「Thinkstock」より

写真拡大

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きなバンドは「ゼイトルズ」です。

 会社が大きくなると従業員も増えていきます。売り上げや利益が増えるのは望むところですが、モラルの低い従業員を雇用するリスクも増大します。従業員の不正は会社の責任で、発覚しても会社が責任を取らされます。

 数年前、東京都内の広告代理店に税務調査が入りました。都内に数十店舗を構えるドラッグストアから、新聞の折込チラシの案件を受注するようになってから売り上げは純増し、代表取締役は日々の業務より対外的な交渉、平たく言うと接待ですが、そちらを優先するようになり、キャッシュフローや利益率には関心を持たなくなりました。

 売り上げが伸び、利益率は下がり、接待交際費は肥大する。そのようなときに、税務調査はやってきます。

 外注費を確認すると、複数の会社に対し印刷代金を支払っていましたが、そのうちA社への支払いのみ、時の経過とともに増えていました。請求書を確認すると、内容は変わらないのに単価が上がったように思えます。

 社長に確認すると、そのことに気づいていなかったようで、担当者を呼んでくれました。担当者の役員Bは、3年ほどA社との取引を続けているそうで、単価の値上がりはA社の要求によるものだと言います。

「取引のある印刷業者はほかにもあるのだから替えればいい」と社長に指摘されましたが、「関係性もあるし、良い業者なので切ることはできなかった」と具体的な利点を明示しない答えが返ってきました。調査官は、単価がほかの取引先より高い割に、取引量が増え続けていることに疑問を持ちましたが、Bの腕を見て、それについて確認するのをやめました。Bは、ヴァシュロン・コンスタンタンの高級腕時計をしていたのです。

●役員の不正が判明

 調査官は、A社に反面調査に行くことにしました。A社が他社に出している請求書から単価を調べたところ、調査先への請求は3年前から2割ほど上がっていました。A社に理由を確認すると、「Bさんがその金額でいいと言った」と言うのです。総勘定元帳で経費を確認すると、半年に一回、B個人への支払いが確認できました。他社への請求書とBへの支払いがわかる元帳のコピーを取って反面調査を終えました。

 ここで反面調査の根拠条文の一部を抜粋します。

【国税通則法第74条の2】
「国税局は所得税、法人税に関する調査に必要があるときは、質問し、帳簿書類その他の物件を検査することができる」

 所得税の納税義務がある者は以下のとおりです。

・所得税の納税義務がある者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認められる者
・法人
・法人に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者

 後日、反面調査の結果を持って調査先に再び臨場しました。社長とBにA社の主張を伝えました。

 社長は「その金額でいい、とはどういうことだ」と詰め寄りますが、Bはのらりくらりとかわします。問答はしばらく続きましたが、社長が追及をあきらめ始めたので、Bの個人口座への支払いを証明する証拠を見せました。ここで事実を理解した社長は、怒髪天を衝くが如く、大声でわめきました。Bは観念して、割り増した単価の半分をリベートとして受け取っていたことを認めました。

 社長は、仕事を蔑ろにして遊興に傾いていたことを反省し、今後は従業員や収支の管理を徹底すると言いました。それでも、外注費のうちリベート分は経費を否認、役員給与に振り替えて源泉徴収の対象となります。役員給与は、定期同額給与や事前確定届出給与など、限定されたもののみが損金とされますので、リベートは全額が損金不算入となります。

【法人税法第34条(抜粋)】
「内国法人がその役員に対して支給する給与のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一  その支給時期が一定の期間ごとである給与で支給額が同額である給与
二  その役員の職務につき所定の時期に支給する旨の定めに基づいて支給する給与」

 その後、社長が損害賠償請求権を行使したのかどうかはわかりませんが、このように従業員の不正が税務調査によって発覚するケースは散見されます。この広告代理店にとっては、膿を出す良い機会となったのではないでしょうか。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)