地元の人気企業から公務員への転職が増えている(写真:kikuo / PIXTA)

優秀な若手人材が、公務員に転身していく


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地方のある金融機関で、新卒入社組の研修を依頼されたときのことです。地元でも抜群の人気を誇る企業ですから一流大学の卒業生がずらりと並んでおり、まさに地元のエリート集団という感じでした。それでも、研修をすすめていくと能力・意欲・ポテンシャルにばらつきがあることがわかってきました。

たとえば、研修中のグループワークでリーダーとして仕切れる人。逆に受け身で何も発言ができない人。地元に対する貢献をどのようにしていきたいのか、各個人が想いを語る場面で、心を込めて具体的なことを話せる人。まったく、他人ごとのように冷めている人。

あるいは、金融機関のおかれた現状における課題を分析させたところ、明確な分析のできる人と、わかりませんとあきらめる人。すでに違いが明らかにあると感じながら研修をすすめていきました。おそらく、配属後に1年もたてば大きな違いがでてくるに違いない……と思い、受講者で優秀だと感じた数名を選んで、その人物名を人事部に伝えておきました。はたして、その数名が翌年にはどのように活躍しているか? 気になり、1年後に人事部に問い合わせてみると……

「みなさん、転職してしまいました」

と回答が返ってきたのです。筆者は耳を疑いました。地元で有数の人気企業をわずか1年で辞めて、転職を決断するとは。社内でも優秀な人材として期待をされた状況であったはずです。どうしてなのか、そして、どこに転職してしまったのか? それを聞いたところ、全員が(地元の)公務員試験を受けて、役所に転職したとのこと。

ちなみに【優秀な若手人材が、地元の人気企業から公務員に第二新卒で転職】するケースは地方で増えているようで、筆者のところに人事部の悩みとして届くことが増えています。でも、どうして、優秀な人材の公務員への転職が起きているのでしょうか?

第二新卒とは正社員・契約社員として社会人経験のある人や、留学などの何かしらの理由で卒業後に就職活動を始めた人の就職活動のこと。地方公務員は、第二新卒での転職活動が基本的に誰でも可能です。ところが民間企業では大学を卒業してしまうと浪人ないしは就職のどちらでも応募が困難になる会社は少なくありません。

最近は第二新卒を積極的に採用する会社も増えていますが、逆に半数以上は(まだ)門戸を閉じています。つまり、学生時代の就職活動とは貴重な機会なのです。

取材したSさんは学生時代にアルバイトに熱中しすぎて、就職活動をないがしろにしてしまいました。結果として希望している会社への内定は出ることなく、就職先が決まらないままに大学を卒業。それでも、卒業後に応募できる会社があるはずと探してみれば、その数は大幅に限られていました。

特に第一希望であった業種は第二新卒の採用が非常に限られていました(こうした背景は過去の連載記事をご参照ください)。あるいは第二新卒での採用自体は行っているものの、新卒社員とは扱いを変えている会社があります。たとえば、新卒での導入研修は半年ですが、第二新卒は半分以下の期間。あるいは、新卒では同期入社で集まる会合が頻繁にあるのですが、そうした会合に第二新卒は呼ばれない。学生時代の就職活動が人材に与える影響がいかに大きいかを物語る話かもしれません。

キーワードは「本気の地方創生」

それにくらべて、公務員は第二新卒であることが大きな不利にはなりません。第二新卒の時期に公務員試験に合格したDさんは、日頃、新卒組と大きな違いを感じることはないとのこと。こうした背景から学生時代の就職活動で失敗したと感じたときの再チャレンジに公務員を選ぶ人が多いのかもしれません。ただ、それだけでもないようです。公務員としての仕事が魅力的と感じるから転職を決断するのではないでしょうか?

