「Thinkstock」より

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 会社員として会社生活を続けていると、実に理不尽だとか不公平だという思いに駆られることが往々にしてあります。「自分の努力や成果が自分の評価に報いられていない」「自分は評価の面で“割を食っている”」と感じたことがない、などという人は恐らく会社員のなかにはほとんどいないでしょう。どうやらその最大の原因は「人事評価」という仕組みそのものが持っているさまざまなバイアスにありそうです。

 人事はいわば“勘違いの塊(かたまり)”といって良いでしょう。評価するほうもされるほうも、そこには多くの「勘違い」が存在しています。

●4つのバイアス

 まず初めに、評価するほうの勘違い=バイアスから考えてみましょう。

 人事評価にはいくつものバイアスがあるといわれています。わりとよく知られているのが、以下の4つです。

(1)中央化効果
(2)寛大化・厳格化傾向
(3)ハロー効果
(4)自己投影効果

(1)中央化効果というのは、5段階評価の場合でいえば真ん中の3に評価の傾向が集中することをいいます。

(2)は人によって異なりますが、寛大化とは実際よりも評価が甘くなりがちなことで、評価する人が業務のことをあまりよく知らなかったり、部下に良く思われたりしたいときにこういう傾向が出てきます。逆に厳格化傾向は、実際よりも低めに評価してしまうことで、評価するその人が業務内容に精通しており、評価者自身の能力が高く、自分を基準にして評価してしまうというケースです。これは実に迷惑この上ない評価です。

(3)もありがちで、有名大学を卒業したとか、今までの会社での業績が良かったりする場合、現在の仕事の成果があまり高くなくても、評価を高めにつけてしまうという傾向です。

 いかがですか?

 みなさんが会社員だとしたら、自分の部下の人事評定を行ったときに、こういう傾向を感じたことが少なからずあったのではありませんか?

●自己投影効果

 これらはまだ良いのですが、一番やっかいなのが(4)自己投影効果です。

 自己投影というのは心理学の用語でさまざまな使われ方をしていますが、人事評価の場合は一般的に、「自分と考えや行動が似ている人間は高く評価するが、そうではない人間には低い評価をつける」というものです。よく「人事は好き嫌いで行われる」といわれますが、それがあながちデタラメとは言えないのも、この自己投影効果が少なからずあるからでしょう。何しろ人間が評価することですから、完全にはこれらのバイアスから逃れることは難しいと思います。

 一方、評価されるほうにもバイアスは存在します。典型的なのが「自信過剰バイアス」です。客観的な評価よりも、自分の能力を高く見積もる傾向のことです。これはごく一部の人に見られる性格というわけではなく、誰もが心の中に持っている傾向です。人に対して自分の能力を自慢したり、人を見下すような発言をしたりする人たちばかりが自信過剰バイアスに陥っているというわけではありません。人には言わなくても、自分の心の中で密かに自分の能力や才能を人よりも高く評価するという傾向は、多かれ少なかれあります。

 おもしろいことに、評価する側には人によって「寛大化・厳格化」という正反対の評価傾向が出てくるのに対して、評価される側はほぼ例外なく「自信過剰バイアス」に陥っているのです。

 すると、どういうことが起きるでしょう?

「寛大化」によって実際よりも高い評価がつけられたとします。すると評価されたほうはうれしいでしょうが、ここに新たな勘違いが生じかねません。こういう自信過剰に関しては際限がないので、ますます図に乗ってしまうことも考えられます。逆に「厳格化」で実際より低い評価しか与えられないと、今度は間違いなく不満がこみ上げてきます。どちらにしても、なかなか納得のいく正当な評価にはなりにくいといえるでしょう。

●バイアスを防ぐ方法

 残念なことに、人はこうした心理的なバイアスから逃れることが極めて困難です。程度の差こそあれ、人事評価には常にバイアスが生じるのは、仕方ありません。何せ人が人を評価しているのですから。そこで、こうしたバイアスを防ぐ方法は2つしかありません。

 まずひとつは、評価権者を変えること、これは会社員であれば転勤ですね。これによって評価の偏りを小さくすることができるでしょう。そしてもうひとつは、できるだけ複数の人間に評価させることです。よく360度評価とかいわれるのが、これに当たります。上司が部下を評価するだけではなく、逆の方向もあれば、一方通行よりは公平な評価となる可能性は高まります。

 実際にこのような工夫が企業の中では行われているようですが、どこまで公正な評価システムになっていたとしても、評価される側の自信過剰バイアスがなくならない限りは、不満が残ります。

 多くの人は「人事が不公平」で「自分は割を食っている」と感じているでしょうが、しょせん人事というのは人が人を評価するわけですから、ある程度の誤解(自分の誤解も含めて)はやむを得ないと考えておいたほうがいいでしょう。私の会社員生活38年の経験からいっても、人事は短期的には間違いなく不公平かもしれませんが、長期的にはバランスが取られていくものです。あまり一喜一憂しないことが大切です。
(文=大江英樹/オフィス・リベルタス代表)