8月21日、「皆既日食帯」が西海岸オレゴン州から東海岸サウスカロライナ州へと米国14州を「横断」、国内外より詰めかけた多くの「観測者」が壮大なる天体ショーを神秘体験した。

 北米大陸を日食が横断するのは約100年ぶりのこと。ワシントンD.C.ではドナルド・トランプ大統領が観測用眼鏡をせず見上げようとし、「Don't look!」との声が上がる一幕もあった。

 日食のたび、網膜を傷つける人が続出する。朝日や夕陽を写し続ける写真家の多くが視力を犠牲にしているともいう。それほどに、太陽のエネルギーは強力なのだ。

 私は1990年代、メキシコとハンガリーで皆既日食を体験した。その瞬間の劇的な環境変化は、今でもはっきり覚えている。

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皆既日食による不思議な体験

 部分日食が始まっても、あまり変化は感じない。しかし、皆既となる数分前から、場の雰囲気に変化が訪れる。鶏が鳴き、犬が落ち着きなく走り回る。人間以上に、敏感に変化を感じているようだ。そして、急速にあたりは闇に包まれる。

 真昼にいきなり訪れる夜。空には星が輝いている。しかし、地平線の彼方には薄明かりが残っているのが夜と違う。急激な温度変化にさすがに「鈍感な」人間であっても違和感を覚えるようになる。

 そして、数分が過ぎ、また日常が戻る。白昼夢のような体験。

 今回、テレビで、ネットで、世界中が目にした皆既日食は、小学生でも原理を知る天体現象だが、かつて、天文学の知識がなかった人たちにとって、いつ太陽が戻るのか不安でたまらぬ悪夢であったに違いない。

 人口50万人ほどの人口最少州ワイオミングでは、「観測」に訪れた人々で一時「人口」が倍増。普段、車もまばらな平原の一本道が渋滞する様子をメディアは伝えた。

 アルゴンキン語族先住民の言葉で「大平原」を意味するワイオミング。東側は「Great Plains」と呼ばれる海抜1000〜2000メートルの平原が広がり、西側をロッキー山脈が北西から南東へと走る。

 「シャイアン族」から名づけられた最大の都会、州都シャイアンでも人口5万人ほどという自然豊かな地は、「Cowboy State」とも呼ばれる。

 その雄大な自然は、西部劇の古典『シェーン』(1953)のもう1つの主役だ。「シェーン、カムバック」と少年が叫ぶラストシーンも、グランド・ティトン国立公園の景観あっての名場面。窮屈な都会生活を送る者には癒しとなる。

 その敵役ガンマン役で強烈な印象を残し、数々の西部劇でも活躍したジャック・パランスが牧童頭として登場、アカデミー助演男優賞を受賞した『シティ・スリッカーズ』(1991)の主人公ミッチは、何とも言えぬ閉塞感に蝕まれ、自分を見失った「City Slicker(都会人)」。リフレッシュするべく、親友2人と牛追い(Cattle drive)ツアーに参加する。

 ニューメキシコに集まった個性的なツアーメンバーたちは、名作西部劇『赤い河』(1948)について語り合う。そして、映画を真似、帽子を振り、「Yee-haw!」のかけ声から、コロラドへと向かう牛追いの旅が始まる・・・。

 『赤い河(原題「Red River」)』は、南北戦争直後、テキサスからカンザス、ミズーリへと牛追いの旅をするカウボーイたちの苦難の物語。実際、テキサスからカンザスへは、累計500万頭がCattle driveで運ばれていったという。

 「Red River」とは現在のオクラホマとテキサスの州境を流れる川の名(同名の川があることから「Red River of the South」とも呼ぶ)。

南部に牛の市場はなかった

 1851年、孤児ガースを連れこの川を渡り、テキサスを南へと向かったダンソンは、米墨国境を流れるリオグランデ川近くで土地をみつけ、自らの雄牛とガースの雌牛2頭から牧場を始める。

 14年後、南北戦争からガースが戻ると、牧場は良質の食用牛にあふれていた。しかし、テキサスでは、1頭3ドルほどの価値しかなく、破産寸前。ダンソンは、市場のあるミズーリまで1000マイルもの道のりの牛追いを決意し、出発前日、カウボーイたちに言う。

 「君たちが戦争から戻ると何も残っていなかった。牛は散り散りとなり、土地はカーペットバッガーに取られた」

 「南部には牛の市場がないからカネもない。しかしミズーリにはある。だから行く」(「カーペットバッガー」については「差別と偏見の怖さを再認識させてくれる名作映画」で詳述)

