世界初の専用設計量産EV「リーフ」が2代目へと生まれ変わった(撮影:大澤 誠)

「リーフ」が初のフルモデルチェンジを行った

日産自動車は9月6日、電気自動車(EV)「リーフ」初のフルモデルチェンジ(全面改良)となる新型車両を公開した。リーフは2010年12月に、世界初の専用設計量産EVとして市場に投入。それから約7年の時を経て2代目へと生まれ変わった。

2代目リーフは400km(JC08モード)の航続距離を実現。10月2日にまず日本で発売となり、アメリカ、カナダ、欧州へは来年1月、その後、世界60カ国へ順次展開する。車両本体価格は315万0360〜399万0600円だ。

新型車の開発には膨大な時間と費用がかかるものであり、この時期に発表したのは偶然なのだが、なんとも絶妙なタイミングでのデビューである。というのも、フランス、イギリス、インド、中国などで将来的にガソリン/ディーゼルエンジン車の販売を禁止するという発表がなされ、「エンジン車の将来はあるのか」という議論が盛り上がっている真っ最中だからだ。

2代目になって最も変わったのは、スタイリングだ。初代リーフでグリルのないヌメッとしていた深海魚風の顔つきは、同じく日産のコンパクトカー「ノート」やSUV「エクストレイル」などが採用する新世代のグリルと横長のヘッドランプからなる顔つきに一新した。リアまわりもフェアレディZやジュークなどに導入しているブーメラン型コンビランプを導入することで、躍動感を出している。

充電口がフロント中央に位置しているのは従来と同じだが、新型は滑らかな面に切り欠きを入れる手法ではなく、グリルの一部が開く形になったので、違和感はなくなった。ちなみにボディカラーは2色増えて14色にもなった。このうち6色は旧型にも存在した、ルーフを塗り分けた2トーンカラーだ。


より洗練されたデザインとなった(撮影:大澤 誠)

筆者は初代リーフのスタイリングについて、2016年3月6日配信の「日産『リーフ』はカッコよければヒットしたか」で論評している。そこでは日産関係者の話として「新型(2代目)は普遍的なデザインになる」という言葉を紹介した。現車を見て、そのとおりになったという感想を抱いた。

よく見ると前後ドアまわりのデザインは初代と変わらず、クルマづくりの土台となるプラットフォーム(車台)は初代から継承している。その枠内で車体前後に他の日産車と共通のモチーフを取り入れた。これが初代で抱いた違和感を払拭することに成功しているようだ。

インテリアはどうなったのか

インテリアも普遍的になった。しかしインパネについては以前のままでもよかったのではないかという気がしたのも事実だ。

初代リーフのインパネは、速度計を上、バッテリー残量計やパワーメーターなどを下に据えた上下2段のデジタルメーターだった。それがひとまとまりになり、速度計は丸型とコンサバな造形をまとっていたからである。「EV感」はかなり薄れた。

これによって質感もさほど上質ではないという感じを抱くことになってしまった。個性的なデザインは、それが違和感を与えなければ、質感などの細かい部分を気にならなくする技になる。旧型の2段メーターはその役目を果たしていたのかもしれないと思った。

それ以外については、インテリアの印象は初代とあまり変わらない。後席の床が、下にバッテリーを入れている関係で前席より高めとなっていることも共通だった。

ただし、そのバッテリーはサイズを変えずに容量を30%以上アップすることに成功し、満充電での航続距離は初代の280kmから2代目リーフでは400km(JC08モード)に引き上げられた。初代がデビューした2010年当時の200kmから228km→280kmときて、ついに400kmを達成した。バッテリー技術は確実に進化している。


「エンジン車ゼロ」の時代に先駆ける存在となりそうだ(撮影:大澤 誠)

日産は先月、2007年にNEC(日本電気)およびその子会社とともに設立したバッテリー生産会社AESC(オートモーティブエナジーサプライ株式会社)を投資会社GSRキャピタルに売却したと発表した。

日本の自動車メーカーは日産とNECの関係がそうであるように、特定の電池メーカーと提携を結ぶ例が多かった。これまでのビジネスがそうだったように、自動車メーカーが電池メーカーをサプライヤーのひとつとして考えたのかもしれない。

