霞が関がすべてを握っている現状では地方経済の衰退は止められない(撮影:今井 康一)

近年、日本の地方経済が衰退していることは、いまや誰の目にも明らかだ。どの県庁所在地でも、ビルや道路などのインフラ開発は進んでいるものの、そこに入るオフィスや商業施設などが足りていない。

安倍晋三政権は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を掲げて、地方創生に関する政策を打ち出しているものの、森友学園や加計学園問題をめぐる混乱でもわかるように、地方創生を隠れみのにして補助金の不正受給や不透明な行政が蔓延し、地方経済活性化の名の下に国民の知らない腐敗が進んでいるのではないかという印象を持った人も少なくないだろう。

この6月9日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」でも、いかにも中央官僚がデスクで鉛筆をなめなめ、ではないがパソコン上で体裁を整えただけで、効果が期待できない活性化策のオンパレードにしか見えない。

まち・ひと・しごと創生総合戦略は、アベノミクスの一環として2014年にスタート。2020年の完成を目標とする地方創生の経済対策だが、5年間で30万人の雇用創出(若者雇用創出)、農林水産業の市場規模10兆円創出といった政策を打ち出している。

そのほかにも「ローカルアベノミクスの一層の推進」「東京一極集中の是正」「東京圏における医療・介護問題・少子化問題への対応」「地方創生のさらなる進化に向けた政策の推進」といった内容で、「地方創生版・三本の矢」というものを設定している。それは以下の3点だ。

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⊃雄犹抉腓量陝文務員等の市町村派遣、地方創生カレッジ)
財政支援の矢(地方創生関係交付金、企業版ふるさと納税)

詳細は省くが、相変わらず掛け声だけはパーフェクトながら、この三本の矢を全国津々浦々にまで飛ばすのはそう容易なものでない。

政治家と官僚の利益誘導に使われる地方プロジェクト

実際には、「空き店舗、遊休農地、古民家等遊休資産活用」「近未来技術等の実装」といった内容になるのだが、たとえば人工知能(AI)やロボットを生かしたモノづくりに対しては、安倍政権が2016年度に「地方創生推進交付金」なるものを創設している。先進的な事業に取り組む自治体に対して重点的に配分する交付金だ。

地方創生と東京一極集中の是正を推進したものだが、ここでも中央官庁の意図する方向に沿った地方経済活性化を交付金の力によって推進して行こうという姿勢が見え隠れする。安倍政権が打ち出している景気対策としての財政出動は、いまや28兆1000億円(未来への投資を実現する経済政策)にまで膨れ上がってきている。

景気動向が支持率と密接に結びついていることを熟知しているからだが、安倍首相はこうした経済政策の財源を「財政投融資」に求めるという新方針を打ち出して注目されている。財政投融資といえば、小泉政権時代に郵政民営化とセットで改革に踏み切り、一時はほとんど廃止の方向性に動いていた。

それがアベノミクスの時代になって、リニア中央新幹線の全線開業前倒しに使われるなど、再びその残高が増えつつある。しかも、「確実な償還が見込める事業への投資」という建前がある財政投融資を、人工知能やIT事業といった採算の見通しが不透明な事業の資金に回そうとしているわけだ。

確かに財投は国の予算に赤字計上されないため「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」から外れた資金であり、財務省の懸念もクリアできる。とはいえ、未来への借金であることに変わりはない。

ちなみに、最近になって地方自治体が積み立ててきた「基金」が注目されている。全国の総額で21兆1000億円に達しており、バブル期の水準に匹敵する。この積立金が経済財政諮問会議などでも問題視され、積立金が多額になっている自治体などへの交付金は制限すべきだという意見まで飛び出している。

人口減少は補助では改善しない!?