 そして「インディアン・テリトリーも通る。ミズーリ州境にはギャングもいる」とも語った牛追いの旅は、土埃、風、雨、牛の暴走、脱落者、と困難を極めることになる。

 ミズーリでギャングに襲われたという男から、「鉄道も来ているという『噂』も聞くし、カンザスなら心配なのは『インディアン』だけ」との話を聞いても、ダンソンは頑なにミズーリに向かおうとする。

 カウボーイたちへの要求が一段と厳しくなるダンソンに対し、Red Riverを渡ったところで、ついにガースが反旗を翻す・・・。

 結局、ガースはカンザスで1頭20ドルの価格で業者に売ることに成功した。「噂」は正しく、カンザス・パシフィック鉄道が通じていたのである。

 彼らが鉄道に遭遇した1865年8月、初の大陸横断鉄道の工事も始まっていた。

 1862年6月、連邦議会が2つの鉄道の同時建設を認可。ユニオンパシフィック鉄道がネブラスカ準州オマハから西へ、セントラルパシフィック鉄道はカリフォルニア州サクラメントから東へと工事を進めていた。

 『アイアン・ホース』(1924)は、その完成までを、のちに「西部劇の巨匠」と呼ばれることになるジョン・フォード監督が描く大陸横断鉄道開通年代記。

 バッファロー・ビル・コディ、ワイルド・ビル・ヒコックといった「西部の英雄」も登場、テキサスからの牛追いなども描きながら、お決まりの「インディアンの襲撃」をクライマックスとし、1869年5月、グレートソルト湖の北方、ユタ準州プロモントリー・サミットで最後の枕木に「ゴールデンスパイク」が打ちこまれ、大陸を貫通することで、大団円となる。

黒人について語らない映画

 セントラルパシフィック鉄道では作業員の多くが中国人、一方のユニオンパシフィック鉄道では南北戦争の元兵士が多かったことを映画は描く。

 しかし、実際いたであろう黒人については触れていない。その実数についてははっきりしないが、奴隷解放後、西部へ向かった黒人は少なくなく、カウボーイの4人に1人が黒人だったとも言われている。

 1924年という製作時期もあるが、今に至るまで、西部劇で奴隷以外の黒人の姿を見ることはあまり多くない。

 「開拓期」を描く西部劇のほとんどが白人世界化されており、黒人リーダーのもと、アジア系や先住民、白人にしてもケイジャンもマウンテンマンまでもが共闘する『マグニフィセント・セブン』(2016)のような多様性を見せる西部劇の存在は意義深い。

 1862年の法案成立から7年も経ず、ネイティブ・アメリカンが「鉄の馬」と呼ぶ列車が大平原を走り、かつて半年を要した大陸横断の旅は、1週間に短縮された。

 同じ1862年、エイブラハム・リンカーン大統領は、政府による史上最大規模の「西部の未開発地払い下げ」を行うという「ホームステッド(Homestead)法」にも署名していた。

 もちろんその地は白人が「インディアン」と呼ぶネイティブ・アメリカンが古来生活してきたところ。そんな地が、最低5年の農業従事など条件付きとはいえ、1区画160エーカーが無償という自営農地法で、最終的に米国国土の1割が払い下げられることになるのである。

 こうして欧州では決して叶うはずがない地主となる「アメリカンドリーム」を実現しようと、西部移住は加速する。

 彼らを現地で待ち構えていた苦難は、「未開発」や、「インディアン」との対立ばかりではなかった。農地は、「先住」カウボーイたちの自由放牧で荒らされ、両者の間で争いが絶えなかったのである。

 『シェーン』には、農民追い出しを謀るカウボーイたちが、柵を壊し、牛に耕作地を押し潰させ、嫌がらせをするシーンがある。地域を牛耳る牧場主の言い分はこうだ。

 「『インディアン』と戦った牧畜業者が開拓した地だというのに、苦労も知らず後からやって来た者たちが、勝手に土地を囲い、水辺も奪った。そして、小川は干上がり、家畜を移動しなければならなくなった」

 「あんたの言うことは分かるが、その前に罠猟師も『インディアン』もいたはずだ。開拓は彼らが先。法では皆に権利がある」と「Homesteader」は反論・・・。

先住移民と後発移民の対立

 これは、先住移民と後発移民との対立であり、「Nativism」と「Equality」の争い、そして家畜が通れる共用地域「Open range」をめぐる「Range war」と呼ばれる戦いでもある。

