「香り」はコミュニケーション、日欧で取り入れ方が異なる理由

写真拡大

美容のビジネスは女性市場に限らず、男性市場も健気に拡大している。フォーブス ジャパンの読者の方こそ実は男性美容市場の貢献者ではないだろうか。髭剃りや、ヘアドライヤー、ヘアトリートメントはもちろん、最近では脱毛やパック、メンズエステあたりも試したことがある男性が増えている。

日本はまだ100億円を超えた程度の市場だが、人口が日本の3分の1の韓国は市場規模が10倍で、1000億円と言われている。日本と韓国以外のアジアだと、タイやシンガポールが大きく、その他アジア諸国が追随している。盛り上がる男性向けの美容市場で、難しいのは香水ではないかと思っている。

日本人には難しい「洒落た」香り使い

先日、友人とクラシックコンサートに行ったときのことである。私の隣の席が空いており、開演直前になってカップルがやってきた。外国人男性と日本人女性だった。

年齢的にも、身なりは僕とさほど違いがない男性だったが、1つ違ったのは香水の香りだった。非常に上品で、その男性をより”紳士”らしく、より存在感が増して見えた。日本人では難しい、洒落た香りの自己表現である。

僕が若いころは、海外のお土産に「免税店で香水を」なんてことも多く、自宅にも幾つか並んでいていたが、あまり使わずに埃をかぶって、最後は不燃ゴミになっていた。女性でも小さいミニボトルなんか集めている人が多いが、使っていないのが多い。なんとくなく想像できるだろう。

欧米の香料や香水は、体臭とも関係があって進化してきた。お洒落なフランス人が作る香水は、「体臭とあわさってはじめてどう官能的な香りになるか」というのが商品開発の基本である。日本は体臭というと加齢臭や運動部員くらいしか連想されないが、フランスでは大人の男女には特有の体臭があるもので、その体臭と混ざって完結する商品をつくるという具合だ。日本では考えられない。

肉食文化ではない日本人にはあまり体臭がなく、そうした文化的背景が香水を使わない理由だと言う人もいる。しかし、本当にそうだろうか。むしろお菓子や料理の香り、紅茶やアロマテラピー、柔軟剤やキャンドルなど、近年香りにこだわる人が増えており、テレビやブログでも香りの専門家のようなコメントが数限りなくある。

ある意味、香りが大好きな国民ではないか。昔から香道という文化もあり、お線香にいたっては香りをかえて欧米までいっているヒット商品である。それに果たして、男性は香りが嫌いなのか? いや、ワインやウイスキーを楽しみ、車には芳香剤、柔軟剤好き男子もいるほど、こちらも香りが溢れている。

香りはコミュニケーション

欧米をはじめ香りのビジネスが成り立っている国は、香りを「社交」だと考えている。すると、日本文化に香りがないのは、単純に社会のコミュニケーション能力がそこまで至っていないのではないか。香りを香りという「もの」でとらえ、「こと=コミュニケーション」と考えてないからではないかと思う。

「もの」でとらえると深みのない香りになるのだ。日本では、窓際に干した洗濯物の柔軟剤が香りが隣の家まで飛んでくるのが苦情になり「香害(こうがい)」なんて単語が新聞に載ってしまう。これは、「こと」の部分が足りていないわかりやすい事例だ。社交と香りで思いつくのは唯一「香道」である。そう考えると昔の日本人のほうが香りをコミュニケーションにうまく使っていたかもしれない。

体臭と混ぜ合わせる香水は、自分だけのためではなく「常に相手がいる」という社会が意識されたコミュニケーション手段である。だから、香水メーカーも女性の体臭とあわさってその女性がより官能的で本能的に誘惑される存在にする香水をつくるのだ。フランスらしいような気もする。

文化や気候など、香水の売れる・売れないには様々な要因はあるだろうが、コミュニケーションという視点で見れば、社交性が高い民族のほうが売れるだろうし、社交性の高い都市部やそういう世層がいいというのは想像がつく。日本は社交性を高めないと閉塞的な社会になるので、もしかしたらこれから香水市場が伸びるのではないか。香水株があれば買いどきかもしれない。

最後に最新のアメリカ香料メーカーの話をしたい。以前、パーフューマーという職種の専門家からある宇宙光線銃のような不思議な機械を見せてもらった。これは香りを狙って採取する機械で、香りの内容成分を特殊分析器で分析し、化学式に変換されて未来の香料のヒントにするという。

この人の仕事は、毎日テレビや雑誌を見て、新しい香りを採集しに行くこと。僕が会ったときはオーストラリアの砂漠から帰ってきたばかりで、珍しいサボテンがはじめて花をつけたニュースをテレビで見て、花ではなくその匂いを採集してきたという。

香りハンターなんて洒落た肩書きだと、それこそコミュニケーションにはうってつけである。もちろん、同社のこの人も、フランス人だった。