究極の苦行から見えた、心を軽くする方法とは?(trikehawks / PIXTA)

イライラ続きでぐったり。多忙な毎日で心も身体も不調続き。しんどいことばかりでやる気も出ない……。そんな状況を改善できたらもっと生産性が上がるのにと思いつつ、「どうしようもない」とあきらめてはいませんか?
実は、ストレス過多な現代社会に生きる人々の心を軽くし、活力みなぎる健康な身体を取り戻す方法のヒントは、お釈迦さまの教えにあります。究極の荒行を通して、人生の歩み方を悟った塩沼亮潤氏が、その極意と具体的な実践方法について語ります。

長寿化が進む社会において、心身共に健全・健康に生きるために……。
成果主義偏重の現代社会に疲れ果て、人間関係の悩みにより心に悩みを抱えている人たちのために……。

私は「歩行禅」を提唱しています。

歩行禅は、お釈迦様の教えと、かつて私が修めた「大峯千日回峰行」(おおみねせんにちかいほうぎょう)という仏道修行のエッセンスを土台とした、いわば“プチ修行”です。

究極の荒行から生まれた現代人のための“プチ修行”

大峯千日回峰行とは、山へ籠もって厳しい修行を実践することにより悟りを得ようとする「修験道」という仏教の一派において、1000年以上も前から行じられてきた歴史と伝統のある修行です。

その内容は、奈良県吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山と呼ばれる山上ヶ岳までの往復48キロメートルを1日16時間かけて歩き、それを1000日間、雪で山が閉ざされる期間を除いて足かけ9年にわたり続けるというものです。大峯千日回峰行を満行した者は1300年のなかでわずか2人。私は24歳のときに入行し、9年後、無事にその1人となることができました。

さて、この大峯千日回峰行は大変に過酷な修行でしたが、みなさんにお勧めする歩行禅はそのエッセンスだけをすくいとって実用化したものですから、ハードさは何一つありません。

詳しいやり方は後半でご紹介いたしますが、まず大枠だけを簡単にお伝えしましょう。歩行禅は、以下の3ステップから成る“心のエクササイズ”です。これを毎日続けることで、心身の調子を整える効果が得られます。

【ステップ1】懺悔の行――「ごめんなさい」を唱えながら歩く

【ステップ2】感謝の行――「ありがとう」を唱えながら歩く

【ステップ3】坐禅の行――瞑想して、いまの自分と向き合う

「ウォーキング」と「客観視」の効能

歩行禅の大きな柱は、文字どおり「歩く」こと、つまりウォーキングです。ウォーキングにより、幸福感をアップさせる働きのある「セロトニン」という脳内ホルモン(神経伝達物質)の分泌量が増えることをご存じでしょうか。このセロトニンが不足すると、うつ病や不安障害、不眠症などの不調を招くことが知られています。

さらに、ウォーキングに付随した「ごめんなさい」「ありがとう」「いまの自分と向き合う」という一連の思考作業(=瞑想)が、自分自身や、自分が置かれた状況を客観視する訓練になります。

怒り、苦しさ、つらさ、悲しさといった感情に襲われるのは生きているうえで避けられないことなのですが、いつまでもそのネガティブな感情にとらわれていると、光にあふれた幸せな人生からはどんどん遠ざかっていくことになります。

お釈迦様は、『法句経』という経典のなかで次のようにおっしゃっています。

「ものごとは心に導かれ、心に仕え、心によって作り出される。もし人が汚れた心で話し、行動するなら、その人には苦しみが付き従う。もし人が清らかな心で話し、行動するなら、その人には楽が付き従う。あたかも身体から離れることのない影のように」

このように、人生の「幸せ」や「不幸」というのはすべて自分の心の持ち方次第なのです。何か嫌なことがあったとき、心の汚れやネガティブな感情に素早く「気づき」、さっと「手放す」ことが重要なのですが、そのために役に立つのが、前述した「自分を客観視する視点」です。

私たち人間は、放っておくとどうしてもネガティブな感情に引きずられてしまいがちです。しかし、一歩引いた目線で懴悔と感謝をする時間を設け、自分自身の心や置かれた状況を俯瞰する習慣をつけることで、ストレスに強いタフな心を育てることができます。

