オーストラリア戦に先発出場した乾貴士【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

オーストラリア戦の先発が「順当」だった理由

 8月31日、日本代表は2018年ロシアW杯アジア最終予選のオーストラリア戦に臨み2-0で勝利した。オーストラリアの長所を出させず快勝と言えそうな内容であったが、そのなかでも際立っていたのが左ウイングの位置で先発した乾貴士だ。スペイン、ラ・リーガのエイバルに移籍して3シーズン目を迎え、ドリブルなどの攻撃力もさることながら、守備戦術レベルの高さが際立ってきた。(文:小澤一郎)

----------

 ロシアW杯アジア最終予選のオーストラリア戦に2-0と快勝した日本代表の中でも特に乾貴士の攻守に渡る存在感の大きさは際立っていた。日本国内ではいまだに「ドリブラー」というイメージが強く、オン・ザ・ボール(ボールを持った)時のプレーに特長があるとされている乾だが、3シーズン目を向かえるスペインで培ってきたのが何より緻密な守備戦術だ。

 戦前の先発予想において乾と浅野拓磨のウイング起用は「大博打」と表現されていることもあったが、エイバルとシュトゥットガルトにおける直近の試合での彼らの前線でのパフォーマンスを見た時には極めて「順当」な起用であった。

 例えば、8月21日のラ・リーガ開幕節で乾のエイバルはマラガと対戦している。マラガのシステムはオーストラリアと同じ3-4-2-1で、エイバルは日本代表と異なり4-4-2ではあったが相手3バックの右CB対して乾がプレスに行くことでエイバルは前線での“ハマり”を作るお得意のハイプレスを仕掛け、結果的には敵地で勝ち点3を持ち帰る勝利(0-1)を収めている。

 ハリルホジッチ監督でなくとも、マラガ戦での乾のパフォーマンスを見ればオーストラリアの3バックに対するプレッシングで大いに貢献できることは明らかで先発起用の決め手となったのは乾の攻撃面への期待よりも、「計算できる守備」だったはず。それでは、オーストラリア戦での乾が具体的にどのような守備をしていたのかを見ていきたい。

 3-4-2-1のシステムを用い、自陣からビルドアップでボールを前進させるプレーモデルを貫くオーストラリアに対して、日本代表はアンカーを置いた4-3-3のシステムでオーストラリアの3バックとダブルボランチに対して前線3トップと井手口陽介、山口蛍のインサイドハーフがマンマーク気味に圧力をかけていった。

 乾は基本的には右CBのミリガンをつかまえるポジションを取り、ミリガンがボールを持った時には素早いアプローチで距離を詰める守備をファーストオプションとして行っていた。

 実際、立ち上がり3分までに左サイドでのハイプレスから2度、昌子源が敵陣でパスをカットして日本ボールにしている。

 ただし、開始5分でハイプレスの強度を下げ中盤でセットする守備を整えた直後の6分にオーストラリアにDFラインから前線のファーストラインと井手口、山口のセカンドラインを一気に突破される縦パスを刺された。

 それにより、井手口と山口が両脇のスペースを使おうと動くオーストラリアの2シャドーに注意を傾け、自らのマーカーであるダブルボランチを簡単にリリースするようになったことで、特に乾と浅野のウイングは一人で複数名をつかまえる「中間ポジション」を取る必要が出てきた。

ボールを取れる状況作るも…周囲の連動なく後退強いられるシーンが

 例えば10分のシーンを見ていこう。浅野を背負っていたオーストラリアの左CB(スピラノビッチ)がGKライアンへとバックパスを入れ、GKがエリア外でボールコントロールをした局面だ。そこでGKは素早く右ボランチのアーバインの足元へとパスを付けた。

 オーストラリアがビルドアップの局面でボールを日本から見て右から左へと循環させたシーンだが、乾は同数でのハイプレスをかけられない時には基本的にミリガン、アーバイン、レッキーという3選手で形成されるトライアングルの中心に立っていた。

 GKからパスを受けたアーバインに一度は井手口がプレスに行こうとしたが距離が遠くなったため最終的にはプレスに行けず、リトリートする判断を下したことでアーバインは簡単に前を向く。

 その後、アーバインに対して右サイドのレッキーと前線から下りてきたロギッチがパスコースを提供したが、乾は瞬時に中央のロギッチのパスコースを塞ぐことでサイドのレッキーへのパスを誘導する。

