博報堂式打ち合わせテーマの広げ方とは?(写真:Ushico / PIXTA)

斬新なアイデアが出ない、と会議が膠着状態に陥ることはありませんか? 常識や固定観念にとらわれ、「このアイデアは本題と関係ないだろう」「こんなアイデアはさすがにありえない」などと、無意識に頭の中で取捨選択した結果、みな無言になったり、ありきたりな案に落ち着いたりしがちです。
そんなときに「必要なのは議論の拡散だ」というのは、博報堂でコンサルタントを務め、『博報堂のすごい打ち合わせ』の執筆にもかかわった岡田庄生氏。ただの雑談とは一線を画す、アイデアが生まれる打ち合わせのやり方について、教えていただきます。

前回の記事で、新しい発想を生み出すための打ち合わせには「拡散」が必要である、とご説明しました。でも「議論を拡散してしまうと収拾がつかなくなるのでは?」と疑問に感じる読者も多いかもしれません。

いくら拡散が大事だといっても、やみくもに話題をあちこちに振ればよいわけではありません。限られた時間の中で、効率的に拡散と収束を行うためには、テーマの“広げ方”が重要になります。

そこで、私たちが意識しているテーマの広げ方について、「円」をモチーフに説明してみたいと思います。

初めに、打ち合わせの「論点」を明確にする

博報堂では、拡散することを「360度広げて考える」という言葉で表現することがあります。

アイデアを広げる作業は、円を描く作業に似ています。円には、「中心点」と「円周」があります。この2つの言葉を打ち合わせに当てはめてみると、中心点は「打ち合わせの論点」、円周は「アイデアの境界線」ということになります。 

この2つがきれいに描けると、参加者が自由にアイデアを広げやすく、収束もしやすくなるのです。「打ち合わせの論点」と「アイデアの境界線」について、具体的な事例を使って説明してみましょう。

まずは、「打ち合わせの論点」についてです。

あるハミガキメーカーから「コモディティ化が進むハミガキ市場にどう対応すればよいか?」というご相談をいただいて、打ち合わせを行ったときのことです。

「コモディティ化」とは、一般的には、競合他社と商品の差がほとんどなく、価格ばかりが下がってしまう成熟市場を指します。スーパーやドラッグストアのハミガキ売り場を思い出せば、コモディティ化の様子を想像しやすいかもしれません。

「どう対応すればよいか?」という問いを打ち合わせの中心に置いてしまうと、アイデアの範囲が広すぎてしまい、とっかかりがなくなってしまいます。そこで、博報堂のあるクリエイターはクライアントに次のような質問を投げかけました。

「わが家に子どもが2人いるのですが、毎日のハミガキを嫌がってサボろうとします。また、博報堂の男性社員の中で、ランチの後にハミガキをする人は全体の1割ぐらいでしょう。商品は成熟しているものの、ハミガキ行為自体は成熟していないのはなぜですか?」

先方は、予想もしない質問だったようで、ああでもない、こうでもない、と議論が盛り上がり始めました。そして、そのプロジェクトの中心となる論点は、「コモディティ化にどう対応するか?」ではなく、「ハミガキ行為はなぜ成熟しないのか?」へと変わったのです。

このように、事前に決められたテーマが必ずしも、そのまま「論点」として使えるとは限りません。特に、テーマに「コモディティ」のようなカタカナ言葉がある場合、お互いの共通認識がずれていて、その後の議論がまったくかみ合わないという事態になることもよくあります。

そのため、まずは参加者全員でテーマを見つめ直し、ふさわしい「論点」を設定することが大切なのです。

アイデアに境界線を引く

打ち合わせの論点が見つかれば、次はいよいよアイデアを拡散していきます。

ただし、無制限にアイデアを広げようと思っても、なかなか広げることはできません。そこで、重要になるのが、アイデアに境界線を引くことです。

先に「アイデアとして、どこまではアリで、どこからはナシか」を明確にすることで、アイデアを出しやすくすることができます。

ここでは、アイデアに境界線を引く方法の一例として、コンサルティング部門のある男性社員が行った、「ギリギリレース」という手法をご紹介します。この手法を用いると、アイデアの境界線を短時間で引くことができます。

