ハリケーン「ハービー」で被害を受けたテキサス州のガソリンスタンド。息つく間もなく次のハリケーン「イルマ」が米国に迫っている(写真:ロイター/アフロ)

原油在庫積み上がりの懸念、一方でガソリン在庫減少も

原油価格の軟調地合いが続いている。米テキサス州沿岸部を8月25日に大型ハリケーン「ハービー」が直撃したことで、原油市場への影響が懸念されたが、いまのところ、市場の反応は限定的だ。ハリケーンの影響で多くの米国の原油処理施設が停止しているが、燃料の生産が落ち込むことで、原油在庫が一段と積み上がるとの観測が原油の上値を抑えている。しかも、新たなハリケーン「イルマ」が米本土に接近中で、米フロリダ州などが非常事態を宣言した。

「イルマ」は最も勢力の強い「カテゴリー5」に発達している。米国立ハリケーンセンター(NHC)によると、イルマは10日にフロリダ州の南を通過してメキシコ湾に到達すると予想されている。再び「ハービー」と同様の事態が発生する可能性もあるだけに、その動向には注意が必要だ。

一方、製油所の停止でガソリン生産が減少し、在庫も減少するとの見方からガソリン先物は大幅続伸している。米内務省安全環境執行局(BSEE)によると、ハリケーン「ハービー」が直撃したことで、メキシコ湾米原油生産は8月末時点で全米の18%以上(日量約31万バレル)が停止しているもようだ。また、日量約200万バレルの石油精製能力が止まった状態にあるという。テキサス州ポートアーサーにあるモティバ・エンタープライゼスが所有する国内最大の製油所は、8月30日午前に操業を完全に停止。操業再開は浸水した水がひいたあとに見極めるとしている。

同製油所の精製能力は日量60万3000バレルであり、影響は極めて大きい。製油所の稼働停止が長引いた場合、石油製品在庫の減少が懸念されるが、10日以上も停止が続くと、石油製品不足は深刻になる。ただ、国際エネルギー機関(IEA)は戦略石油備蓄(SPR)の放出は可能との見方を示しており、需給がひっ迫した場合にも迅速に対応できるもようだ。

IEAによると、米国内の商業用在庫は原油4億6000万バレルを含む13億バレルで、これには米国政府が保有する戦略石油備蓄は含まれていないという。いまは、ハリケーン被害の全容把握と、どの程度の対策が必要かを見極める時期にある。そのため、今後も製油所の稼働停止や原油生産停止が続くのかを、まずは確認する必要がある。これらの影響が生産や在庫統計に反映されるには時間を要しそうだ。

米国の石油消費は世界一だが、その量は日量約2000万バレルにおよぶ。そのうち、約半分がガソリンである。今回は、被害状況を確認するのになお時間が掛かり、物資の運搬などが円滑にいかない可能性がある。その場合には、燃油需要は増えず、むしろ在庫が積み上がる可能性もある。

さらに、パイプラインの早期稼働が可能かどうかも大きな問題となってくる。今回ハリケーンに襲われたメキシコ湾岸は、石油市場にとってきわめて重要な地域だ。原油生産に加え、米国領土内あるいは中南米・欧州などへの輸出ハブの機能を果たしている。

カトリーナ襲来時でも、原油価格の急騰は一時的

過去のハリケーンでは、メキシコ湾沿岸の処理施設の復旧には数カ月を要した。特に2005年8月にハリケーン「カトリーナ」が南部ニューオーリンズに大きな被害をもたらした際には、製油所を復旧し、生産を再開するまでに18週間かかった。その際、IEA加盟国は6000万バレルの備蓄を放出している。今回の被害はそこまでではないとの指摘もあるが、今回のハリケーン「ハービー」の激しさと大規模洪水による被害を考慮すれば、今回は回復に想定以上に時間がかかる可能性もある。ちなみに、「カトリーナ」が襲来した際、ガソリン先物と原油価格は急騰したが、その動きは一時的であった。

とはいえ、現在の石油市場の動きが一時的に終わると考えるのは、短絡的過ぎるかもしれない。というのも、米国のガソリン生産能力のうち、25%程度がヒューストン周辺に集中しているからだ。さらに、昨年の実績では、全米のガソリン生産の14%程度の量がヒューストンやメキシコ湾沿岸地域で行われていた。

そのため、今後も稼働停止が続けば、ガソリンの供給が細り、その後のガソリン在庫の減少傾向が顕著になれば、少なからず原油にも相応の影響が出てこよう。上述のように、原油生産も日量ベースで30万バレル程度が失われているという事実がある。いずれこれを材料視する動きが出てきてもおかしくない。

また、製油所が回復すれば、急激に原油需要が増加することになる。今回のハリケーンを材料とした原油相場の下げが限定的であれば、製油所の回復時には急騰する可能性もありそうだ。直近まで米国内の原油在庫は、旺盛な製油所の原油需要により、大幅な減少が続いていた。この傾向が変わらなければ、そのような動きになってもおかしくない。

一方、米国内のシェールオイルの生産状況には注意が必要で、潜在的な生産増の圧力は引き続き強いようだ。最近のシェールオイルの生産状況をみると、昨年末に落ち込んでいた生産量は着実に回復中だ。リグ(掘削装置)の稼働数も堅調そのものであり、これが潜在的な生産増の連想につながっている。

さらに、DUC(水圧破砕開始前の掘削済み井戸)の推移をみると、相当のペースで増加している。これは、原油価格が上昇した際に生産が開始される可能性が高いことを示しており、原油価格の潜在的な抑制要因といえる。

一方で、注目したいのは、リグ当たりの生産量の低下である。これが今年の3月でピークアウトし、徐々に低下している。これまでは生産効率を上げながら生産量を増加させてきたが、現状ではリグの稼働数自体を増やす必要があるといえる。一部には、原油安を背景に、生産コストの低い油田での生産を優先させているとの見方もある。そうであれば、今後はコストの高い油田での生産を強いられる可能性もある。そのあたりは今後のデータで確認するしかないが、このようにシェールオイルを取り巻く環境には徐々に変化もみられる。

いまの市場では、これらの材料を全体的にはネガティブに捉えており、それが原油価格の抑制につながっている。今年から来年にかけてのOPEC(石油輸出国機構)以外の産油国の産油量は、世界の石油需要の伸びに匹敵する見通しである。

結局、カギ握るOPEC加盟国の減産

こうなると、需給バランスの改善には、OPEC加盟国の一段の減産が不可欠だ。原油価格が高値圏を維持していたときには、OPECの産油量は日量3000万バレルから3100万バレル程度であった。それがいまはそれを200万バレルから300万バレル程度上回っている。

これでは、原油価格が上がらないのも無理はない。原油価格の一段の上昇には、OPECによる一段と踏み込んだ減産が不可欠であろう。それがなければ、原油価格の上昇は見込みづらい。その意味でも、OPECが現状の原油価格を甘んじて受け入れるのか、あるいは一段の上昇を目論むのか、今後の動向を見守ることになるのだが、それまで原油価格の低迷は続くと考えざるを得ない。筆者は現在の原油価格は継続不能な安値であると理解しているが、市場がそうした流れになるには、需給の引き締まりを確認することが必要だ。