中性子星同士の衝突で重力波が生じる様子のイメージ図。 Photo by .


 この連載では、「LIGO」(ライゴ、米国にある2台のレーザー干渉計重力波観測装置)による重力波検出を繰り返し取り上げています。またかと思われる読者もいらっしゃるかもしれませんが、またまたです。だって重力波、面白いんだもん。

(参考・関連記事)
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 LIGOはこれまで3発の重力波検出を公式発表しています。いずれもブラックホールどうしの衝突・合体による重力波と考えられています。

 2017年8月、天文学業界にまたもや重力波発生の噂が流れました。今回はこれまでと違って、重力波の発生源が別の観測装置でも捉えられたかもしれない、というのです。

 これが本当なら、重力波天体の理解が飛躍的に進展します。他の波長の観測装置で天体を観測すると、得られる情報が桁違いに増えるのです。

 また、今回検出された重力波天体は、種類がこれまでと違う可能性があります。ついに待ち望まれてきた中性子星の衝突・合体が見つかったのかもしれません。

 まだどこからも正式な発表のない段階で、 『ニュー・サイエンティスト』『ネイチャー』『ナショナル・ジオグラフィック』 などの科学誌が、ウェブ記事でこの噂を取り上げました。あまり例のないことです。

 天文学業界はどこに期待し興奮しているのでしょうか。解説しましょう。

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重力波検出装置LIGO

 時空のさざ波である重力波は極めて微弱な波動で、その検出は人類の100年の夢でした。

 しかし現在では、人類には重力波検出装置LIGOがあります。LIGOは2015年に史上初めて重力波を検出し、重力波とブラックホールの存在を同時に証明しました。

 2台のLIGOは、2016年11月30日から2017年8月25日まで2期目の観測を行ないました。イタリアのピサ近くに作られた3台目の「Virgo」(ヴァーゴ)も2017年8月1日からネットワークに加わりました。

 過去の公式発表から判断すると、LIGO稼働中は、1カ月に約1回の頻度でブラックホールの衝突・合体による重力波を検出しています。

 ただし重力波を検出しても、その発表は数カ月後になるのが通常です。例えば2017年1月4日に検出された3番目の重力波は、5月9日に論文投稿され、6月1日に論文の公開に合わせて公表されました。公式発表まで約5カ月かかっています。

 公式発表までの間、検出の事実は伏せられます。理由のひとつは、検出されたシグナルを本物かどうか確認するのに時間がかかるためです。重力波検出はノイズとの戦いで、偽シグナルの海の中から本物の重力波シグナルを見分けないといけません。シグナル候補が現れるたびに発表していたら、狼が来たと叫ぶ少年になってしまいます。

 また別の理由は、研究チームの観測データに対する優先権を保証するためでもあります。チーム外の誰かが観測データを先に解析して論文にしたり、あるいはウェブ記事を公開したりすると、装置を開発し運用しているチームのそういう優先権を侵害することになります。(この記事は公開された情報に基づいて書いています。)

重力波アラートが来た

 けれども、公式発表を数カ月も待っていられない、重力波天体をただちに他の波長で観測したい、という要望も世の中にあります。重力波を放出するような爆発的天体現象は、短時間だけX線や電波などの電磁波も放射するかもしれません。だとしたら、その放射が減衰する前に素早く観測する必要があります。

 そこで現状では、ある程度大きな(有意な)シグナル候補が検出されたら、チーム外の協力者にインターネットを介して直ちに知らせる仕組みになっています。

 このような仕組みは、「ガンマ線バースト」という別の天体現象を観測するために発達しました。ガンマ線バーストは、ガンマ線という電磁波を強く放出する爆発現象です。宇宙のどこかでガンマ線バーストが起きたことが観測衛星によって検出されると、全世界の天文台やロボット望遠鏡や観測者にアラートが送られるシステムが動いています。

 ただし、今のところLIGOとVirgoには、重力波の到来方向を精確に測る能力がなく、だいたいこっちの方向からやってきたという大雑把な位置情報しか得られません。これでは重力波アラートがあっても、空のどの点に望遠鏡を向ければいいのか分からず、大型望遠鏡などで重力波天体を観測することができません。

ガンマ線観測衛星「フェルミ」。Photo by .