森友学園にしても、加計学園にしても、気になるのは「あくまでも中央政府主導で、その指示に従って地方も資金を拠出する」という仕組みだ。加計学園では、地元の今治市が最大で96億円の補助金を出すことを議会で決議している。

わずか15万人程度の人口しかない今治市にこれだけの資金があったら、あえて獣医学部を誘致しなくても、もっと将来的に成長が見込める業種や会社の誘致ができるのではないかと考えてしまう。行政だからできる博打だが、民間企業からはなかなか出てこない発想ともいえる。

言うまでもなく、日本の地方行政のシステムは、地方交付税交付金と呼ばれる「補助金行政」によって、中央政府が地方行政をコントロールするという仕込みになっている。以前よりは、国家予算全体の占める割合が減少したものの、現在でも社会保障費(32兆5000億円、2017年度予算、以下同)、国債費(23兆5000億円)に次いで地方交付税交付金(15兆6000億円)が一般会計の構成比率で第3位になっている。

問題は、こうした中央官僚や自民党の政治家が実施している地方経済の活性化が本当に効果的な成果を上げられるのかどうかだ。

筆者には中央政府が画一的におカネをばらまき、何もかもコントロールしようとする旧態依然の政治手法が現在も延々と繰り返されている、としか見えない。政権交代のめったにない日本では、変化がない。というよりも変化できない、と言わざるをえない。政治家の選挙システムなどと複雑に絡み合っている、と考えるのが自然だ。

そもそも現在の地方経済の衰退ぶりは、成長率の変化とかそういうものよりも人口の減少によってもたらされている。たとえば、人口70万人超の「政令都市」でも人口減少に歯止めがかからないところまで来ている。

静岡県静岡市は、政令都市ではじめて70万人を割った都市として注目された。2003年に清水市と合併して、政令都市の仲間入りを果たしたものの、年間3000人の人口減少に歯止めがかからない。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には政令都市の6都市が70万人割れし、川崎市を除いてすべての政令都市で人口が減少するそうだ。

雇用さえ増えれば何でもいい?

要するに、現在の政府が着手している「まち・ひと・しごと創生総合戦略」での雇用創出などは、米国のトランプ大統領がやっている雇用創出と同じで、雇用さえ増えれば何でもいい、おカネをばらまいて工場やビルといった建造物、すなわち「箱」さえ造れば、あとは知らない……。といった地方経済活性化策に近い、と言っていいかもしれない。

人口減少問題の解決策なくして、地方経済の再生はないだろう。とはいえ、人口増加を目標とした経済活性化は、目標をあいまいにするだけ、という指摘もある。

では、具体的にどうすればいいのか……。

かつては日本と同様の中央集権型の行政システムを採っていたフランスでは、おカネの流れを中央省庁からトップダウン方式で地方自治体に交付するのではなく、地方自治体に権限と同時に予算も移譲。その結果、フランスでは地方経済が活性化し、人口問題も減少から増加に転じているといわれる。

日本でも、国から交付される交付金を一括して地方に給付し、その使い道を自由にすることが一案として挙げられる。たとえば、学校の認可といった仕事も国の仕事は最小限に抑えて、その学校が設立される都道府県などに大幅に権限を移譲する。

むろん、東京都の豊洲市場のように、すべきことをしない、利権で行政が歪められる、といった事態は当然起こる。中央省庁は、そういった事態が起きていないか、そのチェック機能を大幅にアップさせる。その代わり、新しい事業の立ち上げには最小限のチェックしかしない。その後の運営や管理などにウェートを置くタイプの行政に転換していくのが望ましい。

大学教育のあり方も、おカネの流れを変えられる。日本の官僚の多くが卒業する東京大学と同じように、フランスにも「フランス国立行政学院(ENA)」というエリート官僚養成学校があるのだが、その大学から中央官僚になる学生が減少し、逆に地方の自治体を目指す学生が増えたといわれている。

予算を全面移譲して自治体に任せるべし!

