俺たちを合法化しろ、全米フェス熱狂の「移民パンク」の叫び

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反トランプのミュージシャンは少なくない。エルトン・ジョン、セリーヌ・ディオン、ガース・ブルックスらは大統領就任式での演奏を拒否したと報じられた。”ジプシー・パンク”を称するゴーゴル・ボルデロのフロントマン、ユージン・ハッツの場合、トランプの当選直後から大勢の人に次のような質問をされ続けているという。

「『移民の存在を再定義するような曲、 流行に関係なく人間性や思いやりに訴えかけるような曲を作りたくなりませんか?』ってね。『(2010年発売の)前のアルバムに入っている「Immigraniada」みたいな曲ってこと?』と答えるんだけど」

ウクライナ出身のハッツが率いるゴーゴル・ボルデロは、何年も前から世界中の難民の声を代弁してきた。例えば2005年の「Immigrant Punk」は、”Legalize me! Realize me!”(俺のことを合法化しろ、認めろ)と叫ぶ。

「人々が目覚めたことにワクワクしている。こっちの世界にようこそ」とハッツは言う。

8月下旬、ゴーゴル・ボルデロの最新アルバム「Seekers And Finders」がリリースされた。収録曲はトランプの大統領就任前に完成しており、最近の特定の出来事に対するメッセージではない。いずれも普遍的な問いかけに満ちたものだ。

レジーナ・スペクターがデュエットで参加しているタイトルトラックは、”Not all horses are gonna need blinders / Not all seekers will be finders”(ブリンカーを必要としない馬もいる/探しているものを見つけられない者もいる)というフレーズで始まる。2曲目の「Walking On The Burning Coal」は、壮大なストリングスがロックなギターやブラスと絡み合う力強いバラードだ。

ハッツは言う。「今の社会は燃える石炭の上で眠っているようなものだと思わない?」

チェルノブイリ事故で祖国を去った

ハッツはチェルノブイリ原発事故の後に家族とともにウクライナを逃れ、ヨーロッパ諸国での滞在を経て、17歳の時に米国のバーモント州にやって来た。故郷で父親は肉屋で働きながらミュージシャンとして活動しており、ハッツは子供の頃、ベニヤ板でエレキギターを作る方法を教わったという。「13歳の頃、『待てよ、うちの家族はベジタリアンで家の中はヨガの本であふれているのに、精肉業の稼ぎで暮らしているんだ』と思った」とハッツは話す。

やがてハッツはニューヨークに移り、ゴーゴル・ボルデロを結成。2000年代半ば、バンドの独特なサウンドはカルト的人気を獲得し、マンハッタンのクラブ「Mehanata」でDJとしても活動していたハッツは、ロウアー・イースト・サイドを中心としたニューヨークの音楽シーンでちょっとした有名人になった。

「(自分の職業は)DJではないんだけど、モロッコ、日本、オーストラリアといった国で大量のCDを仕入れてきて、客の股間にヒットする誰も知らない曲をかけることで稼いでいた」とハッツは振り返る。

ハッツはまた、2005年のアメリカ映画「僕の大事なコレクション」にイライジャ・ウッド演じる主人公とともにウクライナを旅する通訳役で出演。ハッツの人気と並行してゴーゴル・ボルデロの知名度も上がり、ボナルーからロラパルーザまで多くの大規模フェスの常連となっていった。年内は13カ国で計52のライブを行う予定だ。業界誌Pollstarによると、ゴーゴル・ボルデロの1公演あたりの売り上げは45000ドル(約495万円)、スポティファイの平均月間リスナー数は20万人を超える。

トランプが大統領の座に定着した今、YGの「FDT」のような直球のアンチ・トランプ曲や、より間接的なケイティ・ペリーの「Chained To The Rhythm」のようなメッセージソングをゴーゴル・ボルデロが発表する可能性はあるのだろうか?

「そこに価値はない。なんだかんだ言って商売だから」とハッツは言う。

しかし、ハッツはゴーゴル・ボルデロや同じ志を持ったミュージシャンが、米国や世界を分断する偏見や軋轢を和らげることができるはずだと信じている。

「音楽をただやるのは面白くない。音楽、演奏、物語を語ること、サイケなファッションなんかをひっくるめた体験に興味があるんだ。人々が社会的立場や人種を問わず、一緒に浮かれ騒ぐ空間を毎晩作り出すことが、一つの効果的な手段になると思う」