 牛を追いフォート・アーモンの町へとやって来た初老の男ボスと重い過去を背負う男チャーリーは10年来のパートナー。若者2人も一緒だ。

 しかし、保安官も思いのままに住民を支配する大牧場主は彼らを歓迎せず、「ここには、遊牧の牛にタダで食わせる草はない」と言い放つ。チャーリーは「遊牧は合法だ」と「Open range」での権利を主張するが、対立は深まり・・・。

 米国では商業的にも批評家筋にも好評だったケヴィン・コスナー監督主演作『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』(2004)は、その原題「Open range」をめぐる物語。

 『シェーン』の物語にも、1890年代初め、ワイオミング州で起きた「Homesteader」と「Cattlemen」が対立する「Range war」である「Johnson County War」という歴史的背景がある。

 こうした対立は単純に善悪を色分けできない矛盾を抱えている。そして、多くの場合、白人のご都合主義から、「インディアン」の権利に対する視点が抜け落ち、論点がすり替えられている。

 『赤い河』で、リオグランデ川近くの土地を「見つけた」若き日のダンソンも、その地を護るガンマン相手にこんな持論を展開する。

 「ここは誰がいつから所有してるんだ?」

 「川向こう600キロ先に住むドン・ディエゴがスペイン国王から譲られたものだ」

 「国王は『インディアン』から奪ったんだろう? だから俺も奪う!」

 そして、撃ち合いの末、牧場用地を得るのである。

 1870年代になると、鉄の馬に乗り、ハンターたちが次々と西部にやって来た。多くは元兵士。彼らが求めるのは、高額で売れるアメリカバイソンの皮である。

 鉄道敷設工事の時には食料として重用され、白人たちの大切な鉄の馬に衝突するのを避けるため狩られてきたアメリカバイソンは、ネイティブ・アメリカンにとっては共生する命の糧。

「インディアン」を弱体化させるための狩猟

 肉や皮のみならず、ほぼすべての部分を活用していた。だからこそ、アメリカバイソンがいなくなれば「インディアン」そのものも弱体化すると考えた米国政府は狩りを奨励。かつて6000万頭いたと言われるるアメリカバイソンは、1880年代末には数百頭にまで激減したという。

 白人の思惑通り、大平原のアメリカバイソンたちは、鉄の馬と牛に取って代わられた。そして、武力と協定で保留地へと追いやられたネイティブ・アメリカンは、生活を無理やり変えられ、不自由な生き方を余儀なくされるのである。

 そもそも土地は「共用」とするのが当たり前で、「所有」の概念などなかった彼らから「獲得」していながら、「西部の文明化は天命」と言い放つ白人のご都合主義は、「Manifest Destiny」という言葉で守られていた。

 1889年1月、カリフォルニアからネバダ、ダコタにかけ、皆既日食が見られた。

 その際北パイユート族のウォヴォカが得た「Vision」から始まる新ムーブメント「Ghost Dance」がネイティブ・アメリカンの間に広がると、脅威を感じた白人たちが、米国政府の背中を押した。

 そして、1890年、悪名高い「ウンデッド・ニーの虐殺」をも引き起こした「Ghost Dance War」とも呼ばれる戦いでスー族の強固な抵抗も終焉へと向かうなか、1890年の合衆国国勢調査は、「フロンティア」消滅を告げたのである。

 ワイオミング州北東部に、年間40万人以上(2016年は50万人弱)の人々が訪れる人気の観光地Devils Towerがある。1906年、米国初の「National Monument」となった岩場は、高さ386メートルの「柱状節理」という垂直方向の割れ目が特徴。

 アラパホ族などネイティブ・アメリカンの信仰の対象だったこの地に多くの観光客がやって来るようになったのは、スティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇(原題「第三種接近遭遇」)』(1977)のクライマックスシーンの舞台となってからのことである。

 謎の飛行物体との遭遇以来、ある「Vision」が頭から離れず、日常生活にも支障をきたしていたロイは、それがDevils Towerであると確信、導かれるようにやって来た。

 一方、UFO内の何らかの動体との接触「第三種接近遭遇」を実現しようと、学者や軍などが、その接触地点としてDevils Towerで準備を進めていた。

 現れる巨大宇宙船。5音と光で交信を試みるうち、宇宙船から失踪していた人々が、さらに・・・。

 ロイは、周りからどう見られようと、未知なるものを拒絶することはない。だからこそ、「第三種接触遭遇」が実現できた。

 しかし、人は「未知との遭遇」があると、自らの世界に壁を作り、異(い)なものを拒絶しがちだ。それではブレークスルーは起こせない。それどころか、そんな姿勢が、恐怖となる感性が、差別や嫌悪を招いてしまう。