日本のような中央集権型の地方経済活性化策はどこがダメなのだろうか。簡単にピックアップすると次のようになる。

(1)全国どこでも画一的な景気対策になる

現在の地方自治体の景気活性化といえば、そのメインはどうしても「観光」になる。観光が地域活性化の切り札であることは誰もがわかっているが、地域の中には観光資源がほとんどないところも少なくない。にもかかわらず、政府は観光資源を無理にでも作る活性化策を全国に拡大させようとする。

観光客を呼び込むために駅前にビルを建てても、外国人を呼び寄せようとしてホテルを増設しても、観光資源のない地域に観光客は行かない、観光を地域活性化のメインにしない地域には、別の資源を生かすための予算として活用できることを認めたほうがいい。

(2)人口増加を目標にするのは無理がある

前述したように、現在の地域活性化のメインは観光とともに「人口増加」が掲げられることが多い。しかし、地域活性化策の目標を「人口増加」と結びつけるのは無理がある。地方自治体は人口増加のための戦略として予算獲得作戦を繰り広げるわけだが、ここに政治家の思惑や官僚の天下り先が絡んでくることになる。

人口増加といったテーマに取り組むには、もっと抜本的な政策が不可欠だ。結局、莫大な財政赤字を垂れ流す地方交付税は、無駄に使われて終わっているのが現実だ。

(3)対処療法、改善策ばかりが独り歩きする

中央省庁の官僚が活性化事業の主導権を握っている現状では、抜本的な発想とかその事業を終了させるということができなくなっている。斬新なプランを地元が提案しても「過去に前例がない」「今ある体制を改善する」といった言い訳から、結局のところは対処療法だけに終始してしまう。

(4)政治家への賄賂や官僚の天下りなど腐敗の温床になりやすい

森友学園や加計学園の問題でもわかるように、不透明なカネの流れが多く、国民に納得のいくシステムになっていない。地方自治体に権限移譲してしまえば、少なくとも国政レベルでの不正はカットできる。

規制緩和ができる余地はまだ数多くある

いずれにしても、現在の行政は、官僚が大臣のコメントまで含めて、何もかもお膳立てして動かしているのが現実だ。安倍政権以前は、せめて国会審議では官僚の文章を棒読みするようなことをやめようという暗黙の了解があったのだが、いまや堂々と行われるようになってしまった。

言い換えれば、長い歴史の中で現在の官僚体制は最強で盤石の体制ができていた、と言っていいだろう。この背景には民主党による政権交代もあるのだが、政権交代によってさまざまな既得権にメスを入れられ始めて、危機感を覚えた中央省庁の官僚たちは、自民党にすり寄ることで政治家をコントロールする方法に磨きをかけたと言っていい。

この最強の官僚機構に目をつけたのが安倍政権であり、内閣府が官僚の最大の弱点である「人事権」を握ってコントロールし始めた。

ここまではよかったのだが、せっかくの官僚機構のコントロールを「お友達の利益」あるいは「私利私欲」のために使い始めてしまい、それが国民に露呈して支持率が大きく下落してしまったと見るのが正解だろう。

そもそも日本には、政治家や官僚が握っている利権を手放して自由化する「規制緩和」が、まだまだ山のようにある。たとえば、都心部の再開発がなかなか進んでいないが、一定規模の再開発プロジェクトには「容積率」を大幅に緩和するなど、できることはいくらでもある。容積率の緩和は、たとえば山手線の内側を現在の2倍にするだけで、空前の建築ブームが起こるといわれている。

韓国が経済危機に陥った時に、IMFに命じられた規制緩和のひとつも容積率の緩和だった。日本も、それぐらい思い切った経済政策を実行すれば、脱デフレや低成長からの脱却も可能になるかもしれない。

もっとも最近では、日本政府の既得権を守る力が、新しいITなどの技術革新に追い付いていない部分が多い。世界が技術革新に合わせて政府の規制も大きく緩和している中で、日本政府の対応は後手に回っている。

スマホなどのアプリを使ってタクシーを手配する「Uber」などのライドシェア運営事業をはじめとして、中国発のレンタルサイクル事業など、急速に既存の利権や概念を崩壊させるような事態が日々起こっている。

たとえば、宿泊施設をアプリで紹介する新規参入を阻止するために、民泊事業を正式に認可した。これまであった利権が技術革新によってその構造を変化させているわけだ。ただ、やはり全体として言えるのは、日本政府はいまだに数多くの利権を握りすぎているということだ。