《将来、国家公務員だなんて言うな夢がないなあ》

は、宇多田ヒカルさんの「Keep Tryin'」という歌に出てくる歌詞。この歌詞を読んで、二度と聞きたくないとCDを捨てた人がいることが話題になりました。この歌に出てくる国家公務員とも少し違いますが、地方公務員の仕事内容に夢があると感じて転職を選ぶ人たちがいます。それはなぜか? キーワードは「本気の地方創生」ではないでしょうか。

取材したRさんは地元で人気の民間企業に1年勤務。それなりに周囲からは期待されていたようですが、公務員試験を受けて、地元の役所に転職。会社は「当社のほうが生涯年収は断然いいよ」などと待遇面の魅力を説明して、引き留めたようですが、意志が固く、転職したようです。

その理由を聞いたところ、本気で地域貢献をしたいからとのこと。民間企業に就職してみると、目の前の仕事をこなすことで精いっぱい。もともと地元にしたいと志望動機をかかげて入社。人事部も地域貢献をするために部門を立ち上げて積極的に行っていると説明をしてくれました。ちなみに大学生で地元就職を希望する学生の約2割が、地元に対する貢献が志望動機だといいます。

長男だから、友人が多いから、とさらに比率の高い回答は多数あります。ところが、個別に取材していくと、将来に対して明確なビジョンをもった意欲的な(地元志向の)学生ほど、地域貢献に対する意欲が高いことがわかります。

地元で就職したが、地域貢献を体感できない

冒頭に登場した金融機関の若手人材や首都圏の大学から地元に戻り、地元の活性化のためのNPOを立ち上げたリーダーなど。地域に残るなら自分が将来のために立ちたい。それができないのであれば、東京や世界での仕事を選びたいと語ってくれます。それだけ、地域の将来に不安を感じつつ、その変革を自分がかかわって実現したいとの思いがあるのでしょう。

そんな熱い思いがあって、Rさんも地元で就職したのでしょう。ところが、入社してみると職場で地域貢献を体感することは困難な状態。配属された営業部門は売り上げ目標の実現のため、厳しい業績確認に追われる日々。休日も地元で行われるボランティア活動やイベントに参加する同僚は皆無。さらに、有給をつかって地元のボランティアに参加しようとしたところ、

「もっと、仕事を覚えてから行うことでしょ」

と有給取得を暗に否定されました。ちなみにRさんの会社で地域貢献の仕事にかかわっているのは社長の親族関係と、定年間近の社員数名。だとすれば、Rさんが会社で地域貢献にかかわれるのは相当に先、ないしは難しいということになります。

この現実を理解したので、すぐに退職を決意、公務員試験の勉強にとりかかったようです。そうして、翌年には合格。現在は地元の公務員としてさまざまな地域貢献活動に参加。有意義な時間を過ごしているようです。

今は、若者たちの間で情報共有が早い時代です。だとすれば、今はそこまで深刻な状況には直面していない人気の民間企業も今後は公務員への人材流失を覚悟しなければいけないのかもしれません。では、どうしたらいいのでしょうか?

最近は「地域に飛びだす公務員」という言葉をよく耳にします。公務員としての仕事に加えて、1人の地域住民として、社会貢献活動、地域づくり活動、自治会、消防団などの活動に参画すること。

こうした取り組みに役所も前向きに取り組んでいます。たとえば、ボランティア休暇の取得の推奨など。先述したとおり、地域貢献は地方でこれから働こうと考える若手人材の重要な動機になっています。だとすれば、民間企業も役所の取り組みを「役所だからできること」と決めつけずに取り組んでいかないと、優秀な人材は採用できても逃げていくことになりかねません。

たとえば、横浜に本社を構えるファンケルは、ボランティア休暇を制度化して、積極的に推奨しています。自社主催のプロゴルフツアー大会では外部に委託せず、全社員と地元ボランティアでイベントを運営するなど、地域貢献に社員が参加できる機会を提供しています。同様に規模の大小にかかわりなく、地域貢献に手間と時間を割いている地方企業は徐々に増えています。

地域に飛び出す機会を増やす

さて、公務員だけでなく、民間企業の社員たちも地域に飛び出す機会を増やすことで、人材の流出はもう少し防げるようになるはずです。これらが、働き方改革につながり、最終的には生産性の向上に寄与することも期待できます。これまでの会社のブランド力に頼りすぎずに、地元で働くことの意義を高めるための取り組みを民間企業(特に人気企業)は行っていただきたいと願います。