 なのですが、今回の重力波シグナルは特別でした。2017年8月17日12時41分6.47秒(協定世界時)、ガンマ線観測衛星「フェルミ」が、重力波シグナルと独立に、ガンマ線バーストを検出したようなのです。フェルミの検出も世界に報告されました。(gcn.gsfc.nasa.gov/gcn3/21520.gcn3) ガンマ線バーストとしてつけられた名前はGRB 170817A、「2017年8月17日に発生したガンマ線バースト」の意です。

 天文学業界は一気に興奮しました。

中性子星衝突・合体を捉えたか?!

 もしフェルミの検出したガンマ線と重力波が同一の天体からやってきたものならば、この重力波シグナルは、これまでのものと少なくともふたつの点で違います。

 まず第一に、この天体現象は重力波とガンマ線を両方放射するものなのです。

 実は以前から、2個の中性子星の衝突事故が宇宙に起きているのではないかと考えられてきました。中性子星とは、私たちの太陽よりも大きな質量を持ちながら、半径が10kmほどしかない、大変な高密度の異常な天体です。その中性子星が2個、互いの周りを周回する連星系が発見されているので、そういう連星系は何億年もの時間の後に衝突するだろうと予想されます。

 中性子星同士が衝突すると、大爆発が起き、1個の銀河に含まれる恒星全部の明るさを上回る強烈な電磁波放射と重力波が生じると考えられます。これはガンマ線バーストとして観測されるでしょう。2個の中性子星は合体し、即座に1個のブラックホールに変化すると考えられています。

 ガンマ線バーストは、これまで無数に検出され記録されてきました。その正体は極超新星という、超新星爆発のでかいやつだと説明されています。しかし、中にはある割合で、中性子星の衝突・合体によるガンマ線バーストも混じっている可能性があります。

 区別の決め手は重力波です。中性子星の衝突・合体では、ガンマ線と重力波が一緒に検出されるはずです。今回のように。

 そもそもLIGOは、中性子星の衝突・合体を見つけて解明するだろうという見込みで建造されました。けれども、これまでLIGOが報告したのはブラックホールの衝突・合体ばかりです。そろそろ「本命」の中性子星衝突・合体があってもいいのでは、と多くの研究者が期待しています。

 今回のシグナルは、待ちに待った中性子星衝突・合体かもしれません。

観測ラッシュが始まった

 今回のシグナルの特別な点その2は、位置が精確に求められたということです。他の波長で天体を検出すると、その天体の正確な場所が分かるのです。

 フェルミの今回の位置決定精度はあまり高いものではなく、半径11.6°程度の誤差があります。しかし、この情報をもとに可視光観測が行われ、見慣れない光点が発見されました。1億3000万光年離れた銀河NGC4993の位置です。この銀河内に重力波発生源の天体があって、重力波とガンマ線と可視光を放射している可能性があります。

図: 銀河NGC4993の疑似カラー写真。ここで中性子星衝突事故が起きた? Digitized Sky Surveyによる。 Copyright:


 現在、大型望遠鏡による観測ラッシュとでも呼ぶべき状態が生じています。「X線天文台チャンドラ」や「ハッブル宇宙望遠鏡」に加え、電波干渉計「ALMA」(アルマ)を含む地上の電波望遠鏡などが、この銀河NGC4993を観測中です。もし、X線や可視光、電波を放射しているのが見つかったら、天体の正体に迫る成果です。

 それにしても、もし今回、中性子星衝突現象を捉えたのなら、重力波天文学はすごすぎです。本格観測が始まるまでは長かったのですが、いざ始まったら、ほんの2年ほどで重力波の存在を実証し、長年の謎ブラックホールの存在を証明し、ガンマ線天文学のミステリー中性子星衝突をまたたく間に解決です。

 ノーベル賞1個では足りないくらいです。

 ともあれ、他の観測装置の観測続報と公式発表を待ちましょう。

(参考)ALMAの観測スケジュールを検索してこのガンマ線バースト天体を探すには

 天文台の観測スケジュールには、公開されているものもあります。例えば、電波干渉計ALMAのスケジュールを検索して、この天体GRB170817A=NGC4993を探すことができます。

1. ALMA Science Archive Query のページ(https://almascience.nao.ac.jp/aq/)を開く。
2. PositionのSource name(Resolver)に「NGC4993」を入力。
3. Search ボタンを押す
4. NGC4993の画像と観測スケジュールが得られる。(この画像は過去のデータで、ガンマ線バースト天体は映っていない。)
5. Project codeにポインタを重ねると、観測の概要が読める。観測理由に「我々(観測提案者)は今日、GRB170817Aの位置に明るい可視光残光を検出した」とある。

筆者:小谷 太郎