「パルメザン」「ゴルゴンゾーラ」 国産 チーズ 表示不可? 「個性で勝負」 「安易に命名」 一般化が基準 異議 来月まで

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 「パルメザン」「ゴルゴンゾーラ」などの名称が付いた国産チーズが消える――? 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)で、産地ブランドを保護する地理的表示(GI)が適用される。消費者に“本物の産地”と誤認させる恐れのある商品表示が、双方で禁止となる。EUは農産品で日本に71品目の保護を求めており、特に影響がありそうなのがチーズだ。商品名に使えなくなるものも多く、手作りチーズを販売する酪農家などは動向を注視している。

EPAでGI保護


 GI制度では、地域の気候風土や伝統製法が育んだ農産品の名称を保護する。偽物の名称使用を禁じ、農産品の価値を守る狙いがある。
 日欧EPAの大枠合意に基づき、日欧は双方でGIを保護する。欧州は71品目、日本は31品目の農産品を提示。審査手続きを経てEPA発効後、保護が義務化される。
 「ゴルゴンゾーラ」など欧州のGIは日本で保護され、日本国内で製造したチーズはその名称で販売できなくなる見通し。71品目のリスト中チーズが最も多く、ハムやソーセージ類、オリーブ油、伝統菓子なども挙がる。
 フランスのノルマンディー地方で作られる「カマンベール・ド・ノルマンディ」のようにリストにある名称は、欧州の本来の産地以外は使えない。「北海道産」「ゴルゴンゾーラ風チーズ」などの表現もできない。「パルミジャーノ・レッジャーノ」を翻訳した「パルメザンチーズ」の名称も使えなくなる見通しだ。一方で、名称が一般化して国際規格で認められている「カマンベール」や「ゴーダ」などの名称は今後も使用できる見通しだ。
 農水省は71品目の詳細をホームページで公開しており、10月上旬まで意見書の提出期間を設け、異議申し立てができる。同省は国内の流通状況も調べ、専門家の意見を踏まえて最終的に保護するかどうかを決める。
 乳業メーカーなどでつくるチーズ公正取引協議会は同省に意見書を提出。国内市場の混乱を避けるとともに、国内酪農業の発展などに向け、「一般に使用されている名称は指定の対象外にすべき」とした。
 一方で、国内でGI登録した農産物を輸出する産地にとっては、EUでの偽ブランドの取り締まりや知名度向上が期待できる。
 GI制度を推進する食品需給研究センターによると、例えばGI登録されている「神戸ビーフ」は、別産地なのに神戸産だと消費者に誤認させる類似品があった場合、産地関係者がその国の規制当局に報告すると、当局が指導や警告、悪質な場合は訴訟などに乗り出してくれる。EUでは既に、こうした取り締まりの実例もあるという。

専門店は冷静


 広島県三次市で酪農とチーズ店「三良坂フロマージュ」を営む松原正典さん(43)は、牛とヤギを放牧しチーズを製造・販売している。
 「モッツァレラ」やフレッシュチーズ「フロマージュ・ブラン」など多様な商品を扱うが、当初からGIに抵触しない商品名を使ってきた。「大手メーカーは商品名で差別化を図る必要があるかもしれないが、個人は味や物語など個性で勝負している」と話す。
 東京都江東区の北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」では、「ゴーダタイプ」「カマンベールタイプ」と銘打った商品はあるが、現段階で制度に抵触するような商品は置いていないという。
 同店を経営する今野徹代表は「業界は、白かびタイプはカマンベール、などと分かりやすく商品説明する上で、安易に地名を使ってきた」と指摘する。GIによる産地表示の厳正化について「他人のふんどしで相撲を取っていた行為を正す意義は大きい。消費者に自らのチーズを一から説明する良い機会になる」と前向きに捉える。(隅内曜子、福井達之)