秋山英宏 全米レポート(9)故障から復活のスティーブンスが全米初の4強入り

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アメリカ選手でウイリアムズ姉妹の後継者の一番手はスローン・スティーブンス(アメリカ)と見ていた。美しいスイングから、伸びのあるグラウンドストロークを打ち出す。パワフルなショットを持つ選手は多いが、これだけ力感のないフォームからしっかりボールを飛ばす選手はいない。それが才能というものだろう。力みがないからショットの精度が高い。淡々と相手を追い詰めるプレーには静かな殺気がある。

NFL選手の父親と競泳選手の母親から受け継いだ身体能力は、次のナンバーワンの有力候補と思われた。

ただ、淡々とした試合態度がそう思わせるのか、プレー自体が淡泊すぎる印象もあった。開花には思ったより時間がかかり、ツアー初優勝は2015年のワシントン大会で、すでに22歳になっていた。

もっとも、その2年前の13年全豪では、準々決勝でセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)を3-6,7-5,6-4で破り、四大大会初のベスト4進出を果たしている。大舞台でセレナを破るポテンシャルを持っているのだから、あとはそれをどう生かすかだけだった。

昨年は故障に悩まされ、8月のリオ五輪を最後にツアーを離れた。今年1月には左足の疲労骨折を手術。復帰は7月のウインブルドンにずれ込んだ。11カ月ぶりに公式戦でプレーしたスティーブンスは「コートに立てただけで安堵し、幸せを感じ、そして興奮していました」と心境を明かした。

全米は公傷制度を使い、スペシャルランキング26位でエントリーした。長いブランクで、8月7日付けのランキングでは934位まで落ちた。それでも、全米前哨戦のトロント、シンシナティ(ともに四大大会に次ぐプレミア5グレード)で続けてベスト4と実力を示し、全米開幕時には83位までランキングを戻していた。

準々決勝では第16シードのアナスタシア・セバストワ(ラトビア)を破り、全米初、四大大会では2度目の4強入りを決めた。コート上でのインタビューでこう話した。
「涙目になっています。ウインブルドンで復帰したときは、ホームの全米でこんな素晴らしい結果が出るとは思ってもいませんでした」

目には涙がにじんでいても、インタビューは終始笑顔だった。

83位は、ノーランキングの選手を除けば、現行のランキング制が導入された75年以降では4番目に低いランキングの準決勝進出だ。4強進出の時点で、来週更新されるランキングでは35位前後に浮上することが確定した。約1カ月で900位の急浮上。これを維持すれば、四大大会のシード獲得も有望だ。

高いポテンシャルを持つ彼女の復調は、女子テニスにとっても大きい。ツアーには様々なタイプの選手がいるが、スティーブンスのようなタレントはほんのひと握り。それをどう攻略するかに試合の妙味がある。奈良くるみ(安藤証券)はこの大会でこんな話をしている。
「自分よりも才能があって、センスもある、パワーもある選手にうまくやっていくのも自分の楽しみの一つです」

才能豊かな選手に、違う持ち味の選手、つまり技巧派や頭脳派、セバストワのようにガッツを前面に出す選手が挑むのが一番面白い。スティーブンスは、挑まれる側、つまりツアーの太い柱になれる選手の一人なのだ。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」準々決勝で自身初の全米ベスト4進出を果たしたスティーブンス
FLUSHING MEADOW, NY - SEPTEMBER 05: SLOANE STEPHENS (USA) during day nine match of the 2017 US Open tennis tournament on September 5, 2017, at Billie Jean King National Tennis Center in Flushing Meadow, NY. (Photo by Chaz Niell/Icon Sportswire via Getty Images)