経済ニュースは会計力を高める格好の材料だ(写真:Getty Images)

今年3月の発売以降、大ブームを巻き起こしている「ニンテンドースイッチ」。7月に発表された任天堂の2017年度第1四半期決算から、スイッチの収益貢献が始まっている。

同期の売上高は1540億円と前年同期比で148%の大幅増。営業利益は162億円と、51億円の赤字だった前年同期から黒字転換を果たした。すでにスイッチ効果で任天堂の業績が急浮上していることがわかる。

ただし、よくよく見ると、任天堂の営業利益率は約10%。同じゲーム業界で、日本最大のスマートフォンゲーム「モンスターストライク」などを手掛けるミクシィの営業利益率40%と比べると、大きく見劣りする。なぜか――。

ハードはなるべく安く売る

両社の損益計算書から費用構成をグラフ化してみるとわかる。週刊東洋経済9月4日発売号(9月9日号)にも掲載した。同号では『本物の会計力』を特集。経済ニュースから、企業の決算書を深読みする方法を解説している。

これによると、ミクシィに比べ、任天堂は売上原価の比率がぐっと高い。なぜ、ここまで原価率が異なるか。それは当然ながら、ビジネスモデルの違いにある。


ミクシィの場合、モンストをスマホアプリとして提供。ユーザーへのアプリ内のアイテム課金が売り上げにつながる。

アプリなので、ゲーム機本体(ハード)の製造原価は不要。課金に比例してかかる費用として最も大きなものは、アップルやグーグルなどのプラットフォームに支払う手数料だ。手数料は課金額の約3割と言われており、同社の決算説明会資料によると、手数料約138億円を「決済手数料」として「販売費および一般管理費」に計上している。

この手数料を除いた、アプリ課金額の増加分は、ほとんどそのまま利益の増加に直結する。ミクシィはそこから自社の開発費、人件費などを差し引いても、4割もの営業利益が残る計算となる。

一方の任天堂は、ハードとゲームソフト(ソフト)の両方を販売。一般的に、ハード販売の際、可能なかぎり安価で売ってユーザー数を増やし、ソフトの売り上げ増につなげようとする。

スイッチの場合も同様で、そのぶんハードの製造原価がかさみ、利益を下押ししてしまう。右表のように、任天堂の売上原価率は5割超と、1割超のミクシィと大きく差がつく理由はここにある。

手取りはソフト1本で「1300円程度」

ただ、スイッチの収益効果は実はここから。ゲーム業界では、ハードの普及にさえ成功すれば、利益率が急改善に向かう傾向がある。それはハードに比べ、収益性の高いソフトの販売が本格化することに加え、他のソフトメーカーが積極的に、自社のハードからソフトを出すようになるからだ。


悲観的な下馬評を覆し、世界的ヒットとなった「ニンテンドースイッチ」(撮影:田所 千代美)

任天堂の場合、他社のスイッチのソフトの売り上げが、どのように収益還元されるのか。まず他社のソフトメーカーは、任天堂にカートリッジの生産を委託し、任天堂はそれにロイヤリティなどを上乗せした価格で、ソフトメーカーに販売する。

その金額は、ハードの種類や販売本数、ソフト価格によって左右され、任天堂は決算で開示を行っていない。あるソフトメーカーの幹部は「一般的に小売価格6800円のソフト1本につき、1300円程度がハードメーカーの手取りになる」と話す。これが任天堂にとっては収益源となる。


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実際、大ヒットハードの「Wii」と「ニンテンドーDS」の普及が進んだ2008年度、任天堂は売上高1兆8386億円に対し、営業利益5552億円と、30%を超える営業利益率を実現していた。スイッチがこのままの勢いで売れ続ければ、ハードに加え、ソフトの収益が乗っかり、任天堂にとっては「金の卵」となる。

任天堂とミクシィの決算書には、このようにビジネスモデルによる収益還元のタイミングの差も、如実に表われる。任天堂にとっては2018年度以降が、本格的なスイッチ投資の“収穫期”となりそうだ。 

『週刊東洋経済』9月4日発売号(9月9日号)の特集は「本物の会計力」です。