『泣き虫チエ子さん 愛情編』

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 世間を賑わせた元おしどり夫婦のドロ沼離婚劇や、うんざりするほどよく見る不倫報道からは、仲の良い幸せな夫婦関係であり続けることがいかに難しいかがうかがえる。永遠の愛を誓ったはずのふたりがなぜそんな風になってしまうのだろう? もしかしたら、自分本位でパートナーへの思いやりが足りなかったり、あるいは逆に、自分を抑えて相手に合わせ過ぎてしまったりなんてことからすれ違っていくのかも。

 夫婦関係に不満がある人、これから結婚する人、結婚なんて面倒くさそうと思っているシングルにもぜひ読んでほしいのが『泣き虫チエ子さん 愛情編』『泣き虫チエ子さん 旅情編』(益田ミリ/集英社文庫)だ。感受性豊かで泣き虫のチエ子さんと、まじめで優しいサクちゃんの仲良し共働き夫婦の日常を描いたコミックの人気シリーズである。著者は益田ミリ氏。優しくほのぼのとしたイラストで、ほっこりと心温まる作品を多数生み出している。

 家でくつの修理屋さんを営むサクちゃんと、会社で秘書として働くチエ子さん。

 『愛情編』では、育ちも性格も全然違うふたりが、お互いを大切に思い合う日常のものがたりが描かれている。結婚10年になる夫婦だが、チエ子さんの会社帰りに最寄り駅のスーパーで待ち合わせし、会話を楽しみながら夕飯を決めるのが日課。カートのカゴの中に入っているのはふたりの生活。大切なものを運んでいると思うだけで、チエ子さんは幸せな気持ちになる。ふたりで一緒にいられることを大事にする一方で、それぞれが自分の友だちと食事や飲みに行くことも尊重するなど、個々の時間も大事にしている。寒い日に飲みに出かけたサクちゃんのために、湯たんぽで布団を温めておいてあげるチエ子さん。甘い物好きなチエ子さんのために、出かけたついでにデザートを買ってきてあげるサクちゃん。そんな風に、お互いがちょっとした気遣いを忘れないのだ。

 『旅情編』では、日常のものがたりに加えて、結婚前のエピソード、旅先でのふたりの時間が描かれている。10年を経ても、女子会で大好きなサクちゃんとの毎日を話したくてしかたのないチエ子さん。「あたしの人生で、これ以上のプレゼントはないくらいのプレゼントがサクちゃん」と思えるほど、サクちゃんへの愛情が深い。一見、何の問題も不満もない幸せな関係。でも、チエ子さんはそれが永遠とは思っていないし、お互いの努力の上に成り立っていることもわかっている。チエ子さんは、自分がもし先にいなくなってもサクちゃんには幸せでいてほしいと願う。そういう愛し方だからこそ、普段の何てことのない日常も、かけがえのない特別な時間になるのだと気づかされる。

 もともと他人同士のふたりがひとつ屋根の下で送る生活。いつも、いつまでも良い関係でいることは、簡単ではないだろう。チエ子さんとサクちゃんは常にお互いを大切に思う気持ちにあふれていて、読み手も幸せな気分になれる。良好な関係を築くためのヒントがつまった2巻には、夫婦関係に限らず、生きていく上での気持ちの持ち方についても考えさせられる。ふんわり温かみのある両作を読めば、心がささくれ立った時にも優しくなれそうだ。

文=三井結木