著者の友人、常見陽平氏のインスタグラムより

写真拡大

 画像共有SNS・Instagram(インスタグラム)のユーザーが増え、インターネットで存在感を増すにつれ、投稿写真に対する独特のこだわりが「インスタ映え」と形容されるようになった。ときに「インスタ蠅」などと揶揄される投稿写真に対するこだわりは、日本の自虐文化をよい意味で打破するきっかけとなるのではないかと、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はみている。

 * * *
 昨今「インスタ映え」が叩かれている。これは、写真共有SNSのインスタグラムに「映える」写真を投稿することである。ナイトプールで仲間とワイワイ、カラフルなアイスクリームを撮影してすぐ捨てる、焼き肉屋でドライアイスに囲まれた肉を高いカネ払って注文する──。

 これに対して「本末転倒だ」や「食べ物を粗末にするな」等の批判が出るのに加え、多いのが「自己顕示欲が強い」「リア充アピールしやがって」というものである。

 食べ物を粗末にする以外はどうでもいいが、私が期待しているのが「インスタ映え」がさらに流行ることにより、日本人特有の妙な自虐的な感覚が少しでも緩和されることである。

 かつてアメリカに住んでいたことがあるのだが、現地に来たばかりの日本人のオッサンのへりくだり過ぎた態度はアメリカ人から困惑されまくっていた。日本語を直訳すればいいと思っているため、アメリカの感覚からするとおかしな言葉を使ってしまう。しかも、口から出てくるのは自虐のため、もはや宇宙人と喋っているようなものだったろう。

 妻を紹介する時は「my dumb wife」(愚妻)で、手土産は「worthless gift for you」(つまらないものですが)に。場合によっては「つまらない」を「boring」(退屈)だと把握し「boring cookies for you」と意味不明の言葉になってしまう。

 さらには冗談めかして「my wife obeys me」(彼女は私に従う=亭主関白)なんて言おうものなら、人格を疑われてしまう。逆に「my wife is like a demon」(鬼嫁)なんて言い、キリスト教徒からすればケンカを売っているのかと思われる。

 アメリカ人は身内であろうがとにかくホメる。ドナルド・トランプ米大統領のスピーチを見ていると、家族や自分の周囲の人間をいかにベタ褒めかが分かるだろう。あそこまでやらずとも、自分の子供がいかに勉強ができるかを力説し「彼は天才だ」なんてやるのは当たり前。お土産渡す時は「あなた、絶対気に入るわよ!」と自信満々。どんなに恋人女性が太っていようが、ビーチでビキニを着た彼女の腰を抱き、男は「彼女はキュートだろ?」なんて満面の笑みで言う。そして2人は「ウ〜〜〜ン」なんて言いながら濃厚なキスをするのである。

 インスタグラムは基本は写真なので、「自慢したい気持ち、察して、ネッ!」という寸止め状態でアメリカ人的行為をできる便利なツールだ。ツイッターは文字中心なだけに自慢はご法度で、日本では基本的には自虐文化である。ラーメン屋の行列で並んでいたら自分の前でスープがなくなってしまったことや、合コンで誰からも喋ってもらえなかったことなどを報告し、共感を得ようとする。

 インスタ映えはこうした傾向を写真1枚で打ち破れるのだ。ナイトプールで水着美人だらけの様子を見せれば「私の友達皆美人、でも私が一番かわいい。しかも私が一番痩せているの」を一切の言葉を使うことなくアピールできる。まだ文字でこうした自慢をするには生々しい。自虐文化(エセ慎ましい文化)打破の第一歩としてのインスタ映えブーム、いいじゃないか。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2017年9月15日号