり、スピード豊かな浅野だった。
 
 ザック時代とは、完全に戦い方が一変した。前回ブラジル大会の最終予選では、日本代表がポゼッションで劣る試合はなかった。むしろ6割を超えるボール支配で圧倒して弾みをつけ、危なげなく本大会の切符を手にしている。ただし世界に出た時に、アジアとの落差に戸惑い、1分け2敗という終焉を迎えるのだった。
 
 その点でハリルの場合は、最初から世界での立ち位置を想定し、リアクションも折り込み済みなので、本大会になっても大きな修正点はない。あとは前回大会でアルジェリアを率いた時と同様に、対戦相手に応じてコマを使い分け、堅守から少しでも可能性を広げていくことになる。
 
 ハリルホジッチ監督が苛立つ最大の要因は、自ら下した日本サッカーへの客観判断と、メディアを中心とした期待値との落差だろう。ハリルには、明らかに諦観があり、現状ではこれしか望めないと考える戦い方を貫いている。そしてそれは単純に「ワールドカップで結果を出してくれ」というオファーに対してなら、誠実な回答である。ところがメディアからは解任論が出た。指揮官は雇用者との間に微妙な食い違いがあることも感じ取っている様子だ。
 
 ハリル招聘に動いた技術委員長は既に退いてしまったわけだが、結局過去をどう総括し、どんな狙いでオファーを出したかは、明快に語られていない。JFAの最大の目標が、将来のベスト10やワールドカップ制覇なら、着実に世界との差を埋めていくことが焦点になる。しかしハリルホジッチ監督は、結果を請け負う典型的な勝負師だ。来年ロシアで最良の結果を求めるだけなら適任かもしれない。少なくとも惨敗を繰り返さないための準備なら、比較的順調に進んでいる。ただしお国自慢を競う見本市への出展としては、個性や驚きは少ない。
 
 日本がロシアで何を確認し、どんな成果を望むのか。代表至上の新興国だからこそ、そこは真剣に考える必要がある。

文:加部 究(スポーツライター)

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