あるエネルギー関連企業のA社がスマートハウス事業へ参画する際、博報堂が「ビジョンづくり」のお手伝いをしたときのことです。

スマートハウスとは、IT(情報技術)を使って、家庭内のエネルギー消費を管理しようという、省エネ住宅のことです。エアコン、テレビ、冷蔵庫などの家電機器、照明機器、トイレ、浴室などをネットワークで結び、生活者のニーズに応じたサービスを提供します。

その男性社員は、A社の担当者とワークショップを開き、「A社が将来の事業で携わるギリギリの領域」を考えることにしました。

まず、事前に「クリーニング屋さん」「ホテル」「農園」「カーシェア」「ゲームアプリ」など、「住宅」とは直接関係のないキーワードが書かれたカードを用意します。そして、カードをひとつずつ見ながら、「これは、アリか、ナシか」を全員で話し合っていくのです。

その結果、「A社のスマートハウス事業は、その人にとって家が心の休まる場所になるサービスであれば、ギリギリあり」「ホテルやゲームアプリなど、他人と共有するものはギリギリなし」というA社の関心領域が明らかになったそうです。

このように、想定外の発想が必要なときには、予算や時間という事情を取り払って「ギリギリどこまでできるのか?」を考えることが重要になります。

そして、境界線が明確になった状態で打ち合わせを重ねると、的外れなアイデアが減りつつ、かつ、いつもとは違うアイデアが出やすくなります。参加者が知らず知らずのうちに持っている、発想の「ワク」を取り払うことが、アイデアの境界線をギリギリまで広げるメリットなのです。

アイデアを効率的に拡散させるコツ

もうひとつ、効率的にアイデアを拡散させるコツを紹介したいと思います。

アイデアの出し方ではなく、選び方に関するコツです。これも、例を使って説明したいと思います。

たとえば、「社員の団結力を高める」ことを目的とした社内イベントのアイデアを考えてください、というお題があったとします。それに対して、3人の社員が次のようなアイデアを持ち寄りました。

Aさん:みんなでボーリング大会を行い、盛り上がる
Bさん:家族ぐるみでBBQにいき、親睦を深める
Cさん:オフィスに本棚を置き、ひとり1冊オススメ本を持ち寄る

3人のアイデアを聞いた後、「どの案を採用するか?」という思考で話し合ってしまうと、良い拡散は生まれません。一方で、「どのボーリング場が良いか」「どんな本が面白いか」など、アイデアの細かい点ばかり話してしまうと、話が広がりすぎて収拾がつきません。

ここで大事なのは、表面的なアイデアの良しあしではなく、「それぞれの案の裏には、どのようなコンセプトがあるのか?」という点です。

アイデアの裏側には、それぞれが考えた「狙い」があります。たとえばこの場合、Cさんの「会社に本棚を置く」というアイデアの裏には、「本を持ってくることで、その人の仕事以外の『オフ』の趣味や関心事がわかると、話しかけやすくなる」という「狙い」があったとします。

よって、Cさんのコンセプトは「人となりを知る」ということであって、本棚というアイデアはあくまで手法にすぎません。

「コンセプト」レベルで選ぶ


今回のテーマが「社員の団結力を高める」ということでしたので、そのような視点で考えると、ボーリングやBBQに行くだけよりも、Cさんの案のほうが効果的かもしれません。さらに言えば、「本棚を置く」以外にも、人となりがわかるアイデアはまだまだありそうです。

Cさんのコンセプトを生かしつつ、あらためて、もう一度このコンセプトの元で考えてみると、「過去の失敗スピーチコンテスト」「小学校の卒業文集披露」など、さまざまなアイデアを拡散することができます。しかも、「人となりを知る」という中心点が共有されているので、どれだけ拡散しても速やかに収束することができます。

このように、アイデアを表面的に選ぶのではなく、「コンセプト」レベルで選ぶことが、効率的に拡散するためのコツです。

具体的なアイデアと、抽象的なコンセプトを行き来する発想法は、博報堂の打ち合わせの基本的なルールです。特に、1回目のアイデア出しの打ち合わせで重要なのは、アイデアそのものではなく、「コンセプトを決める」という共通認識を持って行うことです。ですので、話す側も聞く側も、「アイデア」と「コンセプト」を分けて考えながら会話をするようにしているのです。