 「先住」「平等」について深く考えさせられる「西部開拓」時代の「生存競争」は、そんな人々への教訓に満ちた負の歴史であり、悲劇を繰り返さないためにも学ぶことは多い。

 しかし、トランプ大統領は、白人至上主義者の蛮行を厳しく非難することもせず、「公約」を守るための米墨国境の「壁」つくり予算をめぐり、「政府を閉鎖しなくてはならなくなっても壁はつくる」と語っているのが現実・・・

(本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号)

(1330) シェーン (1331) シティ・スリッカーズ (1332) 赤い河 (51) (再)アイアン・ホース (1333) マグニフィセント・セブン (1334) ワイルド・レンジ (413) (再)未知との遭遇    

シェーン


1330.シェーン Shane 1953年米国映画

(監督)ジョージ・スティーブンス
(出演)アラン・ラッド、ヴァン・ヘフリン、ジーン・アーサー、ジャック・パランス、ブランドン・デ・ワイルド

 大牧場主と農民が対立するワイオミングの地にやって来た流れ者が人々と触れ合うなか、自ら名うてのガンマンと対決することを選ぶ姿を描く「遥かなる山の呼び声」などヴィクター・ヤングの音楽と壮大な自然の風景も魅力の西部劇の古典。

シティ・スリッカーズ


1331.シティ・スリッカーズ City Slickers 1991年米国映画

(監督)ロン・アンダーウッド
(出演)ビリー・クリスタル、ダニエル・スターン、ジャック・パランス

 ニューヨークでの生活に疲れた中年男が、牛追い体験ツアーに参加し、自分を見出していく姿を、「サタデー・ナイト・ライブ」で人気の出たコメディアン、ビリー・クリスタルが製作総指揮も兼ね演じたコメディドラマ。

赤い河


1332.赤い河 Red River 1948年米国映画

(監督)ハワード・ホークス
(出演)ジョン・ウェイン、モンゴメリー・クリフト、ジョーン・ドルー、ウォルター・ブレナン
(音楽)ディミトリ・ティオムキン

 まだその安全な移動経路も確立されていない頃、テキサスから1000マイルに及ぶ牛追いを続けるカウボーイたちの苦難の旅を『脱出』(1944)『リオ・ブラボー』(1959)などの巨匠ハワード・ホークスが描く傑作西部劇。

アイアン・ホース


(再)51.アイアン・ホース Iron horse 1924年米国映画

(監督)ジョン・フォード
(出演)ジョージ・オブライエン

 大陸横断鉄道の構想から完成までを、沿線利権がらみの抗争と恋愛劇を交え描く西部劇の巨匠ジョン・フォード監督初期の傑作サイレント映画。

マグニフィセント・セブン


1333.マグニフィセント・セブン The Magnificent Seven 2016年米国映画

(監督)アントワーン・フークア
(出演)デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホーク、イ・ビョンホン

 金の採掘のため立ち退きを迫られる住民たちをまもるため立ち上がる民族も立場もまちまちな7人の活躍を『トレーニング デイ』(2001)のアントワーン・フークア監督、デンゼル・ワシントン主演で描く1960年の名作西部劇『荒野の七人』のリメイク。

ワイルド・レンジ


1334.ワイルド・レンジ 最後の銃撃 Open Range 2003年米国映画

(監督・出演)ケヴィン・コスナー
(出演)ロバート・デュヴァル、アネット・ベニング
(音楽)マイケル・ケイメン

 牧場をもたず遊牧を続ける中年男たちと、法律で認められている「Open Range」での遊牧を認めない大牧場主と対立を、ケヴィン・コスナーの監督主演で描くドラマも銃撃シーンも秀逸な西部劇。

未知との遭遇


(再)413.未知との遭遇 Close encounters of the third kind 1977年米国映画

(監督)スティーブン・スピルバーグ
(出演)リチャード・ドレイファス、テリー・ガー、フランソワ・トリュフォー
(音楽)ジョン・ウィリアムズ

 UFOにとりつかれた電気技師の一家と、その接触方法を模索する学者たちを物語の中心に、UFO内の何らかの動体との接触「第三種接近遭遇」を、それまでの荒唐無稽なSF映画と一線を画し描いたスティーブン・スピルバーグ監督の傑作SF。

筆者:竹野 敏貴