『原始人彼氏』(北福佳猫/白泉社)

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 正直、『原始人彼氏』(北福佳猫/白泉社)というタイトルを見たときは、そうはいってもどうせイケメンでしょと侮った。だって、ガチで原始人と恋するマンガだなんて、誰が思うだろう。ところが本作、ガチだったのだ。誇り高き農家の娘・美大(みと)が、運命の赤い糸に導かれて古代にタイムスリップ。250万年前にはじめて石器をつかった猿人・ガルヒに恋するファンタスティック・ラブロマンスである。

 農作業で鍛え上げたスタイル、新鮮な作物で培った美肌、そして生まれ持った美貌。想いを寄せる男は後を絶たないが、古風かつ男気あふれる性格の彼女の、おめがねにかなう男はなし。オレ様系先輩、乙女系後輩、けだるげクラスメートに、二次元萌え男子、そしてちょっぴり情けない先生など、乙女ゲームに必要十分なキャラが万全に配置されていながら、彼女はまるで興味なし。鍬を片手に、この美しい大地のように強くてたくましい人はいないものか、いないのならば一生独身でいいと叫んだ美大の前に現れたのが、農業を司る女神スピカ。彼女の「婚活斡旋」というやたらに軽いノリで、250万年前に飛ばされてしまった美大は、そこでガルヒ猿人と出会うのである……が。

 猿。いやもう、ほんと、ゴリラ。かろうじて二足歩行しているものの、見た目は完全に獣である。当然怯えて逃げ出す美大だけれど、文明などかけらもなく、巨大蛇やマンモスだらけの荒涼した大地で、彼女を守ってくれたのは人類の祖先たる彼、ガルヒなのだった。

 眼差しだけはイケメンだけど、けむくじゃらで、とうてい恋するにはふさわしくない相手。だが、見た目に惑わされない本当の強さと優しさを求める美大のキャラクターと、古代でのサバイバル描写の迫力が、説得力をもって描かれるため、彼女が少しずつガルヒに惹かれていく様子を、なんの違和感なく受け入れられてしまうのが驚きだ。

 そしておもしろいのは、イケメン5人たちの扱い。やたらと美大のまわりを賑わせ、胸キュンシチュエーションを発動しかけるも、すべてが不発。美大にはこれっぽっちも相手にされない。定型ラブコメへのアンチテーゼのようでもあるが、これだけ個性豊かなキャラたちがただの王道破壊のためだけに登場しているはずがない。ガルヒが進化する先に、彼らのうちの誰かがいるのではないか? あるいは、イケメンという外見だけで彼らをジャッジしている美大や読者の偏見を、いずれくつがえす展開が訪れるのではないか? と、今後の期待はますます高まる。

 1巻では、ガルヒに命を救われ現代に戻ってきた美大が、今度は絶滅の危機に瀕する彼を救うためにふたたび古代へ戻るところで終わる。本作で何より魅力的なのは、美大の、ただ守られるだけではない本質的な強さ。ガルヒが本当に運命の相手だなんて、美大自身、受け入れられたわけではないが、自分を守ってくれた彼の優しさに報いるため危険に飛び込んでいく彼女の姿はとても凛々しく、美しい。本当のかっこよさとは何かを読者につきつける、冒険ファンタジーでもある本作。タイトルが少しでも気になった人はぜひとも手にとってほしい。

文=立花もも