『アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える』(アンドレアス・ワイガンド:著、土方奈美:翻訳/文藝春秋)

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 2016年、世界のインターネット人口は34億9000万人と推定されている(出典:ITU World Telecommunication /ICT Indicators database)。世界人口76億(2015国連世界人口白書)のほぼ半分近くの人々が、日々、ネットを使っているわけである。

 ネットを使えば、SNSへの登録やサイト履歴など何かしらの形でパーソナルな「ソーシャルデータ」を提供することになる。しかし多くのネットユーザーは、「悪用されたくない」程度の警戒心はあっても、吸い上げられたデータを企業側がどう活用しているのかに対して無関心、もしくは何か恩恵があれば活用するくらいの「受け身」の態勢でいるだろう。

 しかしデータ・サイエンティストのアンドレアス・ワイガンド氏は、「もっとソーシャルデータを提供する個人の権利を主張すべきだ」と訴える。なぜなら、ネットユーザーたちが提供するソーシャルデータこそ、石油にとって代わる「21世紀の最も重要な資源」なのだから、とワイガンド氏は世界中のネットユーザーを啓蒙する。

『アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える』(文藝春秋)の著者、アンドレアス・ワイガンド氏はアマゾンという超巨大データ企業(ネットユーザーのデータを活用する企業)の元チーフサイエンティストで、アマゾンの使い勝手のいいプラットフォーム構築に尽力した物理学者だ。そんな著者による本書は、デジタル時代を生きる個人がいかにデータ企業と向き合うべきかを訴える啓蒙書だ。

 インターネットは匿名性がメインの時代から、実名公開を前提としたリアル社会ツールにシフトした。こうした今日、ネットでの「プライバシー」はもはや幻想だと著者は記す。であるなら、私たちがネットに残すデジタル痕跡(サイトの閲覧と履歴、コンテンツへのクリックデータ、アカウントやプロフィール等)をデータ企業がいかに活用しているかを知り、データ企業との間で正しいギブ&テイクの関係を築けるよう、「データリテラシー」を高めることが重要だという。

 そこで本書には、世界の大手から小規模ベンチャーまで様々な企業が登場し、どんなふうに私たちのデジタル痕跡が活用されているかを教えてくれる。正しいギブ&テイクの一例としては、アマゾンの誤発注確認機能などが紹介されている。過去に発注した商品を購入しようとした際、「過去にも購入していますが間違いないですか?」と、過去データを顧客の満足度向上に向けて活用すれば、データを提供したユーザーも恩恵が得られることになる。

 一方で、企業がネットユーザーから吸い上げるデータは、買い物履歴やフェイスブックに書き込むプロフィールといったわかりやすいものばかりではない。中でも筆者が驚いたのは、イスラエルのデータ企業バイオキャッチの事例。この企業が注目するのは、個人がどのようにパソコンやスマホ、タブレットを扱うかといったデジタル・フィンガープリント(指紋)だ。

 例えば、タッチスクリーンを強くたたくか、穏やかに触れるか。スクロールする際には画面のどのあたりを触れるか。マウスを動かす速度はどうか。リンクを開く際に、新たなタブを開くか、既存タブで開くのか。こうしたデータを拾うことでユーザー特性をプロファイルしてしまうのだ。そして顧客である金融機関などに対して、本人確認の新たな方策として提案するのである。

 本書には多くのデータ企業が駆使するアルゴリズムに関する情報も多数網羅されているが、著者の主張はこう集約できる。それはデータ企業に対し、「透明性の権利・主体性の権利」を働きかけようというものだ。その詳細は本書で確認してほしい。また本書は、フェイスブックやリンクトインなどソーシャルネットワークのアクティブユーザーには必読書ともいえるぐらい、様々な仕組みが明かされている。もしあなたが、あなたの投じた「いいね!」がデータ企業にとってどれほどの価値を持つか知りたければ、ぜひ、本書を読んでみてほしい。

文=町田光