しかし、車載用バッテリーの分野は急成長が続いており、激しい競争の中で技術が進歩していく、切磋琢磨の状況にある。そのなかで個別の企業を囲い込むことは競争原理が働かなくなるわけであり、性能向上の面では不利に働く。

日産とアライアンスを組むルノーは早くからその点に気づいていたのか、特定の企業と提携を結ぶことはなく、その時点で最良のバッテリーを作る企業と契約する、いわゆる自由競争の仕組みを導入した。現に今年3月のジュネーブショーで航続距離400kmを豪語して話題になった「ZOE」(ゾエ)は、韓国LG製のバッテリーを採用している。

2代目リーフのバッテリーは時期的に見てもAESC製だろうが、今後はルノーのように自由にメーカーを選べるようになるかもしれない。そうなれば現時点では不満のある航続距離の飛躍的向上が見込める可能性も出てくるだろう。

モーターの性能も向上している

さらに2代目リーフはモーターの性能もアップしている。最高出力は初代の80kWから2代目は110kW、最大トルクは同254Nmから同320Nmになった。後者はガソリンエンジンで排気量3000cc級と変わらない。その結果、2代目リーフのゼロ〜100km/h加速は初代よりも15%、60〜100km/h加速は同30%も向上している。インバーターの刷新も高性能にかなり貢献したという。

現在のEVはバッテリーに蓄える電気は直流、モーターを回す電気は交流なので、間にインバーターをかませて直流を交流に換える必要がある。大都市圏を走る電車と同じ方式であり、インバーターのポテンシャルが性能を左右する。今回の新型リーフもその点に目をつけることで性能アップを実現できたのかもしれない。

ちなみにそのEV走行をコントロールするのは、従来どおり、アクセルとブレーキの2枚のペダルとなっている。

日産は7月のプレスリリースで、新型リーフは「e-Pedal」なるペダルを装備しており、アクセルペダルのみの操作で発進、スピードアップ、スローダウン、停止保持が可能であると表明していた。

このリリースを見て一部のメディアは、ペダルが1つになったのではないかと想像したが、そうではない。現に7月のリリースでも「アクセルペダルのみの操作で」と明記しており、それ以外のペダル、具体的にはブレーキペダルが引き続き存在していることを暗に示唆している。そもそもブレーキペダルをいきなり廃してアクセルペダルに一本化することは、現行の道路交通法が認めないだろう。

フランス人あたりが好みそうな、ちょっとひねった宣伝戦略を用いる日産に対し、ジャーナリズムを含めて実直で正直な日本人が、「だまされた!」と声を上げるのかもしれないが、ノートe-POWERの「まったく新しい電気自動車のカタチ」がそうだったように、これが今の日産らしさなのであり、芸風だとわきまえて臨んでもいいのではないか、と筆者は思っている。

安全装備も充実

さらに新型リーフは、ミニバン「セレナ」やエクストレイルに続いて、「プロパイロット」と呼ばれる運転支援システムを、プロパイロット パーキングと名付けた駐車支援システムとともに装備したことも特筆される。

プロパイロットは高速道路の単一車線において、時速30〜100kmの範囲内で前方を走行する車との車間距離を保つ。具体的にはフロントウインドーの上部に設置した単眼カメラと画像処理ソフトで道路上の白線と前方の車両を認識し、ハンドル、アクセル、ブレーキを自動制御する。

ちなみに後者については、ステアリング操作だけではなくアクセルやブレーキ・ギアチェンジまで自動でやってのけるのは日本車では初であり(輸入車ではテスラなどが実用済み)、一歩進んだシステムとして評価できる。プロパイロットも相応の進化を果たしてくるだろう。

旧型リーフの販売成績がイマイチだったのは、「EVは使えない」というイメージ的な部分が大きかったのではないかという感想を筆者は抱いている。ただ、昨今は逆に、一部の国でエンジン車禁止のアナウンスがなされるなど、世界の流れはEV推進に動きつつある。利用者がその流れをどれだけ真剣に考えるか。これが新型リーフの販売を左右するかもしれない。