歩行禅は、それを目的とした心のエクササイズであり、人生のプチ修行であるというわけです。

歩行禅のすべてのステップに共通しているのが、禅における「調身・調息・調心」の原則です。これは、全身の姿勢(=身)を整え、呼吸(=息)を整えると、精神(=心)が゙整ってくるという考え方です。

この「身息心」は、坐禅を組むときに限らず、日常生活のなかで心をリセットしたいときや精神を安定させたいときも“使える”テクニックです。

みなさんも、普段の生活を振り返ってみてください。目の前のネガティブな要素にとらわれているとき、知らず知らずのうちに姿勢はゆがみ、目線は下に向き、呼吸は浅くなっているはずです。そんなときには、まず姿勢(=身)を正し、次に呼吸(=息)を深く整えることで、心がリセットできます。必ず役立つライフハックのひとつですから、ぜひ覚えておいてください。

いざ、歩行禅に挑戦してみよう

それではいよいよ、各ステップの具体的なやり方をご説明しましょう。

【ステップ1】懺悔の行――「ごめんなさい」を唱えながら歩く

「身息心」に則り背筋を伸ばし、息を整えたら、正しい姿勢と深い呼吸をキープしながらウォーキングを開始します。その最中に、自分がこれまでに犯してしまった罪や過ち、反省すべきことを思いつくかぎり挙げて、心のなかで「ごめんなさい、ごめんなさい」と懴悔しながら歩きましょう。

具体的なエピソードが思い浮かばない場合は、「知らないうちに、誰かに嫌な思いをさせていないかな?」「何か悪いことや、後ろめたいことをしなかったかな?」と自問自答を重ねてください。

【ステップ2】感謝の行――「ありがとう」を唱えながら歩く

ステップ1と同様に「身息心」を意識してウォーキングをしながら、今度は感謝に思いをめぐらせます。自分を取り巻くあらゆる人、あらゆるご縁、あらゆる環境に対して「ありがとうございます」と心のなかで唱え、感謝したいことをできるかぎりたくさん思い浮かべながら歩いてください。

感謝の対象は、身近な家族や仲間でも、世の中を支えてくれている見知らぬ人々の存在でも、はたまた、太陽や空気や水といった物理的存在でも何でもかまいません。

ステップ1、2とも、歩く距離や、おこなう時間帯、場所などは各自の自由です。たとえば、朝の通勤時に【懴悔の行】を、夜の帰宅時に【感謝の行】を実践するなど、自分が最も習慣化しやすいように生活の“時間割”のなかに組み込むとよいでしょう。

【ステップ3】坐禅の行――瞑想して、いまの自分と向き合う

ステップ1、2を終えたあと、最後に必ず実践していただきたいのがステップ3の坐禅・瞑想の時間です。

まず、静かな環境であぐらを組みます。そして、左右の手のひらと親指で丸く円窓を作り、それを下腹部のあたりに自然に置きましょう。座禅の最中は、この円窓をきれいな形に保つようにしてください。そして、「身息心」の流れで姿勢と呼吸を整えたら、軽く目を閉じて瞑想に入ります。坐禅を組みながら、いま自分が置かれている状況に思いをめぐらせてください。シンプルですが、基本はこれだけです。

坐禅は、正式なやり方は宗派や流儀によって異なるのですが、歩行禅では、誰でも実践しやすいように宗教色を薄く、「いまの自分と客観的に向き合う」ことをテーマにしました。坐禅を続ける時間は自由ですが、初心者なら、まずは「最低でも5分」を目標にしましょう。

「ウォーキング+瞑想」は最強の組み合わせ


私にとって大峯千日回峰行は、ひたすら山道を歩きながらお釈迦様の教えのもとに自問自答を重ね、「悟り」の境地に近づこうとする修行でした。ごく簡単に言ってしまえば、この大峯千日回峰行での経験をベースに、ウォーキングと坐禅と瞑想を組み合わせたものが「歩行禅」です。

坐禅や瞑想は、近年、世界的なブームとなっている「マインドフルネス」の手法として再評価されていますし、ウォーキングの健康効果については、ここで改めてお伝えするまでもありませんね。

心身相関という言葉があるように、心が病むと身体に不調があらわれますし、身体の調子が悪ければ心の元気もなくなります。ウォーキングと瞑想を組み合わせた歩行禅は、この「心」と「身体」を両面から健全にする、“1粒で2度おいしい”メソッドなのです。