ハリルジャパンの完成度(7)
長友佑都の判定=不明

「今回(の予選突破)が一番うれしいですね」

 宿敵オーストラリアを下し、ロシアW杯への出場を決めた試合後、長友佑都はそう言って表情を崩した。


オーストラリア戦では攻守に活躍した長友佑都

 長友が、W杯アジア最終予選突破という瞬間を味わったのは、2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会の予選に続いて3回目となる。本田圭佑をはじめ、香川真司、岡崎慎司らとともにチームをけん引してきた前回の予選突破のほうが、個人的には思い入れが強いと思っていた。それだけに、彼の答えは少し意外だった。

「今回は、ちょっと格別でしたね。若い選手がいたので、ベテランとしてチームを引っ張っていかないといけないという気持ちが強くあった分、うれしかった。それに僕自身、ブラジルW杯ですごく悔しい思いをして、ロシアW杯にはどうしても行きたかった。1年後、どうなっているかわからないけど、(W杯出場を)決めないと先にはつながらない。その思いが強すぎたのもあるけど、決めることができてホッとしました」

 長友を「格別」という気持ちにさせたのは、日本代表も、自分自身も、この予選の間はずっと苦しい状況に追い込まれていたからだろう。

 最終予選の初戦、日本はホームでUAEに敗れて最悪のスタートを切った。その後、試合ごとにメンバーがコロコロ代わって、チームの軸が定まることはなかった。ハリルホジッチ監督は、自ら志向する”縦に速いサッカー”を体現できるコンディションと調子のよさを優先し、しかも相手のやり方に合わせて試合に臨むメンバーを決めてきたからだ。

 そのため、選手のモチベーションは高まったかもしれないが、長友ら最終ラインの選手たちは、大事な守備の連係面で頭を悩ますことが多かった。実際に今回のオーストラリア戦も、長友の前に位置するインサイドハーフの井手口陽介と、前線の左サイドに入った乾貴士とは、スタメンでは初めて組むことになり、「初めてだとか、どうこう言っていられない」という状況下でプレーした。

 また長友自身、所属するインテルでは、昨季は苦しいシーズンを過ごしてきた。序盤は、スタメンはおろか、ベンチから外れることも少なくなかった。今季もポジションの保証はなく、厳しい競争の中に身を置きながら、代表でも熾烈なスタメン争いの中にいる。

 そうした厳しい状況の中、念願のロシア行きの切符を手にした。そして、おそらく最後になるであろう最終予選を無事に突破できたことが、長友に特別な感情を抱かせ、「格別」と言わせたのかもしれない。

 前回、W杯最終予選に臨んだチームの完成度は非常に高かった。ザッケローニ監督が、メンバーを固定して戦うことでコンビネーションを成熟させ、それが攻守に質の高いプレーを見せる要因のひとつでもあった。その中心にいた長友にとって、今の代表チームの完成度はどの程度だと思っているのだろうか。

「う〜ん、まあ(試合ごとに)メンバーがたくさん代わりましたからね。(予選の)1試合、1試合で選手が違うし、今回(のオーストラリア戦)も代わった。だから、チームの連係面での完成度は前回のチームのほうが高かったと思います。

 ただ、今日の試合もそうでしたけど、とにかく『戦おう』という気持ちは、ピッチにいて前回よりも感じられた。それに、メンバーが毎試合代わったり、今日の試合のように若い選手が結果を出したりして、みんなが『(自分も)もっとやらなければいけない』と思っている。そうした相乗効果によって、チーム全体のレベルは上がっていると思います」

 オーストラリア戦では、ザッケローニ監督時代からつい最近まで、一緒に代表の主軸を務めてきた本田と香川はベンチに座っていた。長友から見れば、違和感を覚えるような光景だったと思うが、どういう心境だったのだろうか。

「もちろん、圭佑と真司がいれば、チーム全体の落ち着きも変わっていただろうし、その彼らがいないっていうのはね……。でもその分、僕や長谷部(誠)さんら経験がある選手が声を出して、(チームを)まとめていかなければいけないという気持ちが強かった。ですから、今まで以上に声を出していました」

 本田や香川がいない中、長友はよく声を出してチームを引っ張っていた。浅野拓磨の先制ゴールをアシストしたあとには、ゴール裏に行って両手を振り上げ、ファンやサポーターを盛り上げた。「アドレナリンがめちゃくちゃ出ていたんで、気づいたら観客を煽(あお)っていた(笑)」というが、そうやって長友が先頭に立ってチームを盛り立てることに意味がある。

 本番となるロシアW杯まで、すでに1年を切っている。

 ブラジルW杯では1勝もできずに悔しさばかりが募った。それだけに、長友にはロシアW杯にかける特別な思いがある。

「ブラジルW杯(での自分)は、クソみたいなプレーだったし、チームにまったく貢献できなかった。あんな思いは二度としたくないし、あの悔しさは今もずっと心の中に残り続けている。それを晴らすにはW杯で活躍する以外にないんですよ」

 しかし、ハリルホジッチ監督からロシア行きの約束手形をもらっている選手は、おそらく主将の長谷部ら数名だけではないか。現状レギュラーの長友でも、今後所属のインテルで出場機会を失って試合勘が鈍り、コンディションを落としていくようなことがあれば、日本代表のレギュラーどころか、招集さえされなくなる可能性もゼロではない。

「監督は、相手によって戦術も、選手も代える。それが、最終予選で実証されたので、W杯でもどこと対戦するかによって、戦術や選手を大きく代える可能性がある。

 ただそういう状況の中でも、選手個々がもっと成長していかないと、世界では勝てない。日本代表の選手全員がインテルに来て、(年俸)数十億円の選手たちとレギュラーを争ってポジションを奪うくらいじゃないと、本当の意味での勝負が世界とはできない。

 まあ、それは現実的ではないけど、(選手個々に)努力はできると思うんです。そういう意識をどのくらい、選手ひとりひとりが持てるか。本番まで、それがすごく大事になりますね」

 長友は厳しい表情でそう言った。

 もっとも長友は、来年のロシアW杯でブラジルW杯のリベンジを果たす準備を、すでに着々と進めている。現在行なっている日々のトレーニングや食事によって、今のコンディションはすこぶる良好だという。「やってきたことが『間違っていなかった』と確信できた」と胸を張る。その証として、オーストラリア戦では豊富な運動量で動き回り、キレのあるプレーを随所に見せた。

 予選突破という大きな仕事をひとつ終えた。だが、本当の勝負はこれから始まる。日本代表に生き残り、W杯に置き忘れてきたものを取り戻すため、長友の地道な努力は続いていく。

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