腸は「第2の脳」と呼ばれているのをご存知ですか? どういう意味かというと、人間の身体は頭の脳からの指令に応じて動いているのですが、腸だけは別なのです。腸は独自に考える力を持っているのです。脳のように考え、動くのが腸です。それほど腸は賢く、またデリケートな臓器と言えます。

環境が変わったことが腸にはわかる

だから、旅行や出張に行くと便秘しちゃう人が多いんですね。読者の中にも、環境が変わると便秘になっちゃう人がいらっしゃることでしょう。

旅行に行くと、脳は「今はいつもと違う場所にいる。違う環境にいる」と理解できるので、それなりに対処することができます。食べる料理も食べる時間も違うよ、寝る場所も違うよ、と理解できます。ところが腸は独自に考えています。旅先で「むむ、何かいつもと違う」と感じて緊張してしまうこともあります。そうすると腸の動きが鈍くなって便秘しやすくなるのです。

環境が変わらなくても、いつもと違う何らかのストレスがかかれば、それに腸が反応します。たとえ脳がボーッとしていても、腸は反応します。それぐらい腸はデリケートな性格。ですから旅行や出張に行くとか、いつもと違う環境で過ごすとか、腸がどう反応するかわからない時は、お守りとして便秘薬を持って行くのはアリだと思います。 

自前の善玉菌の育て方

最近、過敏性腸症候群の人も増えています。これはお腹の痛みに下痢や便秘が伴う症状です。深刻な状態になると、通勤電車に乗っている間に、ひと駅ごとに降りなければならないほど差し迫ってしまう。これでは会社に着く前からグッタリですよね。

この症状、特に女性の場合、便秘とセットになっていることが多いです。原因は便秘と似ています。ストレス性であると同時にお腹が冷えていたり、運動不足で腸がちゃんと動いていなかったりするのです。便秘と下痢はセットと考えてください。ですから前回ご説明した便秘を解消するための生活習慣は、下痢のそれにそっくり当てはまります。

便秘と下痢の、根本的な解決方法も同じです。どちらも腸内環境が乱れることで発生します。ですから、根本的な解決策は腸内環境をいい状態に保つこと。食事から食物繊維や穀物をしっかり摂ることや運動も大事ですが、腸内の善玉菌を育てて増やしてあげることが大腸にとっては何よりいいことです。

善玉菌を増やすためには、善玉菌が食べるエサを補給してあげるのが一番です。善玉菌の好物といえば、ヨーグルトとか納豆とかキムチとか、つまりは発酵食品です。

テレビのCMでは、“○○菌がそのまま腸に届く”ヨーグルトやサプリメントを見ますが、私は善玉菌そのものを口から摂取するよりも、善玉菌のエサとなるものを摂取する方が効果的であり、合理的だと考えています。なぜならいくら善玉菌を食べても、それは胃や小腸で消化、分解されてしまうだろうし、なんとか大腸までたどり着いたとしても、その腸内環境を気に入ってくれるとはかぎらないからです。それより、もともと自分の腸に生息している、自分の善玉菌を増やすほうが理にかなっているのではないでしょうか。

その意味では、「ビオフェルミン」や「エビオス」のような整腸剤は善玉菌のエサになります。便秘と下痢の繰り返しに悩んでいる人には、便秘薬や下痢止めよりも整腸剤のほうが、効果があると思います。といっても整腸剤に頼るのではなく、食事や運動によって自前の善玉菌を増やすことがいちばんの治療法であることを忘れないでください。

食事に発酵食品を取り入れ、栄養バランスよく食べて、運動して、体を冷やさない。育てよう自前の善玉菌! 

トイレにすぐ行きたくなる人は善玉菌を増やす食生活を考えましょう。



■賢人のまとめ
腸は「第2の脳」と呼ばれる考える臓器。ストレスにも敏感です。環境が変わると便秘したり下痢したりしがちな人は、薬をお守りとして持っておくと安心です。ストレス軽減の助けになるかもしれません。根本的な解決策は腸内環境を整えること。善玉菌の好物である発酵食品を食事に取り入れ、自前の善玉菌を育て、増やしていきましょう。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。