元バンクーバー五輪代表・小塚崇彦さん【写真:編集部】

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元バンクーバー五輪の小塚さんの現在地、フィギュアの普及・育成に汗を流す理由

 かつてフィギュアスケート界を華やかに彩り、五輪の舞台も踏んだ元トップスケーターが今、フィギュア界の未来のために汗を流している。小塚崇彦さん。男子の高橋大輔、織田信成、女子の安藤美姫、浅田真央らとともに、長らく日本スケート界を支えた一人だ。

 そんな28歳は今、フィギュアの普及・育成に力を注ぎ、ほかのスポーツ界とも積極的に交流を図っている。フィギュア界のオフシーズンにはアイスショーに出演。多忙な日々を送りながら、力を注ぐ理由は何なのか。

「フィギュアスケートというと、観るスポーツとしては確立されてきたと思っています。たくさんの方がリンクに足を運んでくださり、テレビ、新聞、携帯、あらゆるところから情報を得て興味を持ってもらっている。ただ、フィギュアを実際にやるとなると、かなり難しい状況にあるんじゃないかと感じています」

 そう語った小塚さん。15年12月に引退後、スケート教室のほか、さまざまなイベントに出演し、フィギュアの楽しさを伝えようと奮闘している。

「『see sports』(観るスポーツ)から『do sports』(やるスポーツ)へと僕は言っています。そういうところから、普及活動を進めていけたらいいと思っています」

トヨタ自動車に所属、ヒントはラグビー? 「フィギュアももっと間口広げられる」

 活動の上で、ヒントは意外なことにラグビーにあった。

 競技引退後、現役時代から所属していたトヨタ自動車のスポーツ事業部に配属。フィギュア界に限らず、さまざまなスポーツに触れた。そのとき、発見があったという。

「野球、ソフトボール、ビーチバレー、バスケットボール……。本当にいろんな様々な競技に携わらせてもらいました。その一環でラグビーの仕事で徳島に行ったとき、ふれあい体験会が開催されたのですが、ボールを投げたり蹴ったり、マットに体当たりしたり、ほんのささいなことからラグビーを子供たちに体験してもらっていたんです」

 そんなシーンを見て「フィギュアスケートももっと間口を広げることができるんじゃないか」と考えるようになった。

 従来、フィギュアを教えるにあたってネックになったのが、氷の上でなければならないということだ。ラグビーのように屋外でボールがあればできるというわけではない。

 しかし、フィギュアは「既成概念」は、排除するようにした。「そもそも、全くやったことがないから、氷って滑るものだから怖いと思われる人も多い」と話し、こう続ける。

「氷に乗らなきゃ体感できないは既成概念」…小塚さんが考えるアイデアとは?

「でも、氷に乗って滑らなきゃフィギュアスケートを体感できないというのは既成概念。単純に回る椅子に座って回すだけでも、スピンと同じ体験ができる。もっとどうしたらフィギュアで楽しめるんだろうということを考えて、氷じゃなくてもフィギュアを体験するきっかけをたくさん作っていけたらいいなと思います」

 例えば、今後は教室に互いの練習内容をほかの子供が採点し合って自己採点と比較し、フィギュアならではの採点競技のおもしろさを体験する試みも考えているという。

「フィギュアには第1点(技術点)と第2点(芸術点)があり、第1点は客観性と主観性。第2点はほぼ主観。審判員にどうやったら点数を上げてもらえるか、体を動かしながらやってみようと思っている。そういう視点で、新しいことを少しずつやっていけたらいいと思っています」

 小塚さん自身もあらゆるスポーツに挑戦している。

「だいたい何の競技でも60〜70%くらいのレベルまでにはなる」という運動神経を生かし、野球やゴルフなどを経験。そこで、元選手など幅広く交友関係を広げている。

 それも、フィギュアに還元するヒントをもらうためだ。

小塚さんが描くフィギュア界の“幸せな未来”は? 「注目に波があっても…」

「フィギュアの間口はほかの競技と比べて狭い。ほかの競技はどうやっているのかを学びながらやっています。加えて、フィギュアスケートファンの方を違うジャンルのところに興味を持ってもらいつつ、ほかのジャンルのファンにフィギュアを見てもらう。一つのスポーツだけじゃなくて、それぞれのスポーツで手をつなぎ合ってやっていけたらというふうに考えています」

 果たして、小塚さんにとって、今後、どんなフィギュア界になってくれたら幸せなのだろうか。

「フィギュアは注目の大きさという意味で、ある程度、大きな波があると思う。今はいい状況。ただ、波があっても、それが下がり切らずに見守っていてもらえるような、そういうフィギュアスケート界になるようなお手伝いができれば。そのためにもより多くの人にフィギュアに興味を持ってもらって、氷に乗ってもらうということが大事なんじゃないかなと思っています」

 今季は平昌五輪が控え、連覇を目指す羽生結弦、宇野昌磨ら若き現役スケーターが脚光を浴びている。しかし、その裏ではフィギュア界の未来がより良くなることを思い、願い、懸命に汗を流しているOBがいることも忘れてはならない。

◇小塚 崇彦(こづか・たかひこ)

1989年2月27日、愛知県生まれ。28歳。中京大中京―中京大―中京大大学院―トヨタ自動車で活躍。06年の世界ジュニア選手権、10年の全日本選手権優勝。同年のバンクーバー五輪8位入賞。15年12月の全日本選手権を最後に引退。引退後はトヨタ自動車の強化運動部に所属し、スポーツの普及・発展に尽力するほか、アイスショーにも出演。現役時代と変わらない美しいスケーティングで人気を博している。