「夏だから、思い出に残ることをしなきゃ」となぜ張り切りすぎてしまうのか

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この夏も、実家のある関西へ帰省してきた。
夫がお盆にしっかり休めることもあって、今回はまる1週間帰ることにしたのだが、娘が0〜1歳の頃に比べると帰省がどんどん楽になってきている。

ここ1年くらいは娘がリュックサックに自分の着替えなどを入れてくれるようになったので、私のバッグは基本的に私のものを入れられる仕様になり、いつも最低限しか持ち帰れなかった着替えや化粧品もちょっと多めに、友人に渡す手土産なども入れられるスペースもできた。

ベビーカーにおむつ、着替えやおやつ、おもちゃも余分に持って念には念を…と娘の荷物を準備していた頃は、とにもかくにも行き帰りが最大のイベントだったし、そこを越えたらOKという感じで、帰省してから何をするかは余力があれば考えましょう、という程度だった。

そして今回は、動物園に行った次の日は水族館、その次は義実家総出で一泊旅行、その他も娘の世話は家族にお願いして、友人とランチに出かけたり、ちょっと買い物したりと、精力的に活動した甲斐あって充実の1週間になった。

自宅に帰ってきてからも、娘はずっとあれが楽しかった、あそこにまた行きたいと繰り返していて、その嬉しそうな様子に安堵するとともに、私たちは夏の思い出を作ってあげたい、もっと言うと、夏だから何か思い出に残ることをしなければいけないのでは?という若干強迫観念に近いものを抱いていたのかもしれないと気づいた。


子育て中かどうかに関わらず、夏って四季の中でも特別じゃないだろうか。
「ひと夏の思い出」とは言っても、「ひと冬の思い出」とはあまり言わないし、雑誌の特集でも「夏にしたいこと」みたいな見出しをよく目にする。

昔から暑いのは苦手だったし、アウトドアな趣味もないし、あまり日焼けもしたくないし、できれば室内で涼んでいたいくらいなのだけど、ここ数年、「夏だから何か楽しいことがしたい」という気持ちが高まっている。

フェス、花火大会、お祭り、キャンプなど、子連れでも楽しめるイベント、あるいは子連れ客をターゲットに想定しているイベントが多いのもあるだろうし、今って子どもが小さいうちから海外旅行に行くのが本当に当たり前になってるんだな、とSNSを見ていても実感する。

自分たちにとって何が一番大きなトリガーだったのか、今となっては分からないが、「帰省するからにはめちゃくちゃ楽しまなくては!遊びまくらなくては!」みたいな妙な気負いがあった。

もちろん結果としてとても楽しかったので、良い過ごし方ができたなと感じてはいるけど、取りつかれたように「夏の思い出作り!」と張り切ってしまう気持ちの正体って何だったんだろうか。

帰省ということが年に何度もあるものではないから、特別感は当然ある。
帰る私たちだけの問題ではなく、迎える側、娘の祖父母サイドにもそれは同様のようで、とくに義実家での食卓の豪華さにはいつも驚かされる。

毎回絶対天ぷらを揚げてくれるし、お刺身だとか赤飯だとか、冷蔵庫にはビールやらアイスや果物が満杯だ。私たちよりずっとゆとりもあるし、たまにのことだから何てことはないのかもしれないが、これでもかという食事の量と質に、「毎度気を遣っていただいてすみません……」と恐縮しつつ、せっかくだからビールをいただいておこう、と自宅ではもっぱら第3のビール党の筆者は、その贅沢にあやかることにしている。

しかし何でも、最近は「孫ブルー」なんて言葉もあるらしいので、祖父母世代も孫を迎えることに関してはどこか張り切りすぎてしまう傾向があるみたいだ。抱っこをせがまれて腰を痛めたとか、帰省が終わって戻った後はホっとする、なんて声を耳にしたときには「そんなに無理するほど頑張らなくてもいいのでは……」と言いたくなる。しかし、私たちが子どもに対して「夏だから何か楽しいことをしなくては!」と思うように、祖父母たちも、「孫や子どもたちが帰ってくるんだから、ちょっといいところ見せなくては!」という思考になってしまうのも、やっぱり自然な流れなのかもしれない。

これが同居や近居だったらもうちょっと違う関係性なのかもしれないけれど、やっぱり帰省って「ハレの日」なのだ。

筆者の幼少期は、夏といえば毎年父方の田舎である四国に帰省していた。
とはいっても遊び回っていた記憶はあまりなくて、思い出せるのは、暇だから近くの喫茶店に漫画を読みに行ったこと、暇だから祖母の家に置いてある「よりぬきサザエさん」を何度も読んでいたこと、暇だから近くの書店に行ったら、関西では月曜日にしか手に入らない「週刊少年ジャンプ」が土曜日にもう入荷していたこと……何で漫画のことばかりなんだ?

退屈を持て余していたのだと思うし、すごく印象的な出来事もあまりない過ごし方だったけど、「よりぬきサザエさん」は毎年読み返しても不思議と飽きなかったし、今でも何かと会話のネタにしてしまうレベルで内容を暗記している。

そして何といっても、「ジャンプ」が土曜日に読めるというのは、自慢できる相手こそいないものの、小躍りするレベルのサプライズだった。そこから部活だ受験だと、私自身も忙しくなってからは、毎年の習慣だった帰省も飛び飛びになり、祖母が他界してしまった今、なかなか行く機会もなくなってしまった。さて、当時私たちを迎えてくれていた祖母や伯父伯母も、私たちの帰省をやっぱり「ハレの日」として捉えていてくれていたのだろうか。

祖母はさっぱりした人だったので、私にべったり付きっきりということはまったくなかったのだけれど、いつもご馳走を作ってくれた伯母や、自由研究や宿題に付き合ってくれていた伯父からすると、私の帰省の思い出が「漫画」なのを知ったら卒倒するかもしれない。

そしてこの調子で行くと、私たちが「夏だから思い出に残ることを!」と張り切っているのをよそに、後々娘の記憶に残るのも、何てことはないことなのかもしれないな、とこの夏を振り返っている。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。