北朝鮮が9月3日に行った核兵器爆発実験は米国の官民を激しく揺さぶった。トランプ政権は北朝鮮への姿勢を一段と硬化させ、軍事攻撃の可能性を改めて示唆した。

 ところがその米国の一部専門家の間に、このまま北朝鮮の核兵器保有を容認すべきだとする主張が出始めている。

 この容認論は現段階ではごく少数派の意見だが、今後勢いを得ると、米国の安全保障だけでなく日米同盟や日本にとってもきわめて危険な要因を生むことになりそうである。

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北朝鮮の非核化はもう不可能?

 北朝鮮が「水爆実験に成功した」と宣言した6回目の核実験は、米国でも大ニュースとして報じられた。トランプ政権もこの核実験を、最近の北朝鮮の2回のICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験と合わせて、米国のみならず国際社会にとっての重大な脅威として重く受け止めている。

 トランプ政権は「北朝鮮の核兵器開発は絶対に認めない」という歴代政権の政策を継承し、軍事的手段も選択肢の1つとしながら北への経済制裁をさらに厳しく強化する構えを明示した。その結果、米朝関係はこれまでにない緊張をみせ、軍事衝突の可能性も議論される状況となっている。

 ところが米国内ではごく最近になって、北朝鮮を非核の状態へ戻すことはもう不可能だとして、その核兵器保有を認め、そのうえで北の核戦力を抑止、あるいは封じ込める策を考えるべきだという主張が出始めた。

 まず目立ったのは、オバマ政権の国家安全保障担当大統領補佐官だったスーザン・ライス氏の容認論だった。同氏は8月中旬のニューヨーク・タイムズへの寄稿論文で「米国は実利的な戦略として北朝鮮の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑え、米国自身の防衛力を強めるべきだ」と主張した。北朝鮮に強硬策で核放棄を迫っても、最後は軍事攻撃という手段しかなく、全面戦争につながる危険があるので、北の非核化はもう不可能だという趣旨だった。

 また、オバマ政権で国家情報長官を務めたジェームズ・クラッパー氏も、この8月、CNNテレビのインタビューで、「北朝鮮の核武装は、それを受け入れたうえでコントロールの方法を考えるべきだ」と述べた。

 かつてクリントン政権で北朝鮮の核開発の放棄を目指す米朝合意の交渉役となったロバート・ガルーチ元大使も、最近になって「北朝鮮の核兵器も抑止は可能だ」と述べ、北の核武装の容認を示唆した。

北朝鮮核兵器開発容認論の5つの危険性

 しかし1990年代以降、米国の歴代政権は、共和、民主の党派を問わず、みな一致して北朝鮮の核開発は絶対に容認できないという立場をとってきた。この多数派の思考が揺らぐことはなく、トランプ政権も容認論には手厳しく反論を表明している。

 北朝鮮核兵器開発容認論には、大きな危険性や欠陥が指摘されている。5つの危険性を挙げてみよう。

 第1に、北朝鮮には従来の核抑止があてはまらない危険性である。

 この点についてトランプ政権のH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「ライス氏の主張は間違っている」と強く反論した。北朝鮮はそもそも一般の国家の理性や合理性に従わない「無法国家」なので、東西冷戦時代に米国とソ連との間に存在したような「伝統的な抑止」は適用できないという。つまり、相手国からの核による威嚇に対して、核で徹底的に反撃する姿勢を示すことで相手の攻撃や威嚇を止める「抑止」の機能は、こと北朝鮮に関しては効力がないという指摘である。

 第2には、北朝鮮の核兵器が他の無法国家やテロ組織に拡散する危険性である。

 そもそも北朝鮮は、これまでイランやイラク、さらに中東のテロ組織との軍事交流があり、とくに核開発ではイランとの技術相互供与があった。最近のブルッキングス研究所の調査報告書も、「北朝鮮は、米国に対して敵意を抱く他の諸国や組織に、核兵器関連の技術や部品を売ろうとする動きをすでに何回も見せている」と警告していた。

 第3は、国際的な核兵器の管理体制「核拡散防止条約(NPT)」が崩壊する危険性である。

 現在の国際社会は、米国、ロシア、中国、イギリス、フランスの5カ国を公式の核兵器保有国として認め、他の諸国の核武装は阻むというNPTのシステムで核拡散を防いできた。だが、北朝鮮はこのシステムを完全に無視してきた。その無法な行動を認めるとNPT全体の崩壊につながりかねない、とうわけだ。

 米国には、「北朝鮮が公然たる核保有国となれば、韓国や日本も自衛のために核武装に走る」という予測も多い。もしそんな事態となれば、ここでもNPTは根底が揺らぎ、崩壊に至る。

 第4は、北朝鮮が核兵器の威力を年来の野望に利用する危険性である。

 北朝鮮はそもそも韓国を正当な国家と認めず、朝鮮半島を武力を使ってでも統一することを誓っている。その実現のために、米韓同盟を崩し、米軍を朝鮮半島や東アジアから追い払うことを目指す。また、日本を米国の追従勢力として敵視し、日米同盟および日本国内の米軍基地への攻撃的な態度を露わにする。こうした戦闘的な姿勢が、核武装によってますます尖鋭かつ攻撃的になる危険性が高い。

 第5は、米国の日本に対する「核の傘」が弱くなる危険性である。

 米国は、万が一、同盟国の日本が核による攻撃や威嚇を受けた場合、米国がその敵に対して核で報復をすることを誓約している。ところが北朝鮮が正規の核保有国となり、米国本土への核攻撃の能力も確実となると、米国が自国への核攻撃を覚悟してまで日本のために核を使うのはためらうようになることも予測される。つまり、米国と日本の「核抑止」に関しての絆が切り離される(decouple)危険が生まれる。

 以上のように、北朝鮮を公式な核兵器保有国として認めてしまうことには数多くの危険が伴うというのである。とくに日本にとっては、北朝鮮の核の脅威の直接の増大や、米国の「核の傘」の揺らぎなど明らかに危険が大きいといえよう。

筆者:古森 義久