人件費はコストか、それとも投資か。かのドラッガーは「最大の経営資源である人を活かすことで、収益増大や生産性向上を実現できる」と唱えました。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、成長期当時のホンダを例に、従業員のやる気を引き出して「創造性」と「革新性」を産んだ、「人的環境経営」について紹介しています。

「賞罰」と「管理」

人件費は経営者がどのようにそれを捉えるかによって、その企業の未来を占わせる費用項目で、仕方なく使わなければならない「コスト」と考えるか「強み」の源泉である「投資」と考えるかによって将来のあり様は決められていくでしょう。

トヨタは、従業員の「知識(智恵)」と「活力」を活用することで英語にもなった「カイゼン」を実現させて世界のトップ企業にのし上がりました。松下幸之助さんは、全ての人を「わが師」であるとして「衆知」を集めてそれらを己の骨肉に化して「経営の神様」になりました。

アメリカのGEの従業員は、ジャック・ウェルチの「ワーク・アウト」というメソッド(経営手法)に参加して「自分の手足だけでなく、はじめて頭を活用してもらった」とコメントしています。「ワーク・アウト」とは、現場に埋もれている問題解決の知識を掘り起こして課題解決するもので、同社に少なからずの利益をもたらしました。

「人」は「最大の経営資源」なので、さらなる「生涯学習」という「環境投資」を行うことで資産価値の増大をはかることが可能となります。これによって、収益の増大および生産性の向上が実現されるとともに、従業員の「生き甲斐」をももたらす基本施策ともなります。

「人件費」という総論から、社員の「やる気」にかかわる「報酬」と「管理」についての関係を考察して行きます。ドラッガーの言葉を少し長くなりますが引用します。まず前提として

組織は人の集合である。人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある。メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ「賞や罰」である。

「賞や罰」こそ、組織の目的、価値観、そして自らの位置づけと役割を教えるものである。

引用を続けます。

奨励、抑止の機能を持つ賞罰は「報酬」のような定量的なものもあるが、欲求に応えるための環境は定量的ではない。

「環境」とは少し分かりにくい概念ですが「地位」「担当部署」「労働環境」「人的環境」などで、「重役の個室」などは、まさに環境です。技術者の能力を発揮できる「仕事」なども、定量化できない「環境」です。

人にはそれぞれ異なる「理想、目的、欲求、ニーズ」があり、さらにそれらは情況が変化すると、それに応じてそのあり方も変化します。マネジメントは、それぞれの個性としての個人の欲求等を知悉(ちしつ)したうえで「組織の目的(ミッション)、価値観(バリュー)」が実現されるように導こうとするもので、それがドラッガーの言うところの「管理」です。

少し飛躍しますが、ホンダの成長期の有り様でその雰囲気を見てみましょう。

最初に提言させていただきます。

「人より秀でようとするならば、人とは違うことを目指し、行わなければ、適えられることはありません」

これは、ホンダの創業者であったヒューマニストだった本田宗一郎さんと、ロマンチストだった名参謀の副社長・藤沢武夫さんの「考え方」だと考えられます。

ホンダの生命線は「技術」です。それも、ソニーがそうだったように、誰もがまだ挑戦しなかったような独創の技術です。

因みに、ホンダのフィロソフィーは

「人間尊重 1.自立 2.平等 3.信頼」

「三つの喜び 1.買う喜び 2.売る喜び 3.創る喜び」

で、総括すると、キャッチ・コピーの「パワー・オブ・ドリーム(夢の力)」となります。

優良企業といえども、トヨタもそんな時期があったのですが、ホンダも成長期の昭和29年には倒産の危機がありました。その時期を切り抜けて、自社も近代化をはからなければならないということで、講師を招いて活発に学習や研修を実施しました。

そんな折、副社長の藤沢さんは「非常に有意義だったと思います。みなさん、それをよく整理して考えてみてください。しかし、さきほどの講師の方の説に私は納得はしていないんですよ」と言うのです。何故なら「本田宗一郎」の強みである「技術」を活かそうとするため、過去の事例である学者の学説を丸呑みする気などなかったからなのでしょう。

「組織」も、管理の源泉である「給与体系」も「勤務評定」もホンダの現状や目標に合うようにすべて従業員を巻き込んで改変してゆきました。ちょうどその頃は組合も設立されており、みんなを制度づくりに参画させて納得できる形で創り上げて行きました。評価される側の人間の意見も、多く籠められてでき上がったと言えます。

でき上がったのが、ホンダらしい「エキスパート」の能力を認めるもので、その雰囲気が全社的にできてきたのだそうです。ただし、おもしろいのは「エキスパート」を「マネジャー(班長)」にしたらよいかと言えば、そうではないという意見が大勢であったことも興味を惹かれます。

ホンダでは「管理」のツールである「賞・罰」をも、最も理解してもらわなければならない「従業員の参画」をもって作成されていったようです。それとは異なり、技術者が研究に没頭できる「本田技術研究所」は、藤沢さんの強硬な提案のもとで設立されました。これは、非凡な本田宗一郎亡き後でも平凡な技術者の総力で独創的な技術の開発を実現させようと考えたからです。

藤沢さんは「ピラミッド組織」を嫌いました。「ピラミッド組織」を吟味せずに採用したのでは、現場を知悉し活躍するスペシャリストの「働き」が、現場を知らない管理者や過去を良しとするオールド・ボーイに疎外されて「コスト・ロス」だけが発生して「効用」など生まれないと考えてのことです。

「何故なのかを必死で考える」から「何故なのかのヒントをつかむ」ことができるそうです。「分かれば」それが「知識」であり「力」となり、そこから「革新性」と「創造性」が生まれ出るのではと考える次第なのですが。

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出典元:まぐまぐニュース!