「マンガ編集者」にみる地銀の生き残り策

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地域経済で地方銀行の役割は大きいが、金利低下や人口減少などで経営環境は厳しい。地銀はどうやって生き残ればいいのか。ひとつはカネを貸すだけでなく、企業を育てるビジネスモデルへの転換だ。大和総研の鈴木文彦主任研究員は、そのヒントが「才能を発掘するマンガ編集者にある」という。これからの銀行マンに求められる能力とは――。

■「才能」をみつけて、ヒット作を出す

これから日本は本格的な人口減少時代を迎える。地方の成長力を確保するためには、地方の「稼ぐ力」を奮い起こすことが重要で、地方の資金循環の中心的な担い手である地方銀行の役割は大きい。

他方、金利水準の低下が進み、将来の人口減少が確実視される中、単純に貸し出し拡大を目指す従来型の地方銀行のビジネスモデルが限界に近づきつつある。貸し出し全体のパイが拡大することは考えにくく、やみくもな貸し出し競争に陥り、さらなる金利の低下を招くようなことでは、先行きが危ぶまれる。

このため地方銀行には、ビジネスモデルの転換が求められている。具体的には、直近の財務データをよりどころに審査し、担保や保証による保全を前提に融資を行うビジネスモデルから、事業に対する深い理解や、経営相談等を通じて得た情報を基に、地方企業の将来性に着眼した融資や的確な助言、その他の支援によって企業を育成するビジネスモデルへの転換が必要だ。そのカギは事業の「目利き力」になるだろう。

目利きと育成のモデルとして、イメージがしやすいのがマンガ誌の編集者ではないだろうか。

マンガ編集者は、才能を見つけ、育成し、ヒット作品を世に出すのが仕事である。編集者は、マンガ誌の新人賞に応募された作品などから才能ある新人を発掘する。そして、マンガ家の卵が持ち込む原稿を読者代表として吟味し、アドバイスを与える。生活支援のため、技術力向上のために他のマンガ家のアシスタント仕事を紹介することもある。マンガ家として十分な成長が認められれば、マンガ誌で「デビュー」できる。連載が進み、単行本がヒットすればマンガ家には多額の印税が入り、版元にも多大な収益をもたらす。ここではマンガ家とその作品が「事業」だ。編集者は事業を目利きし、育てる。

■買い手代表の立場で商品を厳しく吟味する

これを端的に育成モデルと言うとすれば、百貨店やセレクトショップのバイヤーもあてはまる。まだ見ぬ素材や才気あふれるデザイナーを発掘し、新しい製品を市場に送り出すため量産化や販路開拓の面で支援する。総合商社も同様。歴史的には産地問屋、今でいう「地域商社」に期待される役割も似たようなものだ。

目利きにあたって事業を一番知る者は誰か。まずは同業者があげられよう。

名医とヤブ医者を見抜けるのは医者である。目利きにあたって事業を一番知る者としてまずは同業者があげられよう。その次に知っているのは仕入れ担当者だと思う。バイヤーは言うまでもなく、マンガ編集者もある意味仕入れ担当者である。魚市場で「目利き」する鮮魚店や料理人もしかり、「目利き」と言われるものは、買ってもらえるかどうか常に売り手の顔を頭に浮かべ、在庫リスクをおそれつつ、買い手代表の立場で商品を厳しく吟味する仕入れ担当者である。自前の販売網を持っているのでリスクをある程度コントロールできるのも強みだ。いわば販売網という「担保」を持っている。

■銀行員には「事業の目利き」は難しい

マンガ編集者が典型的な育成モデルだとして、銀行員に同じような目利きができるだろうか。

課題はいくつかある。まず、同業者や仕入れ担当者に比べれば、銀行員は融資先の事業をよく知らない。個人事業主であるマンガ家が銀行員に融資の申し込みに来たとして、当のマンガが実に面白いとしても、それが将来何万部も売れるヒット作になるかは知る由もない。

これは極端な例としても、筆者も銀行員時代に「ラーメン店の開業」について実際に相談を受けたことがある。難しいのは、銀行員がラーメンを食べておいしいと思ったとしても、他のたくさんの人々がおいしいと感じるかどうか、当のラーメン店が3カ月後に行列を作るほどに繁盛し数年後にチェーン展開するかどうかはまた別の話ということだ。

当の事業のサプライチェーンの線上にいない銀行にとって仕入れ担当者と同等の目利きは難しい。そのうえ、仕入れ業者と違って販売網を持たない分リスクのコントロールも容易でない。在庫を自ら処分できない分、担保や保証で信用補完しているともいえる。

目利きの課題は決済インフラの担い手ゆえの立場にもある。銀行の本性はブレーキ役なのでアクセルを踏む側に立つのは難しい。というのも、資金決済ネットワークという、電力、ガス、通信と同じく公共性の高いインフラを担っている預金取扱金融機関は預金を安全に運用する使命があるからだ。資金決済ネットワークの些細なほころびも許されない中、融資先が破たんしないか、仮に破たんしても貸し倒れが発生しないかを厳しく見極める習性がしみついている。

