コンフェデレーションズカップ決勝・ドイツ戦(●0-1)のチリの布陣。中盤4枚の運動量を生かしたハイプレスが光り、ドイツ戦でも相手の自由を奪った。

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「世界で一番強いのはブラジルで、2番目に強いのはブラジルのBチーム」
 
 そんなふうに言われていた時代もあったが、現在、そのフレーズがもっともしっくりくるのはドイツだろう。2014年のブラジル・ワールドカップを制した現世界王者は、先のコンフェデレーションズカップにメスト・エジル、トニ・クロース、マヌエル・ノイアーといった主力を招集せず、「Bチーム」で臨みながら、事もなげに優勝を成し遂げている。王者は内にライバルを作り、競争を活性化させた。ヨアヒム・レーブ監督の仕事は、実に隙がない。
 
 目を引くのは戦術の汎用性だ。グループステージではポゼッション重視のサッカーを見せたが、準決勝のメキシコ戦ではショートカウンターからの2発で早々と試合を決めると (最終スコアは4-1)、中2日の決勝に向けて体力を温存。迎えたチリとの決勝は相手にゲームを支配されながら、慌てずに守備を固め、ミスを突いて奪った1点で逃げ切った。試合ごとに異なる姿を見せる、変幻自在のドイツ。憎らしいほどに洗練されていた。
 
 しかし、日本が同じスタイルを目指すのは得策ではないだろう。ドイツの強さの根源にあるものは、昔も今も変わらない。それはゴール前の攻防だ。決定する力があり、そして決定させない力がある。このベースがあるからこそ、ドイツは中盤で無理をしない。押せないと見れば、引くことを選択できる。世界トップクラスの高さを生かした、攻守両面におけるゴール前の強さが、戦術の汎用性を引き出しているわけだ。
 
 それを踏まえるとゴール前に弱みがあり、アジア最終予選でさえ引いて守り切れない日本が、簡単に真似できるスタイルではない。
 
 親近感が湧くのは、決勝で敗れたチリの戦い方だ。守備的MFでもプレーする171センチのガリー・メデルをCBに起用し、その相棒のゴンサロ・ハラもSBや守備的MFを兼ねるタイプ。チリはCBの専門家を使わず、ハイプレスとポゼッションで敵陣に相手を押し込むサッカーを展開した。スタメンの平均身長は約175センチと小柄だが、自陣深くまで引かないスタイルなので問題はない。アグレッシブさと狭いスペースでボールを動かす技術が彼らの生命線だ。
 
 鍵を握るのは4-3-1-2の中盤。両SBが高い位置に構えるため、ダイヤモンド型の中盤が、間のポジションを埋めて緊密さを保たなければならない。彼らは2CBをサポートしてボールを運び、守備でもプレスをかけ続け、敵陣でゲームを制圧する。なによりハードワークが求められ、身体的にも負担が大きい。
 
 翻って日本代表でも、井手口陽介のような球際の強さ、技術、速さを兼ね備えた中盤のハードワーカーが、あるいは昌子源のような広いスペースをカバーできるスピード豊かなDFが頭角を現わしてきた。チリを手本としたサッカーを実現できる人材が増えているのは確かだろう。
 ただし、チリの完全なコピーをする必要はない。Jリーグでハイプレス&ポゼッションを実践するチームも参考にできる。例えば柏レイソル。平均身長はチリと同様に175センチ前後と低いが、それを補うスピードと運動量を武器に、高いラインを敷いて相手をハーフコートに押し込む。
 
 柏が興味深いのは、このスタイルの弱点を組織的にカバーしている点だ。小柄でスピーディな選手を重用するため、どうしてもセットプレーの守備に不安が残る。そこで柏は相手CKの際に、フィールドプレーヤー全員をエリア内に置く。一般的にCKをゾーンで守る戦術は、高さのあるチームに多く見られるが、柏の場合は10人全員を下げ、より密度の高いゾーンを作って相手のスペースを制限する。エリア外に人を置かないので、CKからカウンターを仕掛けるのは難しいが、それでも小柄なチームの弱点を上手く補っている。
 
 また、相手FKに対するラインディフェンスも美しい。柏のサッカーはディテールまで細かな配慮が行き届いており、チームとしての完成度の高さを窺わせる。
 
 他にも、川崎フロンターレは狭いスペースでボールを動かす技術が突出し、鹿島アントラーズはアグレッシブなプレスが身上だ。また浦和レッズは引いた相手を崩してフィニッシュに持ち込む力が高く、リトリートされた時の攻略法を知っている。
 
 Jリーグで発展した、こうした戦術の尖った部分を集め、今後の育成に落とし込む。そうすれば、チリのようでチリではない、日本人らしい「ハーフコート制圧サッカー」が完成するのではないだろうか。
 
文:清水英斗(サッカーライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年7月27日号(同7月13日発売)「サムライ・タクティクス」より抜粋。