ハリケーン「ハービー」による物的被害額は2005年の「カトリーナ」を上回る可能性がある(写真:AP/アフロ)

8月末、ハリケーン「ハービー」が米国テキサス州湾岸部で猛威を振るった。死者は50人を超え、物的被害は2005年8月のハリケーン「カトリーナ」(1600億ドル)を上回る規模になるとの予測が出ている。現地の報道によれば、天気予報を提供するアキュウェザーのジョエル・マイヤーズ氏は1日時点で被害総額は最大1900億ドル、テキサス州知事のグレッグ・アボット氏は3日時点で1500〜1800億ドルに上ると推測した。

米国第4位の都市であるヒューストンも被害を受けた。ヒューストンは米国におけるエネルギー産業の最大拠点となっている都市であり、米国のGDP(国内総生産)の約3%を占める。近年はシェールオイルの生産で急速に経済成長を遂げてきた。今回、ヒューストンの大規模な製油所の多くが被害を受け、稼働を停止。ガソリン先物価格が一時、急騰した。

経済への影響は一時的なものにとどまる

今回のハリケーンは、米国経済全体にどのような影響を及ぼすだろうか。これまでの指標を見ると、米国経済は堅調といえる。4〜6月期の実質GDP成長率は、前期比年率プラス3.0%(速報値はプラス2.6%、1〜3月期は同プラス1.2%)と高い伸びを示しており、製造業・非製造業の景況感も底堅い。

7月の消費者物価指数(CPI)は前月比プラス0.1%、前年比プラス1.7%、コアCPIも前月比プラス0.1%、前年比プラス1.7%と緩やかな上昇にとどまり、8月の非農業部門雇用者数も前月差15.6万人増(7月は同18.9万人増)とやや減速しているが、弱いとまではいえない。

8月はハリケーンの影響で、製油所の稼働停止などエネルギー産業が打撃を受けており、鉱工業生産が一時的に落ち込む可能性が高い。2005年のカトリーナの時にも、原油や石油製品の生産が一時的に大きく落ち込んだ。しかし一国の経済全体を示すGDPには建物の被害額や保険金の支払いが計上されないこともあり、大きなトレンドが変わるほどの落ち込みにはなっていない。雇用者数も同様だ。

2014年、2015年の寒波の際には、住宅投資などに落ち込みが見られ、GDPにも一時的なマイナス影響が出たが、雇用者数には影響が見られなかった。「今回も、個別のセクターが一時的に落ち込むことがあっても、景気全体がスローダウンすることはないだろう」と、みずほ総合研究所の小野亮・主席エコノミストは話す。後には復興需要も見込まれるため、長い目で見ればハリケーンの影響だけで景気が崩れることはなさそうだ。

そうなると、金融政策の正常化を進めるFRB(連邦準備制度理事会)にとっても、ハリケーンの影響が利上げのペースを遅らせる直接の要因になることはなさそうだ。現状、市場では12月の利上げについての見方はきっ抗している。「ハリケーンの被害や復興需要はあくまでも一時的であり、それによって金融政策を変更することは考えにくい」(小野氏)。

「ハービー」で債務上限の引き上げはスムーズに?

一方、今回のハリケーンは米国の政治に思わぬ影響を与えている。米議会は目下、10月以降の政府閉鎖を回避するため、9月末までの政府債務上限の引き上げと2018年度予算(暫定予算)の可決を目指している。

だが、議論の進展が乏しいことから、市場は8月ごろからすでに10月のデフォルトを織り込み、10月償還の短期国債利回りが11月償還の利回りを上回る現象が起きていた。8月下旬にはトランプ大統領が「国境の壁の予算を確保するためなら、政府閉鎖も辞さない」と発言し、先行きの不透明感が一段と強まった。

ところが現地の報道では今回のハリケーンの被害をうけて、トランプ政権は145.5億ドルの補正予算を議会に要請することとなり、うち78.5億ドルを2018年度の暫定予算に組み入れる方針だ。「ハリケーン対策の補正予算と一緒であれば、議会も債務上限の引き上げに応じやすい」(小野氏)。ここにきてトランプ氏も前出の発言をトーンダウンさせており、補正予算をきっかけに債務上限引き上げや暫定予算の議論が進展する可能性が出てきた。

歴史的な被害を出したハリケーンだが、一方でトランプ政権については政府閉鎖やデフォルトへの警戒感が後退し、トランプ政権にとっては皮肉にも前進を可能にしたのかもしれない。