金正恩がちらつかせたグアムへのミサイル発射に使われそうなのが、今回日本上空を横断した中距離弾道ミサイル「火星12」だ

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一時は緊張緩和が期待された米朝関係も、北朝鮮の“日本横断ミサイル”で再び緊迫。9月9日、建国記念日に北朝鮮が繰り出す“次の一手”次第では最悪の事態も──。

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8月29日6時2分、12道県で「Jアラート」の警報音が響いた。その4分前に北朝鮮が発射した中距離弾道ミサイル「火星12」は、津軽海峡と北海道南部上空を飛び、約14分で襟裳(えりも)岬の東約1180kmの海上に落下した。

これはある意味、日本にとって貴重な“実戦的訓練”の機会だったともいえる。3つの疑問を順に検証していこう。

(1)Jアラートはどの程度有効に機能した?

軍事ジャーナリストの世良(せら)光弘氏はこう語る。

「官邸には事前に米軍などから発射の兆候が伝えられていたようですが、いずれにしても発射から4分でJアラートを発信できたことは十分に成功といっていいでしょう。

今回は上空通過でしたが、仮にノドンミサイルが日本に向けて発射された場合、着弾まで約8、9分。発射から4分でJアラートが鳴れば4、5分の避難時間が確保でき、建物内にいる人が危険な窓辺から離れたり、外にいる人が地下や頑丈な建物を探すことも可能になる。地面に伏せ、目と耳を覆うだけでも生存率は高まります。より深刻なミサイル攻撃に直面している国や地域では、日常的にこのような防空訓練を行なっています」

(2)Jアラートが発信された一方で、なぜイージス艦は迎撃ミサイルを発射しなかった?

「イージス艦が迎撃するかしないかを決めるのは、Jアラートの発信よりも後の段階。今回はその時点で日本の領土、領海に落ちないと判明したため、迎撃命令は出されませんでした。

反省点は、北朝鮮がグアムにミサイルを撃つと表明したことを受け、地上配備型の迎撃ミサイルPAC3を中国・四国地方に重点配備していたこと。北海道は手薄な状態でした」(世良氏)

(3)なぜ北朝鮮はこの飛翔コースを選んだのか?

金正恩は何もやたらめったらに撃っているわけではなく、むしろ今回のコースには彼の“苦心”が表れていると、韓国軍関係者は分析する。

「地図を見ればわかりますが、実戦に近い飛距離を出すための試射のコースは相当限られる。北海道− 樺太(からふと)間を抜けるコースはロシアを刺激し、かつアラスカに基地を持つアメリカを怒らせかねない。対馬(つしま)海峡から沖縄や先島諸島を抜けるコースも、米軍基地上空を飛ぶことになってしまう。

そうなると本州あるいは北海道を横断するしかないのですが、東北上空を飛ぶルートはハワイ狙いと誤解されかねず、東京や大阪などの大都市周辺も刺激が強すぎる。今回の津軽海峡コースは、まさにここしかない、というピンポイントの選択だったのです」

緊迫するミサイル危機の行方は米朝関係にかかっている。今は互いに非難や挑発で応酬しつつ、ギリギリのところで「対話」の糸口を探っている段階だが、果たしてうまくいくのか。

「交渉の主導権を争うチキンレースは最終段階に入っており、遠からず米朝対話が始まる可能性もある。最初の段階ではアメリカは核・ミサイルの破棄、北は核保有国としての認定を求めつつ、実際の落としどころのキーワードは『凍結』になるでしょう。

ただ、北はすでに300基以上の短距離・中距離ミサイルを保有し、さらに新型中距離ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)も実験段階。寧辺(ニョンビョン)の黒鉛炉でのプルトニウム生産も進んでいます。どれをどの順番で凍結するか、検証・監視をどうするか、見返りは何か、などの交渉はひと筋縄ではいかず、いわば“マラソン”になる。その間に不測の衝突があれば、交渉はご破算です」(韓国軍関係者)

そんななか、気になる情報がある。元時事通信社ワシントン支局長の小関哲哉(おぜき・てつや)氏は言う。

「6度目の核実験というのは相当深刻です。今度は核分裂ではなく、いよいよ水爆を実用化してミサイルに核弾頭を搭載するための最終段階(核融合実験)となるからです」

前出の韓国軍関係者は、この核実験が“不測の衝突”を招きかねないと警告する。

「韓国は、アメリカが軍事行動を起こす“レッドライン”が核実験の強行だと受け止めています。ただ、どうも北にはそのメッセージが伝わっておらず、核実験ではなくICBMの保有をレッドラインと見ているフシがある。この認識のズレは、最悪の結果につながりかねません」

◆『週刊プレイボーイ』38号(9月4日発売)「北朝鮮危機『運命の9月9日』迫る!」では、在韓米国人「極秘退避マニュアル」の中身を韓国軍情報部門の関係者を取材。こちらも是非お読みください。

(写真/時事通信社)