8月31日のW杯アジア最終予選、オーストラリア戦で日本代表が2-0で勝利し、6大会連続のW杯出場を決めました! 

 過去、W杯予選で一度も勝利したことがなかった因縁の相手に対して、先制点を決めた浅野拓磨選手や井手口陽介選手、攻守にわたって存在感を示した乾貴士選手など、これまで出場機会が少なかった選手が活躍しました。残る9月5日のサウジアラビア戦にも勝って、いい形で予選を締めくくってほしいですよね。


A代表で12試合目の出場となった豪州戦で、先制ゴールを決めた浅野 photo by Takahashi Manabu

 今回、6回目となるW杯出場権を獲得した日本代表が、初めてW杯への切符をつかんだのは今から20年前、1997年のこと──。そのときもまた、対戦相手にとって”データが少ない”出場機会の少なかった選手がW杯行きを決める活躍をしていました。フランスW杯最終予選のイラン戦で決勝ゴールを決め、”ジョホールバルの歓喜”の立役者になった岡野雅行さんです。

 94年に浦和レッズに入団した岡野さんは、「犬より速い」という超快速FWとして脚光を浴び、プロ入り1年目にして日本代表に招集されました。そして、フランスW杯のアジア予選でもメンバーに名を連ねることになるのですが、今回、W杯PR番組『たけうっちFC』に出演してくださった岡野さんに、当時の舞台裏をお聞きすることができました。


photo by Yamamoto Raita

 97年、日本はグループリーグで韓国に敗れるなど苦戦を強いられていました。その様子をベンチから見ることしかできなかった岡野さんは、ある日、最終予選期間の途中から指揮を執っていた岡田武史監督に直談判します。自ら監督の部屋に赴き、「なぜ僕は試合に出られないんですか?」と聞くと、岡田監督の答えは「お前は秘密兵器だから、まだ出したくない」というもの。その言葉を聞いた岡野さんは、「なるほど!」と納得し、出番を待つことにしたのです。

 そして、グループBで韓国に次ぐ2位となった日本は、マレーシアのジョホールバルでグループA2位のイランとの第3代表決定戦に臨みます。当時のアジア地区のW杯出場枠は3.5(現在は4.5)、勝てばW杯出場、負ければオセアニア代表チームとの大陸間プレーオフに回るという運命の一戦でした。

 この試合もベンチスタートだった岡野さんは、「とうとう秘密兵器の出番だ!」と思い、試合途中からアップを始めると、岡田監督の前を目立つようにビュンビュン走ってアピールを開始。そして、日本が1-2とリードされた状況の後半18分に岡田監督が動きます。しかし、監督に呼ばれたのは岡野さんではなくFWの城彰二さんと呂比須ワグナーさん。

「あれ、俺じゃないの? 秘密兵器は?」

 ふたりの後ろ姿を見送る岡野さんは落ち込んでしまい、ウォーミングアップをやめてしまいます。試合は、城さんが後半31分に同点ゴール。そこで「またチャンスが巡ってくるかも!」と、気を取り直して体を動かし始めた岡野さんは、そのとき初めて、試合会場の”異様な雰囲気”に気がつきます。


photo by Yamamoto Raita

 90分で決着がつかないときは延長戦に突入し、しかも当時の延長戦はゴールが決まった時点で勝敗が決まるゴールデンゴール方式のため、観客のザワつきと共に緊張感が増していくのを岡野さんはひしひしと感じたそうです。

「俺はこの試合には関わっちゃいけないんじゃないか……」

 急に弱気になった岡野さんは、アップを中断。岡田監督の視界に入らないようにベンチの端に座り、「ドクターのふりをしていました(笑)」と冗談交じりにそのときのことを振り返ってくれました。

 しかし、その願いとは裏腹に、延長前半の頭から岡野さんはピッチに立ちます。さらに、秘密兵器として期待を一身に背負うことになった岡野さんにとって、待ち焦がれていたW杯最終予選のピッチは”試練の場”と化します。

最初の決定機が訪れたのは延長前半13分。カウンターからフリーになった岡野さんは相手GKと1対1。岡野さんの周りがスローモーションになり、さまざまな考えが頭の中を駆け巡ったそうです。

「すごいチャンスだな」「こんなにすぐチャンスが巡ってくるのはすごいな」「これを決めたらヒーローだな」

 その瞬間、GKと対峙する岡野さんの視界に、ゴール前に上がってきた中田英寿さんが入ってきました。そこで、何と岡野さんはシュートではなくパスを選択。結果、イランDFにカットされてしまいます。


photo by Yamamoto Raita

 観客からは「岡野―!」という怒号。チームメイトからは「なんで(シュートを)打たないんだ!」という叱責。唯一、味方だと思っていた岡田監督を見ると、「殺意すら感じられるような怖ろしい表情をしていました(笑)」と、岡野さんは20年が経過した今だから笑顔で語ってはくれましたが、そのときは、まさに針のむしろだったと思います。

 そして、そんな状況で、岡野さんは2回目、3回目のチャンスも外してしまいます……。その時、岡野さんが思ったことは、「自分の人生は終わった」「これでは日本に帰れない。このままマレーシア国籍を取って、ここでバイト生活を送ろうか」という考え──。

「映画『フォレストガンプ』の主人公のように、ドリブルをしながら会場から走り去ってしまおうか……といったことまで頭に浮かんだ」という岡野さんでしたが、ついに延長後半13分、日本の勝利を決定するあの歴史的なゴールデンゴールを決めたのでした。その瞬間、岡野さんの胸に去来した思いは、W杯の出場権を獲得した喜びより、「これで日本に帰ることができるというホッとした気持ち、プレッシャーから解放された安堵感のほうが大きかった」といいます。

 W杯予選では選手にとてつもなく大きなプレッシャーがかかることを、身をもって知っているそんな岡野さんの目には、8月31日のオーストラリア戦でゴールを決めた浅野選手、井手口選手の活躍がとても頼もしく見えたのではないでしょうか。

「ジョホールバルの歓喜」をもたらしたイラン戦は、岡野さんにとって喜びと安堵、胃の痛い記憶が入り交じったものでしたが、大一番で起用された秘密兵器としての岡野さんが、相手の脅威になったことは間違いありません。来年のW杯ロシア大会に向けて、この先、世界の強豪を驚かせるような新たな”秘密兵器”が日本代表に現れてくれることに期待したいと思います!

2018 FIFA ワールドカップ ロシア
アジア地区最終予選
過酷な中東アウェーで最終決戦!
日本 × サウジアラビア
9月5日(火)深夜2時〜 放送
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