『独裁者ですが、なにか?』を上梓した荒木源氏

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 北朝鮮のミサイル発射をめぐって緊張が高まる中、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長を思わせる男が主人公の小説『独裁者ですが、なにか?』(小学館文庫)が出版された。「現実とのリンクを意識した」という著者の荒木源氏は、「日本人の危機意識のいびつさ」も指摘する。

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「ジョンウィン」と名付けられたこの主人公、特徴的なへスタイルや太鼓腹の外見だけでなく、独裁国家「ペックランド」最高指導者としての言動も、伝えられる“本人”のそれを彷彿させる。

 本の帯に「緊急出版」と謳われている通り、ストーリーには最近のニュースが取り込まれた。ジョンウィンが敵対国の大統領・タンプルと繰り広げる非難合戦など、グアムに向けたミサイル発射計画をめぐって現実にあった、北朝鮮・アメリカ間のやりとりを想起させずにおかない。

 ただ小説では、グアムではなく、日本とおぼしい「ヤップランド」の近海にミサイルの照準が合わせられる。その顛末が、ペックランド内部の動きとともに綴られてゆくのである。

 原稿が書き始められたのは6月半ばだったが、その後も北朝鮮はミサイルがらみの挑発行動をエスカレートさせ、情勢が切迫する。「せきたてられる気分で」、荒木氏は2カ月足らずのうちに小説を完成させた。途中で、小説と現実が追いかけっこをしているみたいに感じたこともあったという。

「ジョンウィンは、ヤップランドの沖合30キロに向けてのミサイル発射を命じます。領海のギリギリ外、を狙うわけですね。そのくだりを書いてほどなく、グアムに向けた北朝鮮のミサイル発射計画が明らかになったんですが、目標が同じく陸地から30キロだっていうんです。びっくりしました」

 この小説を荒木氏が構想したもともとのきっかけは、金委員長のパーソナリティーへの関心だった。

「エキセントリックな面ばかり注目されますが、ヨーロッパに留学経験があるようだし、インターネットも使いこなすとのこと。我々とそんなに違わない感覚の持ち主じゃないかと思えてならないんです」

 と荒木氏は言う。

「実際のところどうなのかは分からないとしかいいようがありませんけれど、フィクションでなら書ける。金委員長が本音で何を思っているのか、僕なりの仮説を展開してみたかった」

 その仮説の中で、重要な役割を果たすのが「家族」である。

 小説には、金委員長の異母兄で、北朝鮮当局による毒殺が報じられた正男(ジョンナム)氏にあたる「ジョンナムール」も出てくる。やはりすでに死んでいるはずのジョンナムールだが、人間と会話ができるAIロボットが、ジョンウィンを前に突然、自分はジョンナムールだと宣言し、当人としか思えないふるまいを始めるのである。

 その正体が何なのか、読者に考えてもらいたいとする荒木氏だが、ロボットについては、ヤップランドから密輸されたという設定になっており、日本企業製の実在する製品を連想させないでもない。

 荒木氏は、ミサイル問題に対するヤップランド人の反応も描いた。すなわちそれは、氏の目に映る日本人の姿である。

「危機意識のいびつさは気になりますね。漠然と怖がって騒ぐけれど、具体的にどうしてどういうふうに危ないのか、正確に理解している人は多分そんなにいない。備えるにしろリスクを受け入れるにしろ、本気で対応する覚悟があるようにも思えない」

 小説の中で起きる不測の事態。似たようなことが現実にならないと言い切れるだろうか。その時世界はどう動くのか? そして日本はどうふるまうべきなのか?