■でも「リスクの目利き」であれば得意

ということで、新規事業を提案するのも思わず慎重になる。実際に同一人物がすることはないにせよ、自分で案件をこしらえて自分で審査するのはなかなか悩ましい。銀行員が新規事業を提案したとして、案件に関われば関わるほど、最終的に融資を断らざるをえなくなったときにつらくなる。

お金を借りる側にしてみても、生殺与奪の権を持つ(と思われている)銀行に完全に心を許すのかわからない。その緊張感は納税者と税務署の感覚に似ているようにも思われる。まさか税収増をめあてに税務署が経営アドバイスをするわけにもいくまい。

与信リスクに対する「目利き力」はある。銀行は将来大化けする才能を見抜くのは不得手かもしれないが、一見華やかな事業計画書に隠されたウソを見抜くのは得意だ。筆者もそうだったが、帳簿をマメにつけているかとか、在庫をきちんと管理しているかとか、作業場の掃除が行き届いているかとかもよく見ている。

要するに、キャッシュの出入りをきちょうめんに管理し、期日通りに返済してもらうことが最大の関心事だ。決済インフラの担い手であるがゆえに運用先の返済能力を厳しく見極める習性は、他業態に比類ない強みでもある。

■コンサルなどの「アクセル役」も必要

このような強みと弱みにかんがみて、銀行が育成モデルを目指すにあたっては、「目利き」について事業に精通する外部の第三者と連携するのも一考ではなかろうか。連携先はたとえば百貨店のバイヤー、総合商社など、人材、技術力や商品から将来の成功の種を目利きするのが得意なところだ。対して、銀行は事業計画書などから将来の失敗の芽を厳しく目利きする。

より積極的な方法としては、仕入れ担当者以上の目利き力を持つ同業者を融資先に派遣する手も考えられる。現役の同業者を派遣するわけにはいかないので、たとえば大工場でカイゼン運動を担当していたOB人材や、経験に富んだプロ経営者などを送り込み、マンガ家に寄り添う編集者のようにアドバイスその他の支援をする。

地域全体の課題となるが、アクセル役の強化も必要だ。創業や経営革新にしてもある程度の数がないと、地域の所得向上には目に見えて貢献しない。銀行は、持ち込まれた事業計画書から返済能力を厳しく見極めブラッシュアップし、場合によってはふるいにかける役回りだ。この能力がしっかりするほどチャレンジは淘汰されるので応募数は多い方がよい。チャレンジの母数を増やす仕掛けが必要だ。この点は、自治体、商工会議所など公的機関の創業支援も期待できる。

マンガ誌の新人賞ではないが、創業や新規事業に夢を与え、志ある者をたき付けて、チャレンジ案件を増やす施策が有効だろう。ここで、事業を熟知するコンサルタントが、税務署に対する税理士のような役回りで、銀行との交渉にあたってのサポート役になる手もある。

■地元経済と「一蓮托生」で成長を助ける

もっとも、手探りの状況ではあっても育成モデルに向けていろいろ試しているところだ。銀行主催の展示会やビジネスマッチング、経営コンサルタントの派遣事業、OB人材の仲介やビジネスプランコンテストも実際にある。とはいえ、こうした各種の支援策が広く拡大しかつ定着するにはなお講じるべき課題があろう。端的にいえば、手塩にかけて長年育てたにもかかわらずあらかじめ決められた元利金以上の収入が得られず、それ相応のインセンティブに欠ける。育成モデルの貢献度によって応分の果実が得られるような仕組みがあればよい。

当の支援を受ける企業から見た課題もある。創業や新規事業のスタートアップ時期や再生案件におけるリストラクチャリング時期など、支援が必要な時期にもいろいろあるが、それが成果に現れる時期には個体差がある。銀行融資の据置期間は契約時に決めるものであるうえ、極端に長くするわけにもいかない。企業の成長を待ち、儲けが十分でるよう成長してから返済を始める「出世払い」の仕組みがあればよい。

このような、銀行の資金回収、企業の返済があらかじめ決められた額、時期ではなく成長度合いに応じて額も時期も変動するシステムを導入するとなれば、もはや銀行の融資業務というよりはエクイティ性の資金を原資とする投資ファンドに近くなる。万が一にも毀損の許されない預金を原資とする金融機関、特に地元の決済ネットワークを担うインフラ業に近いところほど悩ましい。これも含めて、ビジネスモデル、いや、業界の文化のようなものの抜本的な転換が求められているということか。

投資ファンドに近くなるとはいえ売却益に焦点をあてた短期集中型の支援ではなく長期継続的な支援という点で異なる。地元経済と一蓮托生の面持ちで、投資ファンドのような手厚い支援を施しつつ企業の成長を辛抱強く見守ってゆくというものだ。互いに矛盾する要素を包み込みつつ、仕入れ担当者やOB人材、経営専門家などと役割分担あるいは相互補完しながら、新たなビジネスモデルの試行錯誤が続くだろう。

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鈴木文彦(すずき・ふみひこ)
大和総研金融調査部 主任研究員
仙台市生まれ。1993年立命館大学産業社会学部卒業後、七十七銀行入行。2004年財務省に出向(東北財務局上席専門調査員)。08年大和総研入社、現在に至る。専門は地域経済、地方財政、PPP/PFI。中小企業診断士。

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(大和総研金融調査部 主任研究員 鈴木 文彦)