 エイバルのみならず今の欧州で採用されている戦術からすれば、アーバインがノープレッシャーで前を向いた「オープンな状況」ではマークの受け渡しは行わず自身の担当ゾーン(エリア)を離れることになってもマンマーク対応することが主流となっている。

 しかし、この局面ではロギッチについていた昌子、レッキーについていた長友佑都がラインを下げて足元で受けようとする自身のマーカーを簡単にリリースしているため、アーバインからパスを受けたレッキーに対して致し方なく乾はプレスに行っている。

 乾からすればビルドアップ(相手のパス)を誘導して狙い通りにサイドにボールを追いこんでいる状況である以上、長友にはレッキーにそのままついて行ってもらい、長友にボール奪取をしてもらいたかったはず。

 このシーンに象徴されるように、乾の普段の感覚からすれば「ここで奪える」という局面でも、長友や井手口がマッチアップする相手との距離を空けすぎているかすでにリリースしていることで奪えない、プレスバックしなければいけない状況が多く見られた。

二人をつかまえる中間ポジション

 続いては、17分のオーストラリアのゴールキックからのビルドアップでの乾のポジショニングだ。GKから中央のCB(セインズベリー)にショートパスが出て、そこから左CB(スピラノビッチ)に入り再びGKが足元で受けたシーンとなる。

 ここで乾はアーバインとミリガンの二人をつかまえる中間ポジションを取っているが、GKが右方向にコントロールをした瞬間にポジションをボランチ(アーバイン)方向に寄せてボランチへのパスコースを塞ぎ、右CBミリガンへのパスを誘導している。結果としてGKはミリガンの足元へパスを付けたとしてもプレッシャーがかかると判断して前方に大きく蹴り出したが、昌子が難なく頭で井手口に入れ日本ボールとなっている。

 3つ目のシーンは19分、オーストラリアの左から右へのサイドチェンジ。左のボランチ(ルオンゴ)から右のタッチライン沿いに張るレッキーにサイドチェンジが起こった場面で日本の選手に求められる守備の戦術アクションは「スライド」となるが、乾は長友と同等のスピードでレッキーに寄せて2対1の状況を作ろうとしている。

 しかも乾はスプリントをかけながら自身の後方に入ったシャドー(ロギッチ)のポジションを確認している。エイバルで普段戦うラ・リーガ1部のレベルであれば、レッキーからワンタッチでロギッチに斜めのパスが出ていてもおかしくない。

 実際、昌子、長谷部のスライド対応はスプリントではなくジョグであったため明らかに遅れていたが、乾はもしロギッチがレッキーからワンタッチで受けるために斜めにスプリントをかけていればそのコースを消しながらボールホルダーにアプローチをかけていたはずだ。

乾がベンチへ下がった後に生じた危険性

 開始直後の3シーンであはるが、原口元気と交代する75分まで出場した乾は守備面でのポジションミスがなく、スライドやカウンターで一気に押し込まれた時のプレスバックといった戦術アクションのレベル(スピード)も日本代表の選手の中では突出していた。

 逆に交代で入った原口は、確かに82分の井手口の追加点のきっかけとなる高い位置でのボール奪取という目に見える守備での結果を出しはしたが、レッキーを警戒するあまり長友と同ラインか時に長友よりも低い位置まで下がるなど疑問符の付く守備対応が散見された。

 その守備対応はハリルホジッチ監督の指示だったのかもしれないが、完全にノープレッシャーとなったミリガンに対して井手口が無理やり突っ込んでいき簡単にはがされるシーンがあるなど、もしオーストラリアが試合終盤に単純なロングボール、クロスの放り込みを徹底してくれば日本の左サイド、原口の守備対応が穴となっていた危険性もある。

 結局のところ、守備のプレッシングは前線の選手に複数名をつかまえることのできるポジショニングの概念、守備の戦術が存在しなければ成立しない。そして、このオーストラリア戦だけを見ても乾がそうしたものしっかりと持っていると確認できた。

 高度なビルドアップと高度なプレッシングが日々しのぎを削り、フィジカル以上に頭のインテンシティが欧州屈指のレベルにあるスペインのラ・リーガでプレーすることの価値を乾貴士は証明している。

(文:小澤一郎)

text by 小澤一郎