『ユリゴコロ』(双葉社)
星海社

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 吉高由里子、松山ケンイチ、松坂桃李が出演の映画『ユリゴコロ』が9月23日より公開される。原作は、沼田まほかる氏の『ユリゴコロ』(双葉文庫)。2011年に「第14回大藪春彦賞」を受賞、「本屋大賞」にノミネート、2012年度の「このミステリーがすごい!」第5位にランクインしたベストセラー小説だ。殺人者の告白文が記載された奇妙なノートを実家で見つけた青年の葛藤を描いたこの作品は、絶望的な暗黒の世界から一転、深い愛へと辿り着くラストまで、ページを繰る手が止まらない。必ずや話題になるに違いない映画公開を機に、今こそ、原作本を手にとってみてはいかがだろうか。

 主人公・亮介の人生は、ここ数カ月でさまざまな出来事に見舞われる。ともにカフェを営んでいた婚約者・千絵が突然失踪。父親は末期の膵臓がんと診断され、父の病気が明らかになってすぐに母親は交通事故で亡くなった。ある日、自宅療養中の父親の様子を見に実家を訪れた亮介は、押入れから数冊のノートを見つけ出す。「ユリゴコロ」とタイトルらしいものが書かれたそれには、衝撃的な内容が書かれていた。「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか」――この一文から始まる文章は現実の殺人者の告白文なのか、読み進めるうちに亮介の心は激しく揺り動かされる。

 亮介が見つけたノートの記述はあまりにも生々しい。彼がおそるおそるノートのページをめくったように、読者もまた、亮介と同じように本のページをめくることだろう。小学校時代、池で溺死する同級生を見捨てた時に感じた心の充足感。それを忘れられず、このノートの執筆者は、それ以降も幾度となく殺人を重ねていったという。亮介とともにこのノートを目にする私たちもその内容に思わず震えあがる。このノートを書いたのは一体、だれなのか。亮介とともに、私たちも誰が殺人者なのかと疑心暗鬼になっていく。

 しかし、この物語は殺人者の告白を描いただけの物語ではない。ノートの執筆者の人生は、「アナタ」との出会いによって大きく変わった。今まで知ることのなかった「愛」という感情。あたたかい愛情の日々。だが、簡単に過去の罪から逃れられるわけはなく、幸せな日々は長くは続かない。ノートを読み終えた時、亮介は、一体何を思うのだろう。一体どんな行動に出るのだろうか。

 猟奇的なミステリーかと思って読み始めたら、予想だにしない展開に驚かされることになる。人間の罪業と愛情。次第に愛の物語へと変貌していくこの小説の不思議さをぜひとも味わってほしい。

文=アサトーミナミ