搾乳を手伝うサッカーチーム「十勝スカイアース」 J参入の先に見据えるものとは

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元ヴェルディ川崎GK藤川孝幸氏がチーム代表に就任

 2017年5月のこと。

 スポーツスクールの運営などを手がける総合スポーツサービス企業「リーフラス株式会社」が、北海道帯広市を本拠地とする十勝FCの運営権を取得した。再スタートを機にチーム名も「十勝スカイアース」へと改称し、北海道地域リーグから将来のJリーグ参入を目指している。その新チームの代表に就任した元ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)GKの藤川孝幸氏に、十勝が秘める可能性について訊いた。

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 きっかけは十勝地区サッカー協会からの打診だった。それまで「十勝フェアスカイFC」として活動していたクラブの経営が立ち行かなくなり、後に解散となるのだが、そんな時に藤川氏が常務取締役を務めるリーフラスに声がかかった。

「元々Jリーグのチームをやろうという構想があり、そのタイミングで十勝のサッカー協会から話がありました。十勝フェアスカイという前からあったチームは、地域リーグの4部からやっている生粋の北海道チーム。それを潰す訳にはいかないと。十勝サッカー協会としても、なんとかお願いできないかというお話を頂きました」

 北海道と言えばJ1のコンサドーレ札幌、そしてプロ野球の北海道日本ハムファイターズというプロチームが存在するが、いずれも元々は神奈川、東京と道外からやって来たチーム。本当の意味での“道産子”プロクラブを作ろうという思いからスタートし、形となったのが十勝スカイアースということになる。

 藤川氏も当初は「8年でJ3参入」という堅実な数字を打ち出していたが、「本当に多くの方々がバックについてくれている」という周りのサポートもあり、今では5年以内に実現可能になるかもしれないとの展望も明かしている。

選手は1日2回、6時間搾乳を手伝う

 広大な自然が広がる十勝には、芝生のサッカーコートが50面以上あるそうだ。サッカーを思う存分プレーするには十分過ぎる環境が整っている。そして、農業や酪農が盛んな十勝でプレーする選手は、サッカー選手として他では味わえない体験をすることになる。

「選手はJ2に上がるまでは朝5時から8時頃まで、夕方5時から8時頃まで搾乳を手伝ってもらう。朝3時間、夜3時間働いてもらい、残りは好きなように使ってサッカーに集中してほしいです。もう10、20人くらいは雇用できる体制も整っている。給料もいいし、職も安定しているので、選手は安心してプレーすることができる」

 社会人チームでは午前中を練習に充てた場合、午後は仕事というのが一般的だが、十勝は違う。たしかに朝は早いが、それ以外は自由に使える時間が多く、のびのびと、それでいてサッカーに真剣に取り組める環境が整っている。

 藤川氏は十勝の自然について「本当にヨーロッパのようです」と語る。「環境は最高です。空港から20、30分でホテルもいくらでもあるので、受け入れ態勢もバッチリ。温泉もあるし、グラウンドはいいし、天候は最高だし、ご飯は美味しい」。恵まれた環境でのサッカーに、魅力を感じる選手も増えるだろうと予想している。

“地域総合型スポーツクラブ”として

 そして、十勝が目指すところはJリーグ参入では終わらない。キーワードとなるのは“地域総合型スポーツクラブ”。サッカーだけでなく、野球、バスケットボール、テニス、バレーボール、陸上競技、空手など様々な競技のスクールを運営するリーフラスのノウハウを生かすことで、地域に密着し多様性を持ったクラブ作りが可能となる。

 Jクラブではバスケットチームなども展開するアルビレックス新潟が、そのモデルケースとしてあるが、それ以外では日本全体を見ても数は少ない。そうした状況を打ち破るポテンシャルが十勝にはあるという。「スポーツ庁も十勝スカイアースっていうチームが立ち上がり、Jリーグに向かっていることにものすごく注目しています。スポーツ庁から地域総合型スポーツクラブとして大成功するモデルケースを作ってくださいと言われています」と、周囲からの期待も日に日に大きくなっている。

 十勝は元日本代表FW城彰二氏をクラブのスーパーバイザーとして迎えるなど、すでに社会人チームとは思えないほど豪華な体制を整えている。ここから地域リーグを勝ち抜いてまずはJFL昇格。そこから延長線上に続くJリーグへの道は決して平坦なものではないが、藤川氏は自信に満ちた表情で語っている。

「すぐにトップチームが勝てるか勝てないは別ですよ。私は長い目で見ていきます。でもね、“地域総合型スポーツクラブ”という面では、どのJリーグチームも一気に抜いちゃうと思いますよ」

 十勝は日本のスポーツ界に新たな風を吹き込んでくれそうだ。

【了】

石川 遼●文・写真 text & photo by Ryo Ishikawa