フットサル元日本代表選手が実践する、「プレイングワーカー」という新しいキャリアの形

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プロスポーツ選手のセカンドキャリアというと、華やかな世界からの転身であるせいか、どうしてもネガティブなイメージを抱かれがちです。

学生時代からその道一筋に人生を懸けてきた選手にとって、スポーツの世界とはまったく異なる一般社会や企業に適応するのは、難しいことなのかもしれません。

そうした状況を打開するための取り組みを行なっているのが、日本フットサルリーグ(Fリーグ)のバルドラール浦安に所属し、2016年まで日本代表選手として活躍した星翔太(ほし・しょうた)さんです。

星さんは自らを「プレイングワーカー」と称し、プロフットサル選手として現役生活を続けながら、IT企業にインターンとして勤めるという二足の草鞋を履いています。

そんな「プレイングワーカー」としての活動の現状と、その先にあるプロスポーツ選手の新しいワークスタイルについて、星さんにお話を聞きました。

人生の「分岐点」で選択するのではなく、「現役選手」のうちにできることがある

Photo:開發祐介

星翔太

1985年東京生まれ、31歳。Fリーグ・バルドラール浦安所属。暁星中学・高校を経て、早稲田大学に進学。在学中にサッカーからフットサルに転向。スペイン1部リーグを含め国際経験豊富。2008年から日本代表選出。2014〜2016日本代表でキャプテンも勤め、5シーズン連続でチームでもキャプテンに指名された。2016年に1度代表を退くが、2017年に再度代表合宿に召集される。

2016年より、株式会社エードットにインターンとして勤める。

小学生の「将来なりたい職業ランキング」(2016年日本FP協会調べ)1位のプロサッカー選手は、早稲田ユナイテッドの調べによると平均選手寿命は2〜3年、平均引退年齢は25〜26歳と言われています。

この数からもわかるように、国内の選び抜かれたエリートからプロ選手となっても、活躍できる期間は一部の選手を除けば本当に短いわけです。星さんはこうしたスポーツ界全体の現状を踏まえて、引退後ではなく、脚光を浴びている現役選手時代からライフプランを立てる必要性を感じたそうです。そのきっかけとなった出来事はなんだったのでしょうか。

星さん:2016年に大きなケガをしました。半年以上のリハビリ期間中に、プロのフットサル選手としての自分と向き合いながら、これからの人生の中で必要であろう、学ばなくてはいけないことを整理していました。

スポーツビジネスの多くは、協会やチームとスポンサー企業、提携企業とのつながりで成り立っています。その反面、選手個人で見ると一般社会や企業との接点は少なく、自分を含めて社会人として知らないことばかりです。プレイヤーとしてのスキルは持っていても、ビジネススキルは持ち合わせていません。

その結果、選手として関わってきたスポーツに関連するアカデミーの指導員をしたり、あくまで競技生活をサポートするための負荷の少ない仕事に就くことが多くなります。でも、その仕事は20年、30年と続けられるものではありません。

だとしたら、いきなりスポーツとは関係のない世界に挑むのはハードルが高いので、現役選手として戦っている間も時間を見つけて、ビジネススキルを基礎から身につけるべきではないか。

そこで、リハビリ中に人を介して、現在勤めているエードットの伊達社長に相談しました。「社会人に必要なスキルを学びたいんだったら、ぜひうちでやってみたら」と快諾していただき、インターンとして働くことになったんです。

実践してわかった、プレイヤースキルとビジネススキルの間にある「ライフスキル」

インターンとして週2回、渋谷のオフィスで働く星さん

インターンと現役選手を両立する中で、"プレイしながら企業で働く"という自らのワークスタイルを「プレイングワーカー」と名付けた星さん。

はじめてビジネスの現場で働くようになってから、明確にわかったことがあるそうです。

星さん:インターンとして勤めているエードットは、商品やサービスのセールスプロモーション から、PR、ブランディングを行うプロデュース会社です。 現在は、PR部門でさまざまな商材を多くの皆さまに見て・知っていただくための、プロモーション施策の企画立案などを担当しています。

インターンとしての勤務は、週に2回、社員と同じ10時〜19時の定時で、それ以外の時間はフットサルのトレーニングや夜のチーム練習に参加しています。私の所属チームは練習が夜の21〜23時なので、プレイングワーカーとして働きやすい環境にありました。

働きはじめた当初は上司に付いて営業まわりをしました。ビジネスパーソンの皆さんから見たら「エッ!」と思われるかもしれませんが、あいさつの仕方や名刺交換のマナーなど本当に知らないことだらけで、社会人としての基本を一から勉強していった感じでした。

ただ、仕事をはじめたことで、今までと比べて社会とのつながりが広がっていることを実感できるようになりました。論理立てて話すことが多いPRの仕事のおかげで、適切な言葉を選んだり、コミュニケーションが円滑になるように頭の中を整理できるようになり、フットサルの練習や試合でも生かされています。

また、企画を提案するための資料づくりには、データなどを含めて裏付けが不可欠ですが、こうした結果を出すためにしっかり順序立てて準備することの重要性は、選手として頭の中にぼんやりあったものを明確にしてくれました。

こうした経験からわかったのは、プレイヤーに求められる「結果を出す力」と、ビジネスワーカーとして「結果を出すための準備」は同義語だということ。そして、プレイヤーとしてのスキルとビジネスワーカーとしてのスキル、その両輪が長い人生を生き抜くための「ライフスキル」になることでした。

スポーツ選手が、自ら考え、経験できる場を創出していきたい

Photo:開發祐介

道半ばとはいえ、星さんは自身がプレイングワーカーを実践する中で体感したことを、プロ・アマ問わず多くのスポーツ選手たちに伝えていきたいと考えています。そこで最後に、プレイングワーカーの星さんが歩もうとしている次のステップについて聞いてみました。

星さん:プロスポーツ選手のなかでも副業的に仕事をしている人はいます。ただ、前述した通り、空いている時間を活用したアルバイト感覚の単純作業であったり、収入を補填するためだけの負荷の少ない仕事が多いように感じています。

私が行っているプレイングワーカーが最良のワークスタイルとは考えていません。指導者になってもいいし、教員になってもいい。もちろん、企業に所属しつつも多くの時間をスポーツに専念する、社会人スポーツを否定しているわけでもありません。

ただ、世の中の社会人の多くが会社員として働いていることを踏まえると、現役を引退した後のスポーツ選手がつく可能性が最も高いのもまた、会社員ではないかと思うんです。

だとしたら、会社員としてのビジネススキルを、現役選手のころから少しずつでも身につけていた方がチャンスは広がるはずです。

現役引退後に企業面接に行ったとしても、職歴がスポーツ選手以外にないよりは、インターンでもなんでも社会人としての経験を積んでいる方が大きなアドバンテージになると思うんです。

そこで今、準備しているのが「アスラボ」という新しい事業です。大きな枠組みとしては、プロスポーツ選手などのアスリートとスポーツが好きな人たちが一緒にスポーツを体験できる場やイベントを提供するwebサービスになります。

プレイングワーカーとどう関係してくるのかというと、たとえばフットサルのイベントを行う場合、アスラボに登録しているフットサルの現役選手と私たち運営スタッフが一緒になって、レッスン内容や時間割などのプログラムを開発します。会場を提供していただく企業やスポンサー候補の企業への営業なども行います。これまでイベントに招かれていたプロ選手が、イベントを主体的に運営して報酬を得る仕組みです。

そうすることで、「イベント当日までにどんな準備を進めていけばよいのか」「どのように対応すれば関係各所の協力が得られるのか」など、一般社会で皆さんが行っているビジネスの現場体験ができます。しかも、自分が得意とするスポーツがテーマになるので、プレイングワーカーとしては比較的ハードルが低く、入りやすいと思うんです。

ただ、すべての現役選手にビジネススキルを身につけ、磨いていこうなどと言うつもりはありません。このような経験を通して、自分の今と将来を考えるきっかけをつくりたいのです。

まだアスリートや企業などへ積極的に声をかけている段階ですが、気軽にアスリートと一般の方々が一緒にスポーツ体験ができることを、1つの文化にしていきたいと考えています。新しい試みですが、自分自身にとって大きな挑戦ですし、これからの人生に絶対に役に立つライフスキルになると思っています。

星さんは最後に、「何をするにも準備は必要ですが、完璧な準備というのはないので、最後はトライ&エラーを繰り返していくしありません」と語っていました。

考え込むより、動いてみる。動くことで新しい何かを見つけることができる。言い方は失礼ですが、やはり星さんはアスリートだと感じました。体感・経験してきたことにウソはなく、すべて真実だからこそ前に進めるのでしょう。

Photo: 開發祐介