「クチコミ」でヒット商品を生み出す

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消費者の商品購入に至る意思決定のプロセスは、従来は、企業がさまざまなメディアを通じて情報を提示し、それを消費者が認知して購買に至るという直線的な流れで捉えられていました。しかし、SNSが登場し、消費者が手軽に情報を発信できるようになると、商品の購買後に、使用経験などをSNSで発信する人が増え、そのクチコミを通じて商品を認知し、購買する消費者も増えてきました。そのため、最近はクチコミを重視したマーケティングが非常に注目されています。

ただ、注意したいのは、クチコミばかりを重視してはいけないということです。クチコミに影響されて購入する人は、若い世代を中心に増えているとはいえ、全体に占める割合はまだ10〜15%程度にすぎません。相変わらずテレビCMを見て、あるいは店頭でのセールスプロモーションによって購買する人は多数存在しています。また、購買に至るまでに複数のメディアに接触する人も少なくありません。そこで、これらのさまざまなタイプの購買を説明できる包括的な意思決定プロセスモデルとして、私が提唱しているのが「循環型マーケティング」(図を参照)です。

このモデルでは、消費者の意思決定プロセスを購買前・購買の場・購買後の3つに分け、それぞれの段階で消費者が接触する情報が輪のように循環していることを示しています。各段階の情報は、購買前は認知媒体としてのマスメディアや企業のホームページ、購買の場では店内プロモーション、購買後はSNSなどのクチコミに整理できます。消費者は購買のために、どのプロセスからも入ってきます。テレビCMで商品を認知して購買する人もいれば、スーパーマーケットで販売されているような比較的安い商品の場合、店頭でのプロモーションで購買を決める人もいます。そして、購買した人が発信したクチコミで商品を認知する人もいます。このモデルを用いれば、多様な情報源を用いて意思決定する、さまざまな消費者の購買に至るまでの行動を、包括的に説明することができます。

この循環型モデルを基にすると、従来型のコミュニケーション戦略は見直しを迫られていることがわかります。従来は、マスメディアを通じて商品を認知させ、プロモーションで購入を促す、というように、消費者の情報接触から購買までの流れを企業がコントロールすることを前提に行われてきました。しかし、クチコミという、企業がコントロールできない情報を用いて購買に至る消費者が登場している現在は、各段階のコミュニケーションを連動させ、情報が消費者を通じて潜在顧客に流れるサイクルを循環させていくことが重要になります。

例えば、テレビCMには、単に商品の認知を高める役割だけでなく、「このCM面白いね」とクチコミで話題にしてもらえるような工夫が求められます。そして購買の場では、CMと連動したPOPを掲げ、購入した人がクチコミをし、それが「いいね」をどれだけ獲得しているかなど、コミュニケーションの効果を総合的に測定することで、マーケティングの成果を把握できるようになるでしょう。購買時における消費者の意識は、SNSのなかった時代に比べると、明らかに変化しています。購買する商品を選択する段階で、「今話題になっているかどうか」を重視する傾向が強まっているのです。従来であれば、購買の選択肢に入れてもらうためには、商品の名前を認知してもらうことが重要でしたが、現在はそれだけでは弱く、クチコミで話題になっていなければ、選択肢に残らないケースが増えています。それだけに、CMを打つにしても、認知度を高めるだけでなく、クチコミにまでつなげて情報を循環させることが求められます。

また、商品のブランドイメージによっても取るべき戦略は変わってきます。例えば、情報に敏感な先端的消費者が多く購買している商品であれば、常に何か新しい話題を打ち出していく必要があります。一方、定番商品であれば、店頭でのプロモーションに力を入れるべきです。また、定番化によって情報感度の鈍い顧客が増えてくると、感度の高い顧客が離れてしまう危険性もあります。それを防ぐために、定期的にリニューアルを図るなどして話題を喚起することも必要でしょう。

循環型マーケティングのカギを握るのは、情報を循環させる消費者です。それは、どのような消費者でしょうか。SNSが登場した当初はブログが中心だったため、パソコンを使って、かなりの文字数を書く必要がありました。そのため、クチコミを発信するハードルは高く、発信者の多くは質の高い情報を発信していました。ところが現在は、スマートフォンでツイッターやインスタグラムなどを使い、誰でも手軽に情報を上げられるようになり、結果として誤った情報もたくさん上がるようになっています。それだけに企業としては、質の高い人、つまり商品のよし悪しが本当にわかる人に情報を発信してもらう必要があります。そのような先端的消費者を私は「情報循環層」と呼んでいます。情報循環層は、「ほかの人に情報を回せる力」「新商品への感度の高さ」「豊富な情報源を利用できる力」の3つを兼ね備えていることが調査を通じてわかってきました。

■「適度な不一致」が話題につながる

循環型マーケティングで商品をヒットさせるには、商品に関する話題を提供することで、消費者のクチコミを促し、情報を循環させることが重要です。

例えば、花王が2013年に発売したヘルシアコーヒーは、テレビCMによる認知で購入した人が最も多かったのですが、消費者のクチコミを通じて購入した人も全体の1割程度いました。ヘルシアコーヒーの話題性は、「ヘルシア」というトクホ(特定保健用食品)の健康的なイメージと、缶コーヒーという、どちらかといえば健康とは無縁なイメージとのギャップにありました。「健康にいい缶コーヒーって何なの?」という意外性がクチコミにつながり、情報が循環してヒットにつながったのです。

同様にヒットした商品にセブン−イレブンが土用丑の日向けに期間限定で発売した「う〜なぎチョコパン」があります。この商品はマス広告は打っていませんが、消費者が店頭でウナギ形の菓子パンというユニークな形を目にして話題となり、クチコミでヒットしました。

定番のブランドでも、定期的に新商品を投入して話題づくりを行い、ブランドの活性化につなげるパターンがあります。赤城乳業のアイスキャンディー「ガリガリ君」は、コーンポタージュ味やナポリタン味など、変わった味の商品を発売することで話題づくりに成功しています。

こうした商品の話題づくりにおいて大切なのは、「適度な不一致」というポジションをつくることです。例えば、ヘルシアコーヒーがヘルシア緑茶と同じようにペットボトルで登場していたら、あそこまで話題にはならなかったでしょう。缶コーヒーのパッケージで、ほかの缶コーヒーと同じ売り場で販売されているからこそ、「缶コーヒーだけど、ちょっと変わっている」ということで話題になったわけです。

不一致がなければ話題になりませんが、不一致が大きすぎても話題にしづらくなります。それは、私たちが普段、自分とかけ離れた人の意見を聞こうとしないことと同じです。適度な不一致のさじ加減は難しいかもしれませんが、そこで頼りになるのが、先述の情報循環層です。この層は、話題にしやすい不一致を感覚的に理解しています。この層の意見を上手に取り入れることで、話題性のある商品づくりが可能になるでしょう。

(慶應義塾大学商学部教授 清水 聰 構成=増田忠英 写真=AFLO)