ソニーヨーロッパの粂川滋社長(筆者撮影)

このところ本業であるエレクトロニクス事業の収益性を取り戻してきているソニーだが、ヨーロッパの数字を見ただけでも、その自信の裏付けとなるブランド力と収益力の向上を見て取ることができる。

世界最大級の家電見本市「IFA 2017」で年末に向けた新商品・主力商品を並べたソニーヨーロッパの粂川滋社長は「プレミアムシフト(高付加価値商品中心の事業モデル)が成功している」と胸を張る。

ソニーのグローバルにおける売り上げの約4分の1を支えるソニーヨーロッパは、伝統的にテレビおよびビデオ、オーディオ製品に強かったが、テレビ事業の落ち込みが激しく大きな赤字を計上するようになっていた。この状況を大きく変えたのは、前ソニーヨーロッパ社長の玉川勝氏だった。最悪だった2012年からどのように復活したかは、2015年のIFAでもレポートした

販売会社として当然やるべきことをやるーー。地道な努力で、ソニー商品が本来持っている実力を発揮させる下地を作ったことは、最大市場である米国にも繋がった。米国市場ではベストバイ/マグノリアと組んで売り上げを伸ばし、収益だけでなくソニーのブランドバリューを徐々に回復させていった。

「プレミアムシフト」を推進

あれから2年。ヨーロッパでのソニーはさらにプレミアムシフトを強く押し進めている。そしてそのことが収益性を高める結果に繋がっている。とりわけテレビ事業は好調で、2016年は日本市場の3倍を超える売り上げになった。ビデオ・オーディオ製品の売り上げも日本より多い。エレクトロニクス事業だけをみれば、ヨーロッパ市場は日本よりも売り上げ貢献の大きい地域である。

ソニーは平井一夫CEOになって2回目の中期計画最終年度を迎えているが、この中期計画で目標としている「営業利益5000億円以上、株主資本利益率(ROE)10%以上」を達成する上でも、ヨーロッパ市場の状況は重要なファクターだ。


プレミアム領域で高シェアを実現した(ソニーヨーロッパ作成資料を筆者が撮影)

ヨーロッパ市場におけるテレビの売り上げが好調な理由は、ここ数年、ソニーが取り組んできたプレミアムシフトが成功しているからだ。これは数字の上でも表れている。

ブランド別のテレビ実売平均単価を比較すると、ヨーロッパ全体の平均が450ユーロ程度なのに対してソニーは750ユーロ前後で安定して推移。これは直近のライバルであるサムスンの600ユーロ前後と比べても圧倒的に高い。

高単価のテレビが売れている

その理由が高価格帯でのシェアの高さだ。ソニーはテレビ売り上げの金額シェアでヨーロッパ全体の10%程度だが、55インチクラスのプレミアム市場(単価1400ユーロ超)で19%、60インチ以上のプレミアムクラス(単価2000ユーロ超)では実に23%のシェアを持つ。高級機になるほど利益率が高くなる。テレビは物理的に大きな商品でもあり、在庫や流通などハンドリングのコストも考慮すると収益性に対する貢献は計り知れない。

上記は主に液晶テレビを中心としたクラス分けにおけるビジネス概況だが、5000ユーロ超える高級機……すなわち有機EL(OLED)テレビにおいては、さらに顕著な数字が出ていた。ヨーロッパにおける5000ユーロ超テレビは台数ベースで全体の10%以下しか存在しなかったのが、ブラビアA1シリーズを投入後は一気に構成比が20%を越えた。その増分はまるまるブラビアA1シリーズの販売数。5000ユーロ以上の65インチモデルは60%、3000ユーロ以上の55インチモデルは70%という圧倒的な売り上げを示している。

こうしたプレミアムシフトの成功に加え、業界全体のトレンドとして、4Kテレビへの買い換え、55インチ以上の大型テレビへのシフトが進んだことで、プレミアム領域のテレビが活況を呈していることが、ソニーヨーロッパのテレビ事業拡大に大きく貢献したという。

テレビ事業の立ち直りに関しては、別途取材したソニービジュアルプロダクツの長尾和芳・企画マーケティング部門長も「ベストバイ/マグノリアと組んで高付加価値製品販売に取り組んでいる米国でも好調だ。さらに70インチ以上の市場が多い米国では、カスタムインストーラー(内装やオーディオシステムも含めて設計施工する業者)の強い支持を受けており、ハイエンドマーケットも押さえられている」と話していた。


有機ELテレビでも高額品で強い(ソニーヨーロッパ作成資料を筆者が撮影)

むろん、台数ベースのシェアは高くない。しかし、大規模な赤字を垂れ流していたテレビ事業がここまで持ち直し始めていた2年前の時点で、ここまで伸びしろがあるとは誰も予想していなかったのではないだろうか。

プレミアムシフトはカメラでも

ソニーヨーロッパにおける、もっとも顕著な改善例ということでテレビにフォーカスして紹介したが、こうしたプレミアムシフトは他の商品分野でも起きている。

ソニーが得意としてきたデジタルカメラ領域は、市場全体が縮小を続けているが、ここ数年はプレミアムコンパクトと言われるクラスでRXシリーズが安定してシェア上位だ。これに加えて、35ミリフルサイズセンサーを搭載するレンズ交換式カメラにおいて、ニコンを抜いて安定した2位の足場を築いただけでなく、キヤノンの背中さえ見えてきた。


A9が高い評価を得ている(ソニーヨーロッパ作成資料を筆者が撮影)

今年6月の数字では、キヤノン37.4%に対してソニーは31.8%。国ごとにみると、ドイツ、スペイン、オーストリアなどではキヤノンを逆転した。とりわけドイツでは42.1%のシェアを獲得し、キヤノンの30.5%に大差を付けている。

これはフルサイズセンサー搭載のフラッグシップミラーレス機「α9」を投入した効果が大きいが、実は写真専門店と共同でのイベントやマーケティング施策など、カメラコミュニティへのコミットを地道に続けてきたことが結果として表れたものだという。

粂川社長は「カメラのように趣味性の高いジャンルは、かならずシャワー効果がある。ハイエンドに魅力ある商品を投入し、存在感を示していくことでその下のクラスも売れ始めるため、今後もフルフレーム市場でのシェアを上げることに取り組んでいく」と話すが、ハイエンドのカメラ市場での売り上げ増加は周辺機器やレンズの売り上げという面でもプラスに回っていく。

たとえばα7シリーズとα5000シリーズを比較すると、本体購入後に関連商品を購入した金額には3倍の違いがあったという。α9の投入やフルサイズセンサー搭載機の販売施策、サポート体制強化などで収益性を高めていくとのことだ。

ヘッドホン市場でも

プロ向けカメラの市場ではキヤノン、ニコンの牙城はまだ強固だが、ヨーロッパ各国でのプロ向けサポート体制を順次整えていることや、直近のシェア動向を見る限り、今後はニコンに代わってキヤノンのライバルになっていく可能性が高いだろう。ヨーロッパ市場はミラーレス機の比率が日本よりも低かったが、この1年で30%から40%へと比率が急増。その背景にはαシリーズの好調がある。


ヘッドホン市場でも大きな変化が起きている(ソニーヨーロッパ作成資料を筆者が撮影)

高価格帯製品へのシフトという面では、ヘッドホン市場でも大きな変化が起きている。ヨーロッパ市場はゼンハイザー、AKGといったトップブランドの本拠地だが、その中にあって台数ベースのシェアは、これまでもナンバーワンを堅持してきた。

しかし高価格帯の製品に弱く金額ベースのシェアでは常にナンバー2。ところが昨年、高性能ノイズキャンセリングヘッドホンのMDR-1000Xを投入すると一気にシェアを伸ばし、今年6月、7月は売上金額でもナンバーワンになった。今年のIFAで、MDR-1000Xの後継機種と、その派生機種を2モデル投入したのは、この流れを拡大し、ヘッドホン/イヤホンジャンルでのプレミアムシフトを促すためだ。

今年、平井CEOは「エレクトロニクス事業の復活が目標達成のキーファクターだ」を繰り返し発言してきた。当初はその発言を受けとる側にも戸惑いはあった。なにしろ、エレクトロニクス事業はソニーの収益を圧迫する元凶と名指しされていたのは、ほんの2〜3年前のことだ。しかし、今やソニーの事業全体を回し、ブランド面の強化も図る強力な推進エンジンとなりつつある。その一端をソニーヨーロッパの数字は語っている。