もし、日本が出国税を取ることになったら、なにに活用すべきだろうか(撮影:今井康一)

訪日客数が年間2000万人を突破、少子化時代の起爆剤として注目を浴びたインバウンド需要。中国人爆買い団の勢いは衰えたものの、今度はさまざまなニーズを求める個人旅行客の割合が増え、各自治体ではいままでとは違う対応に迫られる状況となっている。


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しかし残念なことに、新たな取り組みを考えようにも「財源がない」「予算が付かない」といったカネの問題が頭をもたげてくる。

観光庁は8月、2018年度の税制改正要望に、「高次元で観光施策を実行するために必要となる国の財源を確保するため、所要の措置を検討する」と掲げ、日本から外国へ出て行く際に税金を徴収するスキームの導入に意欲を示している。

新税は、日本から帰国する外国人だけでなく、日本を出国する日本人にとっても新たな負担増になる。そのためテロ等で海外旅行需要がいま一つの中、旅行代理店等からの反発の声が上がることは必至。導入までにはまだ紆余曲折が予想される。

諸外国の「出国税」はいくらなのか

仮に日本が出国税を取ることになったらどのくらいの水準となるのだろうか。まず、アジアの各国と地域の状況をざっと調べてみた。

中国では90元(約1500円)、香港では120香港ドル(約1680円)、シンガポールでは6.10シンガポールドル(約490円)、マレーシアでは73リンギ(約1880円)、インドネシアでは20万ルピア(約1650円)フィリピンでは750ペソ(約1610円)だ。韓国、台湾、タイ、ベトナムの場合、「旅客サービス料」を負担する必要があるが出国税はない。

出国税は、観光客にとってそれほど意識しないものだ。「香港に遊びに行ったことがあるが、帰りに出国税を取られた覚えはない」という具合に意識をしていない人がほとんどだろう。なぜだろうか。

現在、ほとんどの国の出国税や空港サービス料は航空券代金と一括請求される。ツアー代金に含まれる航空券のブレークダウン(明細)を気にかける人はまれで、自分が支払った旅費の中に訪問国の税金が加算されていることまでは気がつかないだろう。

さて、こうして各国・地域の数値を見ていくと、アジアからの飛行機による出国の場合はおおむね1500〜3000円ほどの負担が必要という状況が浮かび上がってくる。ちなみに日本の各空港でも空港旅客サービス料としてこの水準の費用を国際線旅客から徴収している。

観光庁は出国税について、各国での徴収方法と同じように「航空券代金と一括請求」といった考え方を持っているようだが、課税額に関して今のところ具体的な指針を示していない。ただ、7月下旬の新聞各紙報道では「仮に訪日客1人当たり1000円を徴収した場合」といった表現が示されているほか、インバウンド関連に携わる関係者らも「訪日客への大きな負担になるほどの金額ではない」と話しており、出国税の導入が日本訪問への意欲をそぐほどの影響をもたらすことはないだろう。

2万円以上の「空港税」を徴収する国も

日本から外国への出発客は、すでに「空港税等の料金」を支払っている。たとえば成田空港の場合、旅客サービス施設使用料(PSFC)と旅客保安サービス料(PSSC)という名目で計2,610円、羽田空港の場合、旅客取扱施設利用料(PSFC)として2,570円だ。慣れもあるため、これを大きな負担と感じる人は少ないだろう。

5000円にもならない空港税よりも、出発日やホテルのよし悪し、そして航空会社の違いなどによる価格変動のほうが大きいからだ。これは日本に向かうアジアの人々にとっても同じようなことがいえるわけで、わずかな負担だったらそれが大きな問題に発展するとは考えにくい。

一方、世界を見渡すととんでもない高額な空港税を課す国もある。

英国政府は「旅客サービス税(APD)」の名で出国者から漏れなく税金を取っているが、長距離国際線の上級クラスに乗る旅客に対してはなんと片道当たり156ポンド(約2万2600円)もの課税を行っており、空港税の額としては世界最高となっている。日本線も例外でなく、夫婦でロンドンからビジネスクラスで帰国したら税金だけで4万5000円以上も納めさせられる格好となる。

さすがに近距離欧州線の利用客から高額な金額は取れないため、こちらはエコノミークラス利用なら13ポンドとアジア水準並みのレベルに収まっている。ちなみにLCC利用でも13ポンドの税金を搭乗客が負担するわけだが、総額が税込み20ポンド以下のチケットもあり、そこまで低額に下げられる企業努力は大したものだ。

統計サービス会社Statistaによると、昨年のAPDによる歳入総額は年間31億5000万ポンド(約4570億円)に達しており、仮に日本政府が訪日客と日本人出国者から1人当たり1000円を徴収したときの総額は、昨年の実績をもとにすると410億円前後なので、英国はその10倍以上を出国者から集めていることになる。

いわば「お金持ちからはたくさん取ろう」という英国のAPD。アジアからの富裕層が意外と多いとされる日本でも、このアイデアを導入するといいかもしれない。

では、こうして旅行客から得た税収はどのように使えばいいのか。報道によると、観光庁は出国税の構想を打ち出すに当たり、「訪日客が東京や京都など主要都市に集中する傾向があることから、地方への誘客が課題」としたうえで、「政府は地方に訪日客増加に伴う経済効果を波及させたいと考えており、その一環としてプロモーション強化を図る」としている。

必要なのは人気スポットのインフラ整備だ

しかし、「いま起こっている問題点はどこにあるのか」を考えると、訪日客を全国津々浦々まで満遍なく行き渡らせるよりも、観光客が激増している地域の公共交通機関の輸送力の強化、外国人向け案内に当たる人員の増強に充てるほうが先ではないだろうか。また、訪日客を多く受け入れている自治体ではゴミ処理の人員確保も頭の痛い問題だと思われる。

ちなみに、各国における出国税等の財源の行き先だが、多くは「観光振興に役立てる」としている。理想的には、政府や各自治体の観光局など関連部署への予算として割り当てたうえで、PRプロモーションのほか、観光スポットや公共交通機関との連携による観光客により便利な街づくり、住民への理解増進のための活動を行うといったところだ。

気になる「高額空港税」を徴収する英国だが、これら旅行客からの税収はなんと「一般歳入」として組み込まれ、必ずしも観光振興などの対策には直結した財源とはなっていない。とはいえ、各自治体や交通機関等の連携もあり、辺境にある観光地へのバス便が確保されており、しっかりと住民の足としても使われているほか、過疎地でのイベントの際には村民らの負担を抑えるため、警察や消防等を含んだ各機関が催しの規模によってバランスよく協力するといったことが行われている。つまり「財源を使うべきところではしっかり使って、混乱を最小限に抑える」という努力がなされていることを垣間見える。

「想定を超える訪日客の増加に人もカネも追いついていない。さしたる解決案も決まっていない」といった状況の中、ただ漫然と出国税を新たに課税するだけでは、単に政府の歳入が増えるだけにとどまる。過疎化が進むエリアへの支援は必要と考えるものの、インバウンド拡大政策が推し進められた結果、生活環境の著しい悪化など「訪日客の増加で困っている地域」が国内のあちこちに生じているのは大きな問題だ。

新税として出国税導入の動きが活発化したら、その財源をどのように活かすと言うのだろうか。議論を深めていく必要があるだろう。