オーストラリア戦で先制ゴールを決めた浅野拓磨【写真:Getty Images】

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「あそこが空いてくるというのは意識していました」

 ハリルジャパンのスピードスター、FW浅野拓磨(シュツットガルト)が生き残りへ向けて決意を新たにしている。6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めたオーストラリア代表戦で約1年ぶりに先発として抜擢され、均衡を破る先制ゴールもゲット。歴史にその名を刻んだが、歓喜のシーン以外のパフォーマンスには到底満足していない。むしろ危機感を強めて、ロシア大会までに残された約9ヶ月間で総合的な力を高め、日本代表のなかに確固たる居場所を築きあげようと自らを奮い立たせている。(取材・文:藤江直人)

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 日本サッカー界の歴史に、自らの名前を残せたという自負はある。それでも、あの一発だけでハリルジャパンのなかに指定席を築けるほど勝負の世界は甘くない、と自らに言い聞かせることも忘れない。

 ロシアのピッチを駆け抜けるために。FW浅野拓磨(シュトゥットガルト)は決意も新たに、敵地ジッダで行われるサウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選の最終戦に臨もうとしている。

 左足のインサイドには、心地よい感覚がわずかながら残っている。オーストラリア代表を埼玉スタジアムに迎えた8月31日の大一番。両チームともに0‐0で迎えた、前半41分だった。

「長友(佑都)さんが顔をあげた瞬間を、僕は狙っていました。長友さんが僕を見てくれていたかどうかはわかりませんけど、中の状況をしっかりと把握してくれていたので、あれだけいいボールが出てきたと思っています。あとは僕自身が合わせるだけたったので」

 左タッチライン際で縦パスを受けたDF長友佑都(インテル・ミラノ)が切り返し、自陣に戻りながら体を強烈に左方向へひねる。右足から放たれたクロスが、弧を描くようにファーサイドへ飛んできた。

「オーストラリアの映像を何度も見て、あそこが空いてくるというのは意識していました。狙い通りでしたし、あのタイミングで飛びだすのは僕の持ち味だと思っているので」

 浅野が口にした「あそこ」とは3バックの右ストッパーと、右ウイングバックの間のこと。後者のブラッド・スミスに悟られないようにラインに平行に走りながら、タイミングを見計らって右へ急旋回する。

 フリーの状態で長友のクロスに対応する浅野の姿を、オーストラリアの選手たちは見送ることしかできなかった。左足によるワンタッチの高難度なボレーを、しかし、浅野は冷静沈着にゴール右隅に流し込んだ。

歓喜にあふれる試合後に見せた冷静な立ち振る舞い

 過去のワールドカップ予選で一度も勝利していない、難敵・オーストラリアから先制した価値ある一発。歓喜にあふれる試合後の取材エリアで、浅野は依然として冷静な立ち振る舞いを見せていた。

「あの場面で入るか、入らないか。結果論の世界で今日は入ったことで、こうやって記者の皆さんに囲んでもらえるようになりましたけど。あれが入っていなかったら、何もなかったかのように忘れられるだけなので、最後の精度をどれだけ上げられるか。今日は結果に結びつけられてよかったですけど」

 記憶の片隅には、1年前の“幻のゴール”が刻まれている。いまでは「負けた」という事実が真っ先に思い出されるが、実は最低でも引き分けにもち込むことができた。浅野自身はそう思えてならない。

 UAE(アラブ首長国連邦)代表を埼玉スタジアムに迎えた、2016年9月1日のワールドカップ・アジア最終予選第1戦。疑惑の判定が飛び出したのは、1‐2のビハインドを背負っていた後半32分だった。

 右サイドからのクロスを、FW本田圭佑(当時ACミラン、現パチューカ)が頭で折り返す。反対側のサイドへフリーで詰めてきたのは浅野。完璧なタイミングで左足を合わせる姿に、誰もが同点を確信した。

 しかし、当たり損ねたのか。威力に欠けた一撃は相手GKに描き出されてしまう。中継したテレビ局のVTR映像では完全にゴールラインを割っていたが、レフェリーはゴールを認めなかった。

 UAEの隣国カタールだったこともあり、いわゆる「中東の笛」ではないかと物議を醸したシーン。なぜサッカーはビデオ判定制度がないのか、という議論にも発展するなかで浅野は自らを責めた。

 テクニックの拙さ。何よりもここ一番におけるメンタルの弱さ。しっかりミートしていれば難なく決められた状況だっただけに、いまでも思い出すたびに悔しさとふがいなさが込みあげてくる。

 敵地バンコクに舞台を移した、5日後のタイ代表との第2戦で先発した浅野は、後半30分にダメ押しとなる2点目を決めている。それでも悔しさを忘れられずに、いま現在へと至っている。

「注目度が高いほど『結果を残そう』と、より一層燃えるものはあります。ただ、常に結果を残すことがどれだけ難しいかもわかっています。次のレベルとしては大事な試合だけでなく、常に結果を残せる選手になること。結果を残すのが当たり前になることが、僕にとっての理想だと思っているので」

試合前夜に言い渡された先発出場

 オーストラリア戦は、タイ戦以来となる先発だった。約1年間の歳月のなかで途中出場と、ベンチウォーマーに甘んじたまま試合終了を迎えたのがそれぞれ4度を数えていた。もちろん、ゴールはあげていない。

 ポジションも岡崎慎司(レスター・シティー)に次ぐワントップの2番手から、大迫勇也(ケルン)の台頭によって右ウイングへ移った。サンフレッチェ広島時代を含めて、未知と言ってもいい役割だった。

 しかも、自身だけでなくファーストチョイスだった本田をも、ヘントに移籍してから痛快なゴールラッシュを演じた、リオデジャネイロ世代でひとつ年上の久保裕也が瞬く間に抜き去っていく。

 オーストラリア戦の先発を言い渡されたのは前夜。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督からは「裏のスペースを狙い続けろ」と、50メートル走で6秒を切るストロングポイントで攻めろと檄を飛ばされた。

 2ヶ月近い時間をかけてオーストラリアを丸裸にしていた指揮官は、3バックに変えて中盤を厚くした相手が、どんな試合展開になってもとことんポゼッションを志向してくると見抜いていた。

 だからこそ、インサイドハーフに運動量が豊富で、ボール奪取術に長けた山口蛍(セレッソ大阪)と井手口陽介(ガンバ大阪)を起用。高い位置からプレスをかけて、両サイドから素早く攻めることを徹底した。

 つまりは、対オーストラリアでなければ、指揮官のファーストチョイスにはなりえなかったことになる。危機感と武者震いを覚えながら臨んだ大一番では、100%満足できる結果は残していない。

 右サイドバック・酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)とのコンビで右サイドを抜け出した前半11分のシーンは、しかし、クロスをマークにきたDFマシュー・スピラノビッチに引っかけてしまった。

 同16分には左ショートコーナーから放たれた井手口のファーサイドを狙ったクロスに飛び込む。スピードを生かしてマーカーこそ振り切ったものの、ヘディング弾は右ポストを叩いてしまった。

日本代表メンバーの当落線上にいるという危機感

 最も悔やまれるのは、後半36分のプレーとなるのではないだろうか。自陣の中央でパスを受けた井手口が、右サイドにいた浅野へ、40メートル近いロングパスを正確無比なコントロールで通した。

 対面にいるフィールドプレーヤーは、キャプテンのMFマーク・ミリガンだけ。ドリブルで仕掛けた浅野だったが、他の選手がプレスバックしてきたこともあり、シュートはおろかパスにももち込めなかった。

 直後に井手口がスーパーゴールを決めて、試合の大勢は決した。後半44分に久保との交代でベンチに下がった浅野はチームメイトに労われながらも、安ど感と危機感とを胸中に同居させていた。

「日本としては(ロシア大会への)スタート位置に立つことができましたけど、僕ら選手としてはまだスタート地点にも立てていない。だからこそ、今日からしっかり準備しなきゃいけないと思っています」

 一夜明けた9月1日にさいたま市内で行われた練習後に、本大会に臨む23人のメンバー争いでボーダーラインにいると強調した。眠りに就いた数時間のうちに、前夜の余韻を忘れ去った。

 対戦相手が変わり、特徴やストロングポイントが変われば、ハリルホジッチ監督の思考回路も変わる。システムや起用される選手を含めて、カメレオンと比喩される戦い方を演じられる真骨頂でもある。

 オーストラリアの最終ラインはアジリティーに欠ける、というスカウティングもあった。ゆえに浅野のスピードと、左サイドで先発した乾貴士(エイバル)が繰り出す変幻自在なドリブルが奏功した。

自分の立ち位置を見極め、新たな挑戦へ

 アルジェリア代表を率いたワールドカップ・ブラジル大会では、決勝トーナメント1回戦を含めた4試合で、ハリルホジッチ監督は20人のフィールドプレーヤー全員をピッチに送り出している。

 組み合わせ抽選の結果次第では、スピードだけでは居場所を築けない可能性もある。だからこそ、総合力をあげる。UAE戦の幻のゴールを引き合いに出しながら、浅野はこんな言葉を残してもいる。

「あのプレーも含めて、いろいろなミスがいまにつながっていると思う。いろいろなミスをしてよかった、というわけではないんですけど…かみ合わないプレーはたくさんありましたけど、それでも動き続けることが大事だと思っていました。僕は本当に動くことしか、走ることしかできないので」

 サウジアラビア戦を終えれば、戦いの舞台はブンデスリーガ1部に戻る。昨夏に完全移籍したプレミアリーグのアーセナルには戻らず、今シーズンも期限付き移籍は継続されている。

 昨シーズンはブンデスリーガ2部で24試合に出場して、4ゴールをあげて1部昇格に貢献した。それでも、まだまだ武者修行が必要だと判断されたことを、浅野自身も前向きに受け止めている。

「もちろんアーセナルに戻ることも自分にとっては目標ですけど、ブンデスリーガ1部という舞台でプレーできているのは自分にとっても幸せなこと。学ぶこともたくさんあるので」

 久保もこのまま黙ってはいない。本田も逆襲の機会を虎視眈々と狙っている。小林悠(川崎フロンターレ)やポルティモネンセへ移籍した、リオデジャネイロ五輪の盟友でもある中島翔哉もいる。

 歴史を作った感慨は、すでに引き出しの奥深くにしまいこんだ。アーセナルから必要とされる結果を日本代表で、何よりもシュツットガルトで残せば、それだけレベルアップした証になる。

 ロシアの地で、自慢の韋駄天を世界の猛者たちにぶつけるために。常に危機感と背中合わせでプレーする浅野は自身の立ち位置をしっかり見極めながら、新たな挑戦をはじめようとしている。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人