本田圭佑はサウジアラビアに先発出場。しかしピッチ上での出来は満足できるものではなく…【写真:Getty Images】

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チームに影を落としたひとつのミス

本田圭佑が大きな岐路に立たされている。5日のロシアW杯アジア最終予選、サウジアラビア戦に先発出場した背番号4のパフォーマンスは大きな衝撃だった。大黒柱だったはずの男が見せた弱々しさは、一時代の終わりを感じさせる。このまま消えていくのか、それともパワーアップして復活できるのか。代表キャリアの集大成と位置づける大会まで残された時間は9ヶ月だ。(取材・文:元川悦子)

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 両チームともにスコアレスのままハーフタイムに突入しようとしていた5日のサウジアラビア対日本戦(ジェッダ)。その前半アディショナルタイム、我々の目を疑うような場面があった。キープ力に絶対的な自信を持つ背番号4・本田圭佑(パチューカ)が相手選手にいとも簡単にボールを奪われ、カウンターを食らい、最終的には左サイドバックのアル・ハイビに強烈シュートを打たれるたのだ。

 幸いにしてコースが大きく反れ、GK川島永嗣(メス)も、吉田麻也(サウサンプトン)率いる最終ラインも事なきを得たが、大黒柱であるはずの男のイージーミスはチームに暗い影を落とすことになった。

「あのへんは感覚的なものかなと。ああいうところはやはり取り戻していかないといけないと思います」と本田は素直に非を認めたが、このプレーが物語っているように、今回は前半45分間通してあっさりボールを取られたり、体が重かったりと、パフォーマンスの悪さばかりが目についた。

「試合勘はやっぱり大事だと思うし、フィジカルコンディションというのはやっぱり試合に出ないと養われない。圭佑もケガして、オフも挟んで、長い間サッカーやってなかったんで」と同い年の盟友・長友佑都(インテル)が現状を代弁してくれたが、とにかく今回の本田は代表戦に出場できる状況ではなかったと言わざるを得ない。

 昨年9月のUAE戦(埼玉)で2018年ロシアW杯アジア最終予選がスタートした時、背番号4は紛れもなく日本のエースだった。UAE戦の先制点がそれを物語っていた。が、ミランで定位置をつかめなかったことが災いし、昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)から久保裕也(ヘント)に右FWのポジションを明け渡し、そのまま2017年3月の2連戦まで耐え忍ぶことになった。

本田が抱いた危機感。しかしパフォーマンスは…

 迎えた6月のイラク戦(テヘラン)は、シーズン終了直後の欧州組合宿の成果もあって調子が上向いた。香川真司(ドルトムント)の左肩負傷も重なり、原口元気(ヘルタ)がトップ下へ移動。久保も左FWへ移り、本田に右FWの位置が用意される格好となった。

 この好機を彼は確実に生かし、右CKから大迫勇也(ケルン)の先制弾をアシスト。酒井宏樹(マルセイユ)との縦関係から再三再四チャンスを作った。「チームで一番効いていたのは圭佑くんだったと思う」と山口蛍(C大阪)にも言わしめる出来で、復活の兆しをつかんだがに思われた。その後、7月中旬にはパチューカ移籍も決まり、最終予選終盤2連戦には十分間に合うはずだった。

 誤算だったのは、長友が指摘した「ケガ」。右ふくらはぎの違和感で新天地デビューが8月22日までずれ込み、新シーズンに入って一度も90分間プレーしないままに代表のために帰国した。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はオーストラリア戦で本田を起用せず、若い浅野拓磨(シュトゥットガルト)や井手口陽介(G大阪)に6大会連続となる世界への切符獲得をかけた大一番を委ねた。

 後輩たちの活躍をベンチで見届けることになるなど、4年前の同じオーストラリア戦でPKを蹴り込み、日本をブラジルへと導いた男には考えもしなかったはずだ。

「もしかしたら『サッカー辞めようかな』とか考えるかもしれないですけど、結局は本戦が目標。ベンチに座ってる悔しさがなくなったら努力ができない。そういう意味でも拓磨や陽介ら若手が活躍したことが嬉しい」とロシア行き決定翌日の1日、本田はいつも通りの強気の発言をしてみせたが、相当な危機感を抱いていただろう。

「まあ全然ダメですね。何を言っても言い訳になる」

 その焦燥感がサウジアラビア戦のミス連発を招いた可能性は否定できない。ハリルホジッチ監督は「本田がトップコンディションでないことは分かっていた。(クラブでの)出場時間も短く、試合勘が欠けているのは分かっていたので45分限定で使った」と説明したが、時間限定起用だったからこそ、ゴールにつながるインパクトを残して世代交代の流れを引き戻したい思いは強かったはずだ。

 けれども、結果は冒頭のシーンに象徴される通り、本田は沈黙した。

「まあ全然ダメですね。何を言っても言い訳になるんで。もうダメやったという結果しか残らないんで。いろんなものを代表で取り戻していけないかなと思います」と本人も素直に出来の悪さを認めるしかなかった。

 この日に限って言えば、後半からピッチに立った浅野、終盤トップ下で出場した久保もそこまで輝きを放ったわけではなかったが、本田よりは躍動感があり、動きにキレもあった。ハリルホジッチ監督が理想とするスタイルを体現しようと思うなら、2試合続けて献身的なアップダウンを繰り返し、抜群の運動量を示した井手口のようなフィジカル能力が求められる。

 本田のコンディションがあと9ヶ月でそのレベルまで上がる保証はない。彼自身はトップ下など中央でのプレーを求めているが、ハリルジャパンの中盤はこれまで以上に守から攻への切り替えの鋭さで勝負するようになっている。このやり方に彼がフィットするかも分からない。前途は多難だ。

7年前の中村俊輔に重なる本田の姿。かつての姿を取り戻せるか

 かつて本田にエースの座を追われる格好となった中村俊輔(磐田)も2010年南アフリカW杯直前のスイス・サースフェーでの高地合宿で身体的数値が上がらず、ベンチを温めることになった。今の本田はそんな先輩の姿と重なる。

 俊輔の場合、調子を落としたのがW杯直前だったから岡田武史監督(FC今治代表)が彼をメンバーから外すことはなかったが、本田の場合は最大の目標までまだ1年近くある。その間に復調を期待するのか、本田に見切りをつけて若手中心で割り切ってチーム作りを進めていくのかは、ハリルホジッチ監督に求められる決断のひとつだ。

 ロシアW杯を代表キャリアの集大成と位置づけている本田の思いを理解しているだけに、最悪のシナリオは考えたくもないが、この先、背番号4が招集されなくなる可能性もある。それほどサウジアラビア戦の前半45分間は本田自身にとっても、日本代表にとっても大きなものだった。

「何よりもW杯に出るということが結果として残せた時点で1回、振り出しに戻して、(自分自身を含めた)日本代表がどういった形でロシアに向かうべきなのか。それを考えないといけないと思います。自分はまず(クラブで)試合に出続けることで全てをまた取り戻していけると。さらにパワーアップを目指していけると思ってるんで、まず帰ってコンスタントに試合に出ること。まずはそこからだと思います」

 本人が語気を強めた通り、メキシコで圧倒的な活躍を見せ、ボスニア人指揮官にその存在感と必要性を再認識させること。そうすることでしか本田がロシアへ行く道は開けてこない。過去にないほど険しい道のりになるが、キャリアの全てを賭けて力を尽くすしかない。

(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子