山尾志桜里衆議院議員が幹事長に就任する大抜擢人事は、「総合的な判断」(前原誠司代表)で白紙化した(撮影:吉野純治)

断頭台の露と消えたフランス王妃マリー・アントワネットは、ルイ16世となるフランス王太子と結婚した際、結婚証書にうっかりインクのしみを付けた。それは後の悲劇の前兆と解されている。

同じように、あれも前兆だったかもしれない。9月1日の民進党代表選で「本命」とされた前原誠司元国交大臣が、その演説のクライマックスで噛んでしまった件だ。

「24年間の国会議員のすべてをかけて、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負、ぜひ私に荒波の先頭に立たせてください!どうかみなさん方、もう一度みなさん方と一緒に、政権交代をジツヨウシハイ……」

緊張で思わず力んでしまったのだろう。舌が回らなかった前原氏は照れ臭そうに笑い、「失礼しました」と謝った。

超重要ポスト「幹事長」を誰にするか

この時の勝負の女神は、まだ前原氏に微笑んでいるように見えた。前原氏は502ポイント対332ポイントで枝野幸男元幹事長を下している。国会議員による無効票が8票出たが、選挙の大勢には影響しなかった。

注目は、幹事長人事だった。就任すれば次期衆議院議員選の指揮を執ることになる超重要ポストだ。

「幹事長には大島敦さんがいいと思う人は多い。いま党内をいちばんまとめられるのは、あの人だ。メディアにはほとんど出ないから、顔は知られていないけど」。ある議員はこう言っていた。しかし内定を得たのは、山尾志桜里衆議院議員。まだ当選2回ながら、2016年3月の民進党結党時に、岡田克也元代表に政調会長に抜擢された。

山尾氏は東大法学部を出て検事となったが、小学校時代にはミュージカル『アニー』で主役を務めたこともある。その華やかな経歴は、民進党の女性議員の中でも一段と目立つ存在だ。7月30日の横浜市長選では、現職の林文子市長を応援し、勝利に導いている。

ところが山尾氏起用には反対の声が多々あった。「山尾幹事長なんて、がっかりだ。あの人は野党共闘賛成派。いったい何のために代表選で前原さんを応援したのかわからない」。中には「女性なら誰でもいいというのなら、甘すぎる」と辛辣さを極めたものまで飛んでいた。

ところが一転、9月4日に山尾氏の内定が撤回された。理由は7日発売の『週刊文春』(文藝春秋)で、“不倫疑惑”が報じられるためだ。相手は民進党にかかわる弁護士で家庭がある。山尾氏にも夫と長男がいるため、“ダブル不倫”になってしまう。

山尾氏も弁護士も否定

翌5日には、テレビ東京が昼のニュース報道番組で「幹事長起用断念の理由は、私生活を巡るスキャンダル」と報じた。報道番組でこうした問題を報じるのは珍しい。

「山尾氏の問題は、すでにいろんなメディアが把握していて、かなり前から調べていた。今まで出さなかったのは山尾氏がヒラの議員だったからで、民進党の幹事長に就任するなら、そりゃ出すでしょ」

週刊誌の記者がそう述べるとおり、他誌も含めて取材はかなり進んでいたようだ。山尾氏と相手の弁護士はこれを否定しており報道内容を事実と断じるのは早計だが、ここ最近で議員の“不倫”が報じられた例を見ると、以下のようになる。

●2015年3月、『週刊新潮』(新潮社)が中川侑子農水政務官(当時)と門博文衆議院議員の不倫関係を報道。

●2016年2月、『週刊文春』が宮崎謙介衆議院議員(当時)とタレントの不倫関係を報道。

●2017年3月、『フライデー』(講談社)が中川俊直経済産業大臣政務官(当時)と前川めぐみ衆議院議員との「不適切な深夜の会合」を報道。

●2017年4月、『週刊新潮』が中川俊直経済産業大臣政務官(当時)と元同僚の女性の「ハワイ挙式」を報道。

●2017年7月、『週刊新潮』が今井絵理子参議院議員と橋本健神戸市議(当時)との「軽率な行為」を報道。

このうち宮崎謙介氏は衆議院議員を辞職し、中川俊直氏は自民党を離党。橋本健神戸市議は市議を辞職している。いずれもダブル不倫ではないが、議員本人が既婚者であるケースだった。

つまり、「既婚の議員が不倫をした場合」には厳しい処分が下ることが多いといえるだろう。もし『週刊文春』の報道が事実なのであれば、ダブル不倫である山尾氏の場合、責任追及はかなり厳しいものになるはずだ。


9月1日に行われた民進党代表選。前原新代表(中央)は船出直後から躓いてしまった(撮影:尾形文繁)

もっとも前原氏は、山尾氏の幹事長内定撤回について、単に「総合的に判断した」と述べていた。その中で山尾氏の起用についての質問には「全国を飛び回ってもらいたい気持ちがあった。その気持ちは変わっていない」「有為な人材なので思い切り活躍してもらいたいと考えている」と答えている。

その一方で、10月22日に投開票される衆議院補選では、山尾氏も応援に入ってもらうのかという質問に対し、前原氏は「みなさん方に3つの補欠選挙については、しっかり応援に行っていただきたいと思っている」とはぐらかした。

スキャンダルのイメージを払拭できるのか

「山尾氏が応援に行きたいと言っても、候補者が断ると思う。不倫スキャンダルを払拭しない限り、負のイメージは残る」

ある民進党関係者はこう述べた。信頼回復には山尾氏が自ら釈明をするしかないが、政調会長時代に発覚した過大なガソリンプリペイドカード問題についても、山尾氏の説明が十分なものであったとは言い難いものだった。

なお関係者によると、『週刊文春』は山尾氏に関するネタをほかにも数本準備しているようである。前原民進党は、船出と同時に大きなダメージを受